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弱小魂のスピラーレ〜社畜がビルから飛び降り転生後、目覚めたらそこは異世界でした〜  作者: 花見遊山
プロローグ〜旅路は夢と仲間と共に始めたい〜
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プロローグ3話『星降る夜』

誤字脱字の修正、加筆等ご要望あれば気軽にどうぞ

 夜の酒場は大衆客で賑わっている。カウンター席、テーブル席があり、規模は大きい。

 客層も老若男女問わず幅広い。情報に関しては結構期待できそうだ。


「旅人だあ?こんなご時世に呑気なもんだぜ!なあ!」


「「「おう!」」」


 店主の呼びかけに、カウンターに座っていた常連たちが応じる。皆総じて酔っ払っているせいで顔が火照っている。


「で、どこから来た?猫人族じゃねえからゴロニャン王国でもねえよな…」


「えーっと…」


 答えに困るな。日本、と答えてもきっと分かってくれないだろう。適当に島国と答えるのが無難か。


 って、ゴロニャン王国ってなんだ!?響きが可愛いな!


「極東の島国…かな。訳あって来たんだ」


「はあ!?島国っておめー、なんかの冗談か?航路なんておっかなくて仕方ねえや!なあ!」


「「「おう!」」」


 冗談ではないし、航路でもない。馬鹿正直に答えても、きっと信じてもらえそうにないし…まあこのままで良いだろう。


 立ち話もなんだし、何か頼もう。少しは店の売り上げに貢献してやる。


 メニュー表が壁に掛けられてある。

 読めないはずの字。だが、何故か頭の中にスラスラ入ってくる。読める、読めるぞ!


「じゃあ、トメトソースのサケのフライとビールで!」


「あいよ、ちょい待ち!」


 手際良く作られ、出されたそれはトマトソースの鮭フライとビール。どこの国にも似たような物はあるんだな。


 サケのフライは程よい塩味、サクサクしてて美味しい。トマトソース…いやトメトソースも良い感じだ、あらごしで果肉感が失われていない。


 そしてそれを冷えたビールで流し込む、酒なんて久しぶりに呑んだぜ。



「なあ店主。この旅人に教えて欲しいんだが、この国ってどんな国だ?」


「はっはっはっ!どこから教えりゃあいいんだ?まさか、名前からとか言うんじゃねえだろうなぁ?」


「そのまさか、さ。名前から頼むよ」


 幸多の言葉に、冗談交じりに笑っていた店主が真顔になる。


「訳ありか。ったく、面倒なヤツがまた来ちまったもんだぜ」


「わりーな。話が早くて助かるぜ」


「ふう…ここは″ラトミナ王国″。こんなご時世だが、国として成り立っている数少ねえ国だ。衰退しちまったがな…んで、ここはそのラトミナ王国の北部にあるユースって街だ」


 こんなご時世…そういやさっきも同じこと言ってたな。

 このワードは聞き流してはいけない気がする、少し聞いてみるか。


「さっきから気になってたんだが…こんなご時世って何なんだ?何が起こった?」


「な…!お前、本当に世間知らずっつーか、世情に疎いっつーか…」


 皿を拭く手を止めて驚く店主。


 実際、何にもわからないから聞くしかないしな。しかし、そんな驚くことなのか?なんだか悲しいぞ。


「もう2〜3年ぐらい前か、平和だったこの世界に魔王が降臨し、あらゆる国が滅亡したんだよ。その圧倒的な力たるや…話を聞いただけで泣きたくなるわな」


「魔王、か。はは、とんでもねーのがいるもんだ。え、魔王!?」


 竜車に続いて魔王ときたか、とことんファンタジーの世界じゃねーか。

 そしてあの世でもないとなると、まさか…


「異世界…ってことかよ。本当に存在すんのか」


 異世界なんてのはラノベだとかアニメだとかの世界だと思っていたのに、まさか自分が今いる所がそうだなんて。


「ああ?何訳分かんねえことごちゃごちゃ言ってんだ?まあいいや、話を続けるぞ。このラトミナ王国はそれはそれは綺麗な国だった。王は賢く貴族も平民も皆仲良く、街を歩けば商人と客で賑わう、そんな国だった。この街だってそうだったんだ、あんな路傍で寝るようなのなんて1人もいやしなかった」


 昼間見た貴族と平民…アレは仲良いとは到底言えねーよな。

 綺麗な国か、できるならそのラトミナを見てみたかった。


「で、その綺麗な国をこんなのにしやがったのが魔王ってわけか。気に入らねえな、ああ気に入らねえ」


「ぷっ!そうか、気に入らねえか!そらそうだ!俺も気に入らねえ!へへっ、そんな面白え事言うヤツがまだいるたあ驚いたぜ」


 店主はそう言い、皿を拭きながら大いに吹いた。


「当たり前のこと言っただけだよ。とりあえずこの国が良い国だったってことはわかった、教えてくれてありがとな」


 この国については聞くだけ聞けたし、これ以上こんな苦しい話させたくない。


 もうここも出よう、居心地は凄く良かった。

 温かい、いつぶりかな。ずっと孤独だったもんな。


「ん、どこ行くんだ?宿は取ってんのか?」


「適当に探すよ、ごちそうさん。美味しいメシ、ありがとな。久しぶりに心が一杯になった」


「おう、なんかあったらまた来いよ」


 扉を閉め、夜の街を彷徨う。外の風が少し熱を持った肌を冷ましてくれているので、意識はしっかりしている。


 ふと見渡せば疎らに点く街灯、それがこの国の現実を表していた。



「良いや、ここの宿屋にしよう」


 比較的綺麗に整っている宿屋に泊まることにし、チェックインを済ませてまた散歩を始める。

 予約客はおらず、こんな夜更けにも泊まることができた。


「川の流れでも聴くか。落ち着くしな」


 宿主から聞いた、ラトミナで一番長い川に行く。割と近いらしい。


 なんでも観光スポットで、夜中でも一定以上の治安が維持されているとのことだ。安心だ。


 川は宿屋から看板通りに進めばすぐに着いた。水の流れの音が心地好い。


「どの世界でも川は流れんだなあ…」


 実は昔から何か思うことがあると、いつもこうして川辺に行って心を落ち着かせている。


 具体的な時間は分からないが、夜更けであることは間違いない。それはこの星々が教えてくれている。


 東京とは違い、夜空の星は光り輝いていた。

 しばらくボーッとしていたら、たくさんの流れ星が見えた。


 宿主によると今日は【星降る夜】という1年に1回、ラトミナで見られる流星群の日らしい。特にこの街はよくそれが見えるのだとか、楽しみだ。


 ちなみに、魔王によって心に余裕がなくなってしまった民たちは、もうこんな綺麗な流星群を見てもなんとも思えなくなってしまったらしい。

 そういうわけで数年前までは人でごった返していたこの星降る夜も、今は幸多ただ1人なのだ。


「もったいないし、悲しいよなあ。こんな絶景、見てもなんとも思えなくなっちまうなんてさ。ま、俺はゆっくりと堪能させてもらいますよっと」


 肉眼でここまで鮮明に見れるとは、感動である。耳をすませばキラキラと音がしそうだ。


「なんか…いいなあ…こういうの…ん?」


 んん?何だアレは…

 降る降る星々のなかに、1つだけ不安定な軌道を描く流れ星がある。

 

 「あれ、こっち来てね?」


 その一筋の流れ星がこっちに向かって降ってきた。


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