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懸念

ヴェネジクトは、その報告はザハールから聞いた。

ザハールはもう、壮年となっていたが、まだ筆頭軍神としてヴェネジクトに仕えていた。一時は王座に就いたザハールだったが、ほんの50年前にこのヴェネジクトに王座を譲り、そうしてその後は、ずっとヴェネジクトの補佐をしていた。

元より王座には興味がなく、ヴェネジクトが育つまでと預かっていた王座だったので、ザハールはこれで満足だった。

そのヴェネジクトは、今、目の前で眉間に皺を寄せてザハールの報告を聞いて考え込んでいた。

無理もない、島との交流は、ドラゴンの特権のようになっていたのだ。

維心が最初にこちらへ渡って来た時から、こちらの責任者はドラゴンだとヴァルラムが言い、それからずっとあちらとの話し合いはドラゴンが主軸になって進めていたからだ。

今回の大会合の件にしても、あちらの維心から打診があったのも、この城だった。こちらの神選はこちらに任されていて、ドラゴンが主導権を握ってあちらとの交流をした。

だが、コンドルは自らの同族をあちらで見つけ、それらと交流することに成功したらしい。

レオニートがまだ若く何も知らない王だと思ったようで、鳥の宮からと鷹の宮から、それぞれに皇子と軍神達がやって来て、しっかりと教えているようだ。

そんなに簡単に懇意になれるものなのかと思ったが、同族という通り血の繋がりは大きかったらしい。

炎嘉も箔炎も時々に訪ねて来ていて、今ではあちらの方が島との交流が活発なぐらいだった。

ドラゴンは、どちらかというとあちらの龍の王である維心とやり取りがある。

島を統治しているのが維心なので、そこを押さえておけば問題ないと思っていたのだが、維心はあまり誰かとなれ合うという事が無い王で、事務的なやり取り以外は全く交流はなかった。

こちらから宴や催しに誘っても、簡単には宮を出て来ることが無い王であるらしく、滅多に首を縦には振らなかった。

来ると言っても、大体が皇子か、臣下だった。

取り付く島もない感じなのだが、炎嘉や箔炎は違うらしく、それは和気あいあいと城で鳥、鷹、コンドルが入り乱れて過ごしているらしかった。

こちらには来ないのにと、文句を言うにもこちらと鳥の接点はない。

あちらはただ、同族同士仲良くしているだけだと言われたら、こちらが馬鹿を見るのだ。

ヴェネジクトは、息をついた。

「…コンドルは面倒なことよ。おとなしくしておったし、滅多に逆らうこともないゆえ、放置しておったがレオニートのヤツは若いというところを逆手に取って、あちらの同情を引いたのか。炎嘉は維心の数少ない友だと聞いておる。あれが言うたら大抵の事は龍王でも聞くのだとか。そんな王と同族だと交流が進めば、あれは図に乗って何をして来る事か。」

ザハールは、困ったようにヴェネジクトを見上げた。

「しかしながら王、レオニート様は特にこちらに叛意など無い様子。あちらは穏やかな種族であって、これまでも戦になったことはありませぬ。こちらが攻め入っても、あちらが話し合いで事を決めたほど。ドラゴンの統治には口を出さぬと取り決めておりまするし、今更何もして来ぬかと。」

ヴェネジクトは、キッとザハールを見た。

「主は甘いぞ。今のドラゴンがどれほど弱体化しておるか知っておろう。対してコンドルは、回りの城からの神望も厚く、城自体の力も強い。コンドルとドラゴンの気の大きさが、ほとんど変わらぬのを知っておろう。」

ザハールは、下を向いた。レオニートは、成人していなくてもあの気の大きさだ。ヴェネジクトと比べたら、どうもあちらの方が大きく育ちそうな気配はする。

その上に、島の鷹と鳥と同族だと意識を高め、ああして後ろ盾を得てしまったのなら、こちらが勝てる見込みが無くなってしまうだろう。

「確かに…しかし、それならばこれまで通りコンドルとは不干渉を続け、こちらは周りの城を取り込む方向で動いて行った方が良いのではないかと思うのですが。」

もはや鳥や鷹をコンドルから引き離すのは無理だろう。

ザハールはそう思ったのだが、ヴェネジクトはどうも、レオニートに対して対抗意識が芽生えているようだった。最初は子供だと一笑に付していたのに、育って来た後にコンドル特有の大きな気をまとうようになり、まだ成人もしていない今、自分の気に並ぶどころか追い越す勢いの気を持っている。

それが勘に障るのか知らないが、どうもレオニートを怒らせて、相手が憤りながらも我慢している様を見るのを楽しんでいるようにも見えた。

その点においては、極北のイゴールやアルファンスから苦情があった。あの二人は、レオニートの父王の時からコンドルとは懇意であったらしく、ドラゴンがコンドルをそんな風に扱うのに許すことが出来ぬ、と大会合の後からあまりこちらに接して来なくなっていた。

やっと少しずつ構築されて来た戦の後の勢力図が、それでまた乱れる可能性があるので、ザハールとしてももう少し、うまくやって欲しいと思っていた。

ヴェネジクトは、イライラと横を向いて、言った。

「…分かっておるわ。だが、レオニートが大したことも無い癖に、ただコンドルの王族だというだけで大きな力を持つというのが腹が立つのだ。その上、あちらの王達の後ろ盾まで手にするとか。勢い、回りにそそのかされてこちらへもと、危惧しておるのは間違っておると申すか。」

ザハールは、困ってヴェネジクトを見返した。子供ではないのだが、しかし政治における苦労はまだしていないので、考え方が子供のように感じた。レオニートの生まれ持ったものに、嫉妬しているように見える。

とはいえ、ヴェネジクトもかなりの力を継いで生まれているのだ。

「ヴェネジクト様、ですが我が調べて参ったところによると、あちらでは政務の基本などを共に学んでおるぐらいで、レオニート様にはこちらにどうのというお気持ちは無いように見受けられまする。この上は、こちらからも特に不干渉のままお茶を濁して、その間に力をつける方が良いのです。今は、どちらにしてもこちらが不利なのです。」

ヴェネジクトは、もっともな事に黙った。今、あちらと小競り合いなどしたら面倒な事になるのは、ヴェネジクトも分かっていた。

分かっていたのだが、気に入らないのだ。

「…分かった。ならば放って置くとして、次の大会合ぐらいまでには、いくらか回りの城も懐柔しておきたいと思うておる。策を考えよ。」

ザハールは、ホッとして頭を下げた。

「は!」

次の大会合は、七年後だった。


炎嘉は、蒼を訪ねていた。

というのも、炎耀が帰って来て言うには、箔真や炎耀自身が娶っても良いかというほど、アンゲリーナとは癒し系の美しい皇女であったらしい。

だが、自分達ではあまりに哀れに思うので、出来たら蒼に娶ってもらえないか、と言うのだ。

すっかり娘を案じる父のようになっている炎耀に、炎嘉もこれは偽りではない、と思っていた。

親の心地になると、やはり蒼が一番良いのだ。

何しろ、炎嘉の末の娘であった華鈴は、蒼に老いて尚大切にされ、そして幸福に逝った。あんな王ははっきり言って神世には少ないのだ。炎嘉は、なので華鈴は蒼に娶られて本当に良かったと思ったものだった。

なので、良い嫁ぎ先と言われたら、蒼しか考えられなかった。

蒼は、渋い顔をしてそれを聞いていたが、炎嘉も申し訳なさげに蒼にとつとつと頼むので、とても断れる雰囲気ではなかった。

「…アンゲリーナ殿が出来た皇女であるのは、本当なのだと分かりました。でも、会ったことがないので…確かに華鈴だって政略結婚で婚姻の夜にいきなり顔を見たんですけど…オレ、自信がないんでふよ。みんなはそうやって期待してくださるけど、華鈴はとっても良い皇女でしたから。オレはそんなに出来た男じゃないし。わがままだったりしたら放置してしまうかもしれません。大丈夫でしょうか。」

炎嘉は、それには困った顔をした。そんなことは、炎嘉にも分からないからだ。

「主の好みが分からぬから我も答えようがないが、しかし炎耀があれほど申すのだからそれなりに良い皇女なのだと思う。華鈴は前世の我の皇女で、鳥の王族として育ったし、あちらも同族であるから同じようなものだとは思う。とりあえず、一度会うてみたらどうか?それで思うようでなければ断れば良いから。炎耀も箔真も、己が娶っても良いと申しておるのだ。だが、あれらは王にはならぬだろう。他に妃が二人居るしな。だから己らでは相手が不憫だと思うておるのだ。主が駄目ならあちらもこの、どちらかに決めようし。気軽に参らぬか。」

蒼は、炎嘉にもこれでもかと世話になっているので、これ以上断る理由も見つからなかった。

なので、仕方なく頷いた。

「…では、一度会いに参りましょう。」蒼は、炎嘉の顔を立てねばと、頷いた。「日を決めてくだされば。」

炎嘉は、目に見えてホッとしたような顔をした。

「おお、誠か。ならば、我も共に。我も何度かあちらへ参っておるが、確かに見目は麗しい皇女であったのだ。では…3日後。迎えに参るゆえ。」

蒼は、もう観念して頷いた。

「はい。では、お待ちしております。」

娶る事にならないとは思うけど。

蒼は思いながら、満足げに帰って行く炎嘉を見送ったのだった。

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