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里帰り

蒼と杏奈の第一子が生まれたと聞き、延び延びになっていた里帰りが許されることになった。

もう、前に帰ってから一年以上になるのだ。

維心も、許さないわけにはいかなかった。それに、コンドルの城からもレオナートが祝いにやって来るというので、維心も会っておきたいと密かに向かうことにしたのだ。

里帰りの初日から維心が来るというのに十六夜は良い顔をしなかったが、今回は特別なので、どうせ維心はひと月は居られなくて、二週間で帰るのだからと説得し、こちらも何とか許してくれた。

めんどくさい事になってしまって杏奈に気を遣わせてはと案じていた維月は、それでホッとした。

蒼は、宮を閉じているので皇子のお披露目は出来ないので、箔炎と炎嘉、レオナート、炎耀と箔真、それに志心と焔だけを呼び、いつかはどちらかの鷹の宮へと預けねばならない皇子なので、ひっそりと披露目をすることにした。

というもの、鷹は鷹しか生まないように、やはり杏奈もコンドルしか生まなかったのだ。

種族が違うのに、月の宮で長く育てるわけには行かなかったのだ。

そうして、月の宮で一堂に会した上位の宮の面々は、密かにというには豪華すぎる王達の集まりになっていた。

「だから龍王が来たら大層なのだというのに。」炎嘉が、到着口で会った維心に言った。「なぜに来るのよ。我は同族であるから来るがの。主は違うではないか。」

維心は、ブスッとしたまま言った。

「蒼は維月の里の王で、その子が生まれたのであるから。別に我が来ても良いではないか。」

箔炎が、苦笑した。

「物は言いようであるの。」と、炎嘉をせっついた。「参ろうぞ。どうせこれにも来てもらわねばならぬからの。いつかはコンドルとも話しておかねばならぬだろうが。我らは話しておるが、こやつは一度も城へ来ておらぬから。良い機会ではないか。」

炎嘉は、それを聞いてむすっとした顔をしたが、黙って足を進めた。維心は、背後に居る維月に手を差し出して、微笑みかけた。

「さあ、参ろうか。主も会いたいと申しておった杏奈に会えるぞ。」

維月は、あれぐらいなら維心は気にしないなあ、と思いながら、維心に微笑み返した。

「はい。御子は蒼には珍しく男の子であったとか…大変に楽しみですわ。」

そうして、二人は不機嫌な炎嘉の後ろを、微笑み合いながら歩いて行った。


数が少ないので応接間で待っていた蒼は、一同が到着したのを知っていたが、今回は迎えに出ていなかった。

それを気にしていたのだが、お忍びで来ているし、出迎えまで良い、と言われていたので、わざと出なかったのだ。

一同が入って来るのが見えると、杏奈は赤子を抱いたまま、深々と頭を下げた。その頭の下げ方は、間違いなくこちらの礼儀と同じ様だった。

「よくいらしてくださいました。」蒼は、皆に向かって微笑みながら言った。「こちらがオレの妃の杏奈と、皇子の納弥(いりや)です。こちらでも、あちらでも同じ発音で、有る名にしました。レオニートにはもう目通りしておって、場を外しておりますが、今呼びにやったので。」

炎嘉と箔炎と焔が、真側に寄ってじーっと納弥を見つめた。

「ほほう、やっぱり鷹よ。のう箔炎よ。」

炎嘉が言うと、箔炎は頷く。

「誠にな。コンドルと鷹はまあ同じであるから。焔も同族であるぞ?似ておろうが。」

焔は、うんうんと頷いて感心したように言った。

「誠になあ。あちらには鷲は居らぬのかの。それにしても愛らしい子よ。」

杏奈は、気の大きな神達が一気に寄って来て腕に居る皇子を覗き込むので、退くわけにも行かずにおろおろしている。

蒼は、見兼ねて納弥を抱きとった。

「さあ、こちらで。あまり泣かない子で、こうして起きているのに回りをじっと見て何かを考えているように見えるぐらいなんです。」

確かに、納弥は起きているのだが、泣きもせずに赤い目を開いて王達をじっと見つめ返していた。箔炎は何度も頷いた。

「さもあろうよ。鷹の王族なのだぞ?賢しいのよ。分かっておるのだ。」

炎嘉も、箔炎に何度も頷き返した。

「そうよ、我らも赤子の頃から記憶があるものの。数か月でもう言葉を口にしたわ。これもきっとそうよ。」

手前みそな事だが、蒼は笑って言った。

「そうでしょうか。それなら良いのですが。」

維月が、そっと蒼に寄って納弥を覗いた。本当に、愛らしい顔をしている。杏奈にそっくりな様子だった。

「まあ…愛らしいこと。維心様、御覧になってくださいませ。誠、鷹の気が致しますわ。杏奈様にはお手柄でありますこと。」

杏奈が、あちらで嬉し気に微笑む。維心は、維月に言われるままに納弥の顔を見た。

すると、納弥はハッとしたように維心を見つめて、それは興味深そうにじーっと見つめた。蒼が、驚いたように言った。

「あれ?維心様には興味があるんだろうか。めっちゃ見てますけど。」

炎嘉が、フンと鼻を鳴らした。

「そやつは赤子に興味がないのに、赤子にもてる。なぜなら、気が最強に大きいからよ。赤子はそれに媚びることを生まれながらに知っておるのだ。守ってもらうためにな。」

維心は、顔をしかめた。

「我は父ではないから、守って欲しいのなら父に媚びるが良いぞ。」維心は言った。「蒼、しっかり父親が誰かを教えておけ。我は誰からも誤解されるのは好まぬ。」

維月に誤解されても困るし。

維心が思ってそう言うと、蒼は苦笑した。

「大丈夫ですよ。毎日居られるわけではないんですし。」と、納弥に言った。「あれは、龍王様だよ、納弥。こっちが月の維月。十六夜が毎日嫌ほど名前言ってるからもしかしたら覚えたかもしれないなあ。」

維月は、微笑んで納弥の頭をそっと撫でた。

「まあ。十六夜ったら…私が維月よ。納弥、よろしくね。」

納弥は、今度は維月の顔をじーっと見つめた。そうしてにこっと笑った。

「まあああああ」維月は、悶絶して身悶えした。「なんて可愛らしいのかしら!蒼、私にも抱かせて。」

蒼は、本当に子どもが好きだな、と思いながら、維月に納弥を渡す。維月は、納弥を腕に抱いて、本当に嬉しそうにした。

「ああ、赤子は愛らしいわ。誠に、また子供が欲しくなりそうですわ。」

すると、維心がフッと微笑んだ。

「良いぞ?また作るか。確かにまた子供が居っても良いかもしれぬなあ。」

「もう良いわ。」焔が顔をしかめた。「そうポンポン作るでない、女であったらまた嫁ぎ先で悩むのだぞ?男であったら育てるのに苦労するし。」

維心は、焔を睨んだ。

「うるさいわ。こちらの家族計画に口を出すでないわ。」

すると、扉が開いて、レオニートが急いで入って来た。どうやら、図書館の方に行っていたようだったが、慌てて戻って来たのだろう。

「申し訳ない。こちらの書庫があると聞いて、そちらへ参っておった。」と、炎嘉と箔炎、志心に頭を下げてから、面識のない維心と向き合った。「龍王殿か。」

維心は、頷く。

「如何にも、我が龍王、維心ぞ。こちらが我の正妃の維月。こちらは王妃の里であるから、此度は祝いに参ったのだ。」

レオニートは、頭を下げる必要もないのに、頭を下げた。

「我がレオニートでありまする。この度は姉の子の祝いにわざわざご足労頂き、感謝し申す。」

炎耀が、苦笑した。

「頭を下げる必要はないのだ。」

炎嘉も、何度も頷いて言った。

「そうだぞ、たかが龍族の王なのだから、頭を下げる必要はないのだ。我らと同じよ。ただ、気がやたら大きいだけで。」

維心は、炎嘉を睨んだ。

「うるさいぞ、炎嘉。」

するとそこへ、志心が遅れてやって来た。何やら皆が立ったまま話しているので一瞬立ち止まったが、蒼に気付いてそちらへ歩み寄って来た。

「何ぞ、皆で立ったまま。」と、維月に抱かれる子を見た。「ほほう、なかなかに愛らしいではないか。」

蒼は、微笑んで答えた。

「わざわざいらして頂きましてありがとうございます。納弥と名付けました。」

志心は、微笑み返した。

「良い名よ。」

それから、子は乳母に連れて行かれて、蒼は杏奈と並んで座り、他の王達は丸く円を描いて座った。

会合に出なくなっていた蒼には、本当に久しぶりに皆が一同に介する場に同席する機会だった。

炎嘉が言う。

「それにしてもよう蒼に娶ってもらったことよ、レオニート。娘が居ったらまず蒼にと、皆が考えるのにの。こやつはもう、先の妃達を亡くしてこのかた、誰も寄せ付けずにいたゆえなあ。」

レオニートは、緊張気味に頷いた。

「は。確かにそのように。」

炎耀が、炎嘉にまでかしこまっているレオニートに苦笑した。

「また主は。なぜにそのようにかしこまっておるのだ。」

箔炎が、頷く。

「そうよ。我にもそこまで構えぬくせに。」

焔が、維心をチラと見て言った。

「こやつよこやつ。気が大きすぎるのだ、圧迫感は慣れぬとつらいしの。我らは慣れておるが。」

維心は顔をしかめた。

「これでも抑えておるわ。しようがなかろうが、生まれ持っておるのだから。我だって好きでこうなのではない。」

皆が恐れるので、幼い頃にはこんなもの無ければ良いのにと思ったぐらいだ。

維月が言った。

「それも含めて維心様であられますから。私はその気に守られておるのだと安心致しますわ。」

維月は知っているのだ。

維心は微笑んだ。

「主を守るために皆に恐れられるのなら容易いことよ。」

炎嘉が、面白くなさげに言った。

「そうよな、維月を守るためか。まあまとめて地上も守ってくれるゆえそれでも良いわ。」

志心が、話題を変えようと言った。

「して、レオニートは学びが進んでおるか?炎耀と箔真が参ってもう一年以上になろう。」

レオニートは、それを聞いてハッと顔を上げ、そして俯いた。

「その…考え方などを教えてもらっておるのだが、我にはまだ、相手の行動の裏まで読む力が無くて。いつも、二人に助けられておる。父上なら…といつも考えるのだが…。」

父王があまりに早く死んでしまったゆえに。

回りがしんみりとした空気になった。もしかしたらこの中の誰かが討ったのかもしれない。維心が一番確率が高い。鷹を相手に蹴散らすなど、維心ぐらいしか居ないからだ。

「…我かも知れぬな。」皆の気持ちを察したように、維心は言った。「主の父王を討ったのは。あの時、数が多かったゆえ、全てを覚えておるわけではない。龍身で一気に殲滅したしの。王らしいものは残したのだが、回りを庇ったと申すならあり得る事よ。」

レオニートは、驚いたように維心を見つめていたが、ふるふると唇を震わせた。確かに父は…筆頭軍神を庇ったのだ。

「…戦でのことなので」レオニートは、震える唇で何とか言った。「致し方ないことかと…。」

それはそうなのだが、感情的には割り切れないだろう。

維月が案じるように維心を見ると、維心はレオニートを見たまま、言った。

「主、父に会いたいか。」

レオニートは、え、と顔を上げる。杏奈も驚いた顔を維心に向けていた。

「それは…しかし、そのようなこと…。」

死なねば無理だろう。

殺されるのかもしれない、とレオニートが答えに窮していると、炎嘉が言った。

「案じるな。こやつは命を司り、黄泉への門を開く事が出来る。ゆえに問うておるのだ。父を呼び出してやろうかとの。」

レオニートは、目を丸くした。

「そんな…そんなことが出来るのですか?」

維心は頷いた。

「出来る。」と、立ち上がった。見ておるが良い。」

そうして維心は、部屋の隅に向けて気を放った。

ドンという音がして地響きが起こり、そうしてそこには、光り輝く黄泉への門が開いた。

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