プロローグ7話『百戦錬磨の勇神』
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剣を手にした瞬間、場の空気が変わった。
生まれて初めて剣を握る。
そのはずなのに、何故かずっと昔からこういう武器を使って、覇道を突き進んできたように錯覚してしまう。
戦闘の″せ″の字も知らない自分に、そう思わせるだなんて。
スキルとは、頼もしくも恐ろしい代物であると改めて感じた。
怒る竜が魔力弾を放つ。
だが幸多は避けようとしない、それどころか剣をじっと構えている。
このままだと直撃、なのだが。
「剣でガードできちまうなんてな。ヤワにもほどがあるよ、全く」
剣でしっかり防いだ。
「ゴォア!?」
流石の竜も戸惑いを隠せないようだ。
それもその筈、こんなありふれた剣で自分の魔力弾が完璧に防がれるのは、普通ならあり得ないこと。
もちろん、いつも通りならば即殺コースであったが…今、目の前に例外がいる。
「せめて一瞬でケリをつけてやる。お前も相方もよ」
一気に肉薄し、首を断つ。
降り注ぐ血しぶき、そしてそこには返り血に塗れた1人の青年がいた。
「あとは気絶してるお前も…ごめんな、命を捨てたはずの俺が誰かの命を奪うなんて本当はあってはならねーのによ」
地面に倒れているもう1体の竜の首も飛ばす。
そこに達成感というモノはなく、街の人々の命を守ることができた安堵感、どんな形であれ命を奪ってしまった悔やみがあった。
「た、旅人さま!お怪我は?」
「あ…やべ」
咬まれた脇腹から、血がドクドクと流れる。
「は、はは。止まら…ねーや…」
俺、また死ぬのかな。
異世界で死んだら、今度はどこに行くんだろう。
また、あの現実世界に行ったりしてな。
少しの間だったけど、勇者の真似事ができてそこそこ楽しかったなあ…
ん、声が聞こえる。
「…び…と様!旅人さま!死なないで!いえ、死なせませんから!」
お嬢さん、なんで泣いてんだ。
でも、ああ…よかった。
現実世界だと誰にも看取られなかった俺が、こんな可愛い子に看取られるなんて、このまま死んでも良いかなあ。
「へ…名前、分からずじまい…か」
加賀美幸多。街を襲撃した黒竜2体から民を守り、死亡…
「させません!使わせてもらいますわ、あの秘術を。『癒しの誓約』、あなたがいなかったらわたくしは…また独りになってしまいますわ」
お嬢さんが祈りを捧げるように、幸多に″何か″をする。
傷口がどんどん小さくなっていくのを感じるが、それに反比例するかのように意識は遠退いていった。
********************
ここは、どこだ。
流れ星、ペンダント、星降る川。
ああ、これは走馬灯なのか。
と言ってもたった1日の思い出だけどな。
ん?
「オニイ…チャン…」
誰だ、この少女は。先ほど黒竜から救った子とは違う子だ。
オニイ…チャン…お兄ちゃん?
「タス…ケ…」
助けて?
「螺旋石が光り輝いている…これに賭けろと言うのね」
あそこにいるのはお嬢さんか。そんな険しい顔してたら、せっかくの可愛いお顔が台無しだぞ。
「コウタさま!あなたを…あなたを…」
「タスケタスケタスケタスケタスケ」
迫り来る恐怖。助けを求めていた血みどろの女の子が、身体中から血を吹き出しながら寄って来た。
血糊がべっとりと着いた少女の手が幸多の頰を撫で、そのまま下へなぞりながら胸を抉り取るところで景色が変わった。
「はっ…!やめろっ!…む、胸は!」
目が醒める、月明かりが窓から差し込んでいた。
胸を見ても何も異常がない。
本当に夢で良かった…冷や汗が酷い。
「夢か…助かった…リアリティーあり過ぎだろ。てか、ここどこ…ん、お嬢さん?」
スヤスヤと寝息をたてながら、お嬢さんが添い寝していた。
「確か…脇腹。うわ、塞がってる」
気を失う前の最後の記憶、それは咬まれた脇腹の血が止まらないことと、お嬢さんが懸命に俺に語りかけてくれたことだった。
「きっと、助けてくれたのはアンタなんだよな。お嬢さ…そういや名前知らないな」
「…シェリーと呼んでくださいまし。旅人さま」
コウタの呟きに、反応したお嬢さん。
眠りはどうやら浅かったようだ
「起きてたのか。いつからだ?」
「旅人さまが起きられた時からですわ。んん…でもよかった!なんとか意識が戻りましたのね!」
上半身を起こし手を握るお嬢さん。
俺なんかの為にここまで喜んでくれることが嬉しい。
「ああ、お…シェリーのおかげだよ。本当に助かった、お礼に…って今の俺に渡せるものなんて何もねーや。ごめんな」
腐れ貴族から奪った大金はあれど、幽霊に渡したところで何にもならないし、喜ばれないだろう。
すると、シェリーは右手の人差し指を顎に当て、何かを考える素振りを見せながらこう答えたのだった。
「そうですわね。…ありますわよ?旅人さまのお名前ですわ!わたくしにだけ名乗らせるなんて狡いお方、あなたのお名前も教えてくださいな」
俺の…名前。
へっ、そんなもんがお礼になるなんて到底思えねーけどな。
「本当に良いのか?命の恩だぞ、もっと無理難題なモノでも良いんじゃねーのか?」
半笑いしながら問う。
「今一番欲しい物を今一番欲しい時に貰えるかもしれない、そんな時におねだりをしない道理がありまして?」
こりゃ、とんでも理論武装だ。
名前、言わないわけにはいかなくなってしまったな。
「ぷっ、はははっ!ああ、そうだな、ねえよそんな道理!…幸多、加賀美 幸多、それが俺の名前だ。よろしくな、シェリー」
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