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弱小魂のスピラーレ〜社畜がビルから飛び降り転生後、目覚めたらそこは異世界でした〜  作者: 花見遊山
プロローグ〜旅路は夢と仲間と共に始めたい〜
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プロローグ9話『初めての魔力供給』

誤字脱字の修正、いろいろ加筆等ご要望あれば気軽にどうぞ

見知らぬ部屋で、男女がベッドの上で無言で見つめ合っている。


1人は絶望のあまり命を投げ出しここまで流れ着き、1人は理由はわからないが世を彷徨う幽霊。

なんとも普通とは言い難い2人である。


「で、では…」


「お、おう」


シェリーが目を閉じる。

可愛い、可愛い。すっごく可愛い。


いや、待て待て待て待て。

俺は成人だぞ?8歳年下にこんな感情抱くのは間違っている。


「その、心の準備させてくれないか?」


「え、ええ」


 初夜の夫婦だろうか。そのレベルで何もかもがぎこちない。


 そもそも、コウタは異性の知り合いが殆どいなかった。

 こういった経験は慣れているどころか初めて、心臓の音が身体に伝わるほど緊張している。


「…」


 落ち着け、カームダウンだカームダウン。

 そう、パパッと済ませてしまえばいいんだ。


「…あの、まだですの?」


 まだですの?じゃねえよ!こちとら緊張して胸が張り裂けるってレベルなんだよ!


…ええい、ままよ!


「わりい、今やる」


 急接近し、口づけをする。トゥマシェリー?トゥマシェリー…。


「ん、んん?」


 こんな状況下に置かれると、変に冷静になるもんだ。

 そのおかげで気づけたのだが、シェリーに触れられている。

 ってか、幽霊ってお触りできるのか?


「…っぷはあ!…はぁ、はぁ…」


 艶かしいシェリーの唇の感触が、コウタの脳裏と唇に焼き付く。


 訪れた少しの静寂、それを破ったのはシェリーだった。


「コウタさまも…初めてでして?」


 顔を真っ赤にしながら、目を合わせないで喋るシェリー。

 見た目通り生前は、きっと清楚なお嬢様だったのだろう。


「…うるせー。んで、どうなんだ。魔力は補給できたのか?」


「ええ、完璧ですわ!これでなんとか消滅せずに済みましたの」


「は?消滅!?そんな危機的状況だったのかよ」


「ええ、霊体とは魔力そのものですの、だから、魔力が無くなれば霊体も消えてしまいます。ある程度は霊体でも自給自足できますから、普通に過ごす分には消える心配は基本は無いのですけど…」


「ああ、なるほど。あの技を使ったからその自給自足の範囲をオーバーしちゃったわけか」


 元いた世界では、幾度となく幽霊になりたいと願ったものだ。理由は簡単、あのクソ上司を祟ることができるから。


 だが、幽霊には幽霊なりの苦労があることを初めて知った。自由に見えてその実、意外と制約が多いらしい。


「あー、あとよ。1つ気になったことがあるんだが。俺、なんでお前に触れられるんだ?幽霊ってすり抜けるもんじゃないのか?」


「触れたり見ることができるのは【癒しの誓約】か、そのペンダントのおかげですわね。それはわたくしの…大切な大切な宝物ですから」


 流星のように落ちてきたこのペンダントを見つけ、付けた時からシェリーとの出会いが始まった。


 理由はわからないが、このペンダントはシェリーにとってとても重要なアイテムのようだ。


「なんで流れ星と一緒に落ちてきたんだろうな、これ。てか、そんな大事な物俺が付けてて良いのか?返して欲しけりゃ返すけどさ」


「いいえ、とんでもないわ!そのペンダントがコウタさまを選んだ、その事実は確かですから。きっと、あなたが持つべきなのよ。だって、やっとわたくしと居てくれる方に出逢わせてくれたのですから!」


 まあ、幸せそうで何よりだが。

 やはりこのペンダントは何か謂れのある逸品のようだ、一目惚れした自分の目に狂いは無かったと、どこか誇らしくなる。


 もちろん、シェリーが返してと言えば返すけどな!きっと絶対名残惜しい別れになるだろうけど!


「そう、″これ″をつけられる人なんて、いませんでしたから」


「何でだ?こんな綺麗なペンダント、道端に落ちてたら誰もが取り合うと思うぞ」


「うふふ、そうですわね。たくさんの人を魅了して止まない。みんな、このペンダントのために何もかも捨てて争ってしまう。だから、このペンダントは怒ってしまうの」


「怒るって…じゃあ俺なんてとっくに怒られてんじゃん。俺だって、魅了されて思わずこれを手に取ったわけだしさ」


 何回でも言おう。

 ありゃ、完全に一目惚れだった。


 装飾品に基本的に興味がない俺が、その輝きに目を奪われた。


「うふふ、このペンダントはあなたをとても歓迎しているみたい。ほら、優しく光ってます」


「持ち主を選ぶペンダントねえ。普通人と物との関係性は逆だろう、なんだか不思議だ」


「【癒しの誓約】は日常的には絶対に使える技ではありませんし、使うには対象の許可が必要。そして、このペンダントは人を選んでしまう…この意味、分かりまして?」


「…そういうことか」


 【癒しの誓約】を交わそうにも、対象がシェリーを視認、そして許可をしなくてはならない。あと、使わざるを得ない(・・・・・・・・)に遭遇しなくてはならないし、大技すぎて魔力を供給してもらわなければ、霊体のシェリーは消滅してしまう。


 ハードルもリスクも高過ぎる。正直言って、現実的な方法ではない。


 よって、シェリーが誰かと交流するには、消去法的にペンダントに認められる必要がある。


 しかし、このペンダントは相当な堅物なようで、そう易々と人を認めたりしない。


 ってことは…


「ずっと独りだったってことかよ。だから俺と話してた時あんなに嬉しそうだったのか…」


「ふふ、今も嬉しいですわ。すごく嬉しい!独りぼっちは辛いのよ?誰とも触れられないし、誰の温もりも感じない。みんながみんな、わたくしを通り抜けていきますの。でも、今は違いますわ。身体の温もりは感じられませんけども…心はあったかいわ」


「…」


 幽霊でこそなかったが、共感できる点があることは確かだった。


 人という生き物は、他者から温もりを感じ取ることで心の平常を保つことができる。


 心が平常でないと、人は人でなくなってしまう。そして、あの時あの世界で、コウタもとい幸多は自らの命を絶ったのであった。


 この齢16の女の子はどうだったのだろう。きっと、きっと、この子が過ごしてた世界はどこまでも冷たくて、どこまでも果てがなくて、救いが無かったのだと思う。


 朝も昼も夕方も、そして暗い夜もずっと独りで過ごしてきたんだろう。具体的な年月は知らないが。


「…今何時だ?」


「黒刻の9時ですわ、お外もまだ暗いですわね」


 慣れないワードが出てきた。黒刻、さしずめ午後ってとこか?

 なら、今は夜の9時ってことか。


「ここは、宿屋なのか?」


「ええ。コウタさまが倒れた後、街の皆さまが近場の宿屋まで運んでくれましたの。そして、町のお医者さまがいらっしゃって容態を見て、病院に運ぶまでも無いと診断されたのでここでお眠りしてましたのよ…ってコウタさま!?」


「俺がこの世界で生きている限り、俺がお前の孤独を殺してやる。だから、お前も俺の孤独を…殺してくれよな」


 気づいたら、このお嬢さんを抱きしめていた。

 本当なら温もりも感じることもできない幽霊という存在なのに、はっきりとそれを感じる。いや、感じ取ってやる。


 匂いすらも感じる。でも、本来ならば聴こえていたであろう鼓動だけは感じることができなかった。


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