プロローグ21話『海上戦』
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空は晴れているが、雨が降っている。
…いや、これはただの雨ではない、海水の雨だ。クニイカの巨大な足によって繰り出された水飛沫である。
「にしても…海中にいるんじゃ攻撃の当てようが無いわよ!」
「このままやられっぱなしはダメだダメだ!俺が潜ってクニイカを討つ!」
足以外の姿を現さないクニイカに苛立つタロが防具を脱ぎ捨て、潜水しようとする。
「待ってくださいタロさん!海の中こそクニイカの戦場です!」
「じゃあどうすりゃいいんだ!」
「闇雲に行動するなと言っているんです!大体タロさんはーー」
揺れる船上でタロとルルが揉める。
ここは海上、対するはクニイカ。
いつ死んでもおかしくない状況だ、大人だろうが子供だろうが、こうなるのが人間だろう。
「う、うう…コウタ。あ、アタシはどうすれば良いの?」
そして、置いてけぼりのナナは不安そうにこちらを見つめてくる。
「どうしようなあ。…シェリー、どうすれば良いと思う?」
「どうすればって…足を攻撃するぐらいしか思い浮かびませんわ。クニイカなんて実際に見るのは初めてですもの」
「…だよな、わかった。よし、ナナ!俺らはあの足をぶった切るぞ!」
アドバイスなのかはわからないが、シェリーから助言を貰い、それをナナに伝える。
そもそも、正直なところ…それしか選択肢がない。
「ええっ!?そんなことできるの!?」
「できるの?じゃない、やるんだよ!そうだな、氷魔法は使えるか?」
「もちろんよ!…そういうことね」
「そういうことだ。3秒でいい、あの足目掛けて水面ごと頼む!」
「任された、『フィル・フリーレン』!…勇者の力、見せてもらうわ!」
魔法杖を構え、詠唱すれば氷の塊が3本放たれた。
1本2本3本、海面に向かって撃てば、クニイカの足までの氷の足場ができた。
「波が荒いから、長くは保たないわよ」
「4秒保つなら上出来だ。【インフィニット・バイタル】を持つ俺ならな!」
船から勢いよく飛び降り、氷の足場を踏みしめる。
そして…
「…行くぞ!」
20メートルぐらい離れた足目掛けてロケットスタートを切り出す。
波は大荒れ、氷の足場も崩れかけている。
「ーーゲソ揚げには…大き過ぎるね」
コウタが剣を勢い良く振るうと、クニイカの足が物の見事にぶった切られた。
「うおおっ!アイツやりやがった!」
「やっぱ勇者は伊達じゃねえ!」
コウタの活躍に、沸く船乗りたち。
クニイッカの足は強靭であることで知られており、剣で断つことなど普通ならばあり得ない。
「【研ぎ澄まされし慧眼】のおかげで氷の流れが読める!あそことあそこと…あそこを飛べば船に戻れそうだ」
荒波により、バラバラになった氷の足場。
【研ぎ澄まされし慧眼】で最適ルートを見つけ、船に戻る。
「よっと、ただいま!まずは1本でとこだな」
「さっすがコウタ!やっぱり、アタシとアンタのコンビネーションは敵無しね!」
「ああ、ナイスアシストだった。それで…アイツらはまだ喧嘩してんのか?」
「うん、止まる気配はないわね。しばらくはアタシたちで戦うことになりそー…」
甲板の上の喧騒はまだ静まらない。
アホなタロはともかくとして、割とマトモなはずだったルル。一度火が点いたら止まらない、ルルもルルで面倒な性格のようである。
「ったく…ジータックに着いたらこき使ってやる。…残り9本。さあ、クニイカさんよ。どう出る?」
「キュウウウウッ!」
海の中から聞こえる耳を劈く悲鳴。クニイカが悶絶しているということが分かる。
すると、本気でこちらを潰しにきたのか、先ほどでは1本のみだった足が7本に増え、あっという間に包囲されてしまった。
「…シェリー、いるか?」
「はい、いかがされまして?」
「足に包囲されてるってことはさ…」
「はい」
「クニイカは…ハルモニアの真下にいるんだよな…?」
「ええ、それがどうかしまして?」
「これ…食われね?」
「…ああっ!」
ハルモニアを包囲している7本の足が急接近、下からは何とも言えない圧力。そう、クニイカは今…ハルモニアごとコウタたちを捕食しようとしているのだ。
7本のクニイカの足が、ハルモニアの周りを円を描くように動く。
すると…あっという間に渦が完成、ハルモニアが閉じ込められた。
「船長!なんとか逃げられないのか?」
「やってるが…無理だ!クニイカの作る渦に巻き込まれちまってる!渦の目に飲み込まれねェように抗うので精一杯なんだよ!」
どうにかならないものか。このまま渦に飲み込まれてしまえば、クニイカの口の中。飲み込まれないように抗っても、7本の足によってハルモニアは木っ端微塵だ。
「ああっ…!どうしようもねェ!これじゃあ俺ら木っ端微塵だあっ!」
落胆し始める船員たち、船長の目にも涙が溢れる。
彼らの戦意は既にボキボキとクニイカに折られていた。
「渦…巻き込まれ…閃いた!おい、ナナ。さっき、俺にかけたあの浮遊魔法使ってくれ!」
「ええっ、フロッタン!?今アンタに酔われちゃアタシら死ぬんだけど!」
「違う!かけるのは俺じゃない!この船だ!ハルモニアにフロッタンかけろ!とりあえずこの渦潮から逃げなきゃ潰されるぞ!」
「で、でも…アタシの力じゃそんな広範囲…無理よ…」
魔法杖をぎゅっと、身体に寄せるように握るナナ。普段の騒がしさは何処へやら、すっかり萎縮してしまっている。
その全身から伝わってくる不安は、コウタもはっきりと感じることができた。
だが、状況が状況…一刻の猶予も争う事態だ。
「…俺は魔法なんて使えないし、タロとルルはこんな時でも喧嘩してこの状況理解してねーし、船乗りのみんなは操船で手一杯だ…どうすれば…」
頭をフル回転させて、突破口を見つけようとするも、最悪の結果しか思いつかない。
万事休すかと思われたその時だった。
「コウタさま!わたくしに1つ考えがあります」
シェリーが、この絶体絶命の状況下でとある提案を持ちかけた。
それは、このメンバーで、なおかつこの状況下で唯一このピンチを脱出し得る可能性を持ったモノだった。
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