プロローグ5話『旅は道連れ』
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目が醒めると…そこには女の子がいた。
「うわっと…!あー、そうだった。確かあの後…」
ダメだ、記憶が混濁している。
そう、川を見に行って、それで流れ星を見て、割と近い所に落ちて、それからそれから。
「お嬢さんに会ったんだっけか。で、こうやって寝てるわけか」
ほっぺをツンツンしてみる。
プニプニしてる、よし、もっと触りたい。
確かこのお嬢さんは16歳、年頃の乙女ってわけだ。年相応の肌。温かさはないが、触り心地は丸の丸。
「幽霊…なんだよな。でも、お触りできるし、本当はドッキリなんじゃないのか?」
「うふふ、くすぐったいですわ…。えへへ…」
なんだかすっごく幸せそうだ。
寝顔も可愛い。本当に、本当に可愛い。
思わず頭も撫でたくなる…が。
「これ以上はダメだな。あ、風呂入り忘れてたんだった。確か…」
ちょっとした浴場があるんだよな。
なんでも魔王侵攻まではその風呂のおかげでこの宿は連日大盛況だったんだと。
ふむふむ、看板によると…今日は柑橘系の皮を使った湯らしい。
「びばのんの〜」
ちゃぽんちゃぽん。もちろん、身体を洗ってから湯に浸かる。
これほどまでに湯が張っている風呂に浸かるのは本当に久しぶりだ。あっちの世界にいた時は…深夜に家に帰り、軽くシャワーを浴びるぐらいしか風呂場に接点がなかった。
湯気と共に柑橘系特有の爽やかな香りが、心と身体をリラックスさせてくれる。
同時に、こっちの世界の風呂がここまで発展していることに驚くと共に感心する。
「ふう、ご時世ってやつか…悲しいもんだな」
これだけ充実した風呂、多少賑わっていてもおかしくない。
だが、今は風呂の利用者は幸多1人。開放的で極楽であるが、どこか寂しい。
「…上がるか」
部屋に戻ると、例のお嬢さんが待っていた。
表情は明るく、なんだか楽しそうだ。
「起きてたのか、おはよう」
「うふふ、おはよう。朝食の準備はよろしくて?」
「ああ、食べに行こう」
宿屋の夫人が切り盛りする食堂で朝食をいただく。
目玉焼きとベーコンとパン。西洋を感じさせる良い朝食だ。
カリカリ焼き上がっているベーコンととろり半熟の目玉焼き、そして…少し硬めのパン。ハードパン?口の中がパッサパサになるので、水は欠かせない。
「ラトミナはそのパンが主流ですのよ。ラトミナ豚は脂身と赤身の割合がーー」
ウンチクを語るお嬢さん。
こりゃ、喋り終わるのは相当後になりそうだ。食通なのだろうか。
「ーーというわけですの。だから魔王侵攻後でもこうして美味しい食材が手に入るのですわ」
知らない間に政のお話にまで発展していた…まあ、無知に等しい俺にとっては有難いが。
「ほーん…あ、ずっと喋らせて悪いな。俺だけなんか、食べてるだけでさ」
そのお嬢様は嬉しそうに食について語るも、目の前の食べ物に手をつけることはなかった。
理由は1つ。
「こんな状態ですもの。いただきたくても…いただけません。その代わり、旅人さまはわたくしの分までしっかり味わってくださいね」
幽霊である、ということだ。
どこか悲しげな笑顔を浮かべながら、幸多に食を勧める。
その顔が…妙に印象的だった。
「…食べ終わったら色々案内してくれや。まだここら辺わかんないことだらけなんだよ、いろいろ教えてくれよ。お嬢さん」
とりあえず、そんな彼女を独りにはさせたくなかった。
幽霊の事情は知らないが、少しでも彼女と一緒にいることが彼女の為になるのではないかと、理由もない直感が頭を支配した。
孤独の辛さは、こちらだって痛いほど知っている。
「え…は、はい!しっかりご案内させていただきますわ!」
お嬢さんの反応を見て、安堵する。
良かった。少なくとも間違った選択はしてないようだ。
しかし、こんな可愛らしい笑顔を持った少女が今は幽霊。実に悲しい世の中だ。
「アイツ…さっきから何1人で喋ってんだ?」
「そっとしておいてやれ。きっと辛えコトでもあったんだよ」
同じく朝食を頂いている男2人組が幸多のことを見てそう言った。
ちなみに、幽霊である彼女を認識できない周囲の客からしたら、幸多がずっと独り言ちているようにしか見えない…ぼっちではないがぼっちである。
食事を終えた2人は、時間をかけて馬車で様々な街を回る。
昨日と比べると戸惑いも少ない。慣れもあるのだろうが、1番の要因はやはりこのお嬢さんのおかげだろう。
腐れ貴族から奪っ…貰った余りある金のおかげで、この国の観光をゆっくりと楽しむことができる。
ラトミナとは一口に言っても様々な趣があり、様々な人がいて、様々な風が吹くことに、幸多は年甲斐もなくワクワクしていた。
「あら、顔色が悪くありませんこと?どうかしまして?」
「いや、ちょっと…胸がいっぱいなだけだよ」
違う、この男は絶望的に乗り物に弱いのだ。だが、お嬢さんを前になけなしを見栄を張っているのだ。
酔いに耐えていると、気づいたら汐風が薫る街に出た。海が近くにあるようだ。
それと同時に気になったのは、馬車からでも見ることができるぐらいの石製の大きな像だった。
海に向かって聳え立つその石像。まるで海からの侵略者を許さない守り神のような、そんな強い威厳を感じる。
「あそこに見えるのは…ラトミナ王、″レグス・ラトミーナ″の像ですわ!23年前の建国記念日に建てられましたの。せっかくですし、見て行きますか?」
「お、おう。なんか楽しそうだな」
ハキハキと満足げに喋るお嬢さんを見てると、良いわけがないのだが、なんかずっとこのままでも良いかなーってなる。
この可愛らしいガイドさんとの珍道中は、元いた世界では決して得られなかったモノの1つであることは間違いないな。
馬車から降り、像の前に行く。近くから見ると余計に尊厳というか…オーラを感じる。
「さっき建国記念日が23年前って言ってたけど…ここ、意外と新興国なのか?」
「はい!この国はまだ23歳ですの。当時24歳だった彼が数多の強敵を討ち、この国を作りましたの」
24…俺と同い年じゃねーか。なんだか、比べられているわけじゃないのに、ちょっとした劣等感が襲いかかってきたぞ。
「随分凄い人なんだな、王さまはよ。きっと、そんな王さまが治めるラトミナも良い国なんだろうな」
「ええ…でも実はこの国は…」
お嬢さんが何かを言いかけた、その時だった。
「敵襲ー!敵襲ー!魔王軍が攻めてきたぞー!」
街中の人が叫びながらこちら側へ逃げてくる。
逃げ出して来た方を見てみると…
「敵襲!?魔王軍!?…まさか、アレが」
「ええ…魔王の…手先ですわ」
黒い翼が生えた竜2体が遠くの空から…明らかな敵意を持ってやって来た。
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