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弱小魂のスピラーレ〜社畜がビルから飛び降り転生後、目覚めたらそこは異世界でした〜  作者: 花見遊山
プロローグ〜旅路は夢と仲間と共に始めたい〜
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プロローグ2話『異世界にて』

誤字脱字の修正、加筆等ご要望あれば気軽にどうぞ

 ここは…どこだ?

 随分永いことここにいる気がする。


 澄んでいて濁っていて、冷たくも熱い。

 川のせせらぎのように穏やかで、濁流のように激しい。


 だけど、とても落ち着く。

 まるで、ここがあの世であるかのような…その心地よさは幸多にとって久しい経験だった。


 これが永遠の安らぎならば、俺は…俺は…


「はっ!」


 夢から醒めたような感覚。


 先ほどのような安らぎは跡形もなく消えてしまった。

 外の気が一斉に肌を撫で、ここはあの世なのかどうなのか一気に疑わしくなる。


「おい、アンちゃん。そんなとこ突っ立ってんな、竜車に轢かれちまうぞ」


 声が聞こえたので、後ろを振り向くと感じの良い行商人が注意していたことに気づく。

 いつの間にか大通りのど真ん中に立っていた、それは邪魔だったろう。申し訳ない。


 申し訳…え、竜車?


「は?え、ちょっと…うわっ!」


 目の前にはゲームとかでしか見たことのない竜が車を引いていた。

 だが、竜とは言っても馬ほどの大きさのイグアナみたいな生物だ。鼻息を吹きかけてきて、幸多の髪が揺らぐ。


「な…なんなんだこれ」

 

 気づいたら、幸多は脇目も振らずそこを逃げ出していた。何もかもが突然のことすぎてパニックになっているためだ。


 走る。走る。ここは何か変だ、あの世にしてはなんだか妙にリアルだ。そもそも、俺はなんでこんなところにいるんだ。ムシャクシャに走っても、疑問は増えるばかりだった。


「変なアンちゃんだぜ。この国で竜車なんて珍しくもなんともねーのによ、オラ行くぞ!」


 行商人が逃げる幸多を遠い目で見つめながらボヤき、竜車をまた走らせる。

 見慣れない服、幽霊でも見たような反応…この行商人の目には幸多の方が奇怪に写っていた


「はあ…はあ…あんなバケモン、見たことねーよ…」


 大通りの外れまで走った。息切れで胸が苦しい、張り裂けそうだ。


「ふう…」


 薄暗い裏路地、ここなら落ち着けそうだ。

 壁に背をつけて休める。壁の硬い感触、自分の頬を叩いても痛いあたり、夢とかではないみたいだ。


 状況を整理する。

 俺はついさっき、会社の屋上から飛び降り、死んだはずだった。


 はずだった…が、今こうして生きている。この息苦しさと痛みがそれを教えてくれる。


 なら、ここはどこだ?

 ビルの1つも建ってない。車の1つも走ってない…あ、竜車は走っていたか。


 いや、竜車!?


「どうなってんだよ…竜車って何だよ…」


 取り敢えずこれ以上こんな所にいても仕方ないのでまた表の方へ出ることにする。

 上下見渡してみると、ビルどころかアスファルトのカケラもない。


 レンガの道、レンガの建物、レンガの街…ここは中世のヨーロッパか何かか?



 奥の方に進むと、得体の知れない老人が物陰で倒れていた。

 ボロボロの布とやつれた顔。乞食であろう。


「大丈夫か、爺さん。こんなところで何してんだ」


「わ、ワシに話しかけてくださるのか…ひ、人と話すのなんて何日ぶりのことやら」


「あ…話しかけといてなんだが、俺無一文だからな。何も施しなんてできんぞ」


 空の財布、ワイシャツ、ズボン、ベルト、普通の靴、靴下…以上、幸多の装備である。それ以外に何も装備していない。


「おお…あなたさまも迷える身であったか。なのに、こんなワシに話しかけてくださるとは…なんとお優しいお方か…」


「いや…まあ…じゃあ、アンタも達者で暮らせよ。その、良いことあるかもしれないし…」


 なんの励ましにもなっていない、このフォローですら恭しく頭を垂れる乞食。

 これ以上ここに居ても気まずくなるだけと思い、立ち去る幸多を彼はどこまでも見送った。



 一通り街を見歩いて判ったことがある。

 小綺麗なように感じたこの街であるが、少し探索するだけで幾らでも物乞いを見つけることができた。


 つまり、この街は貧しさに喘いでいる民が一定数いるようだ。


 もっとこの街を知りたく思い、ちょっと裏路地の方に入る。

 すると、何やら穏やかでない物を見てしまった。


「オラッ!お前ら乞食見てるとイライラするぬぷ!くたばれゴミ共!」


「貴族の方…ううっ!ああ!私たちのお金が!」


「コイツは貰っていくぬぷ。不愉快な顔を見せた罰ぬぷよ!」


 下衆が…不快な物を見てしまった。


 瞬間、気づいたら身体が動いてた。


「おい、お前。返せよ、それはあの人たちの金だろ」


「はあ…下民風情がこの爵位持ちの私に話しかけるなど、無礼千万ぬぷ。賎民は黙って奪われていればいいぬぷ!解ったかァッ!」


 ダメだ…怒りが収まらない。どこかで見たような無能だ。こうやって慎ましく生きている人から、何かを搾取することしか考えていない無能…反吐がでる。


「その醜く肥えた腹をしまえたら考えてやるよ、アホ」


 つい、口から出てしまった言葉。しかし、後悔はしていない。


「ぬぷーッ!であえい!であえい!徹底的にこの不届き者を粛清ぬぷ!」


 ぞろぞろと兵士たちが集まってくる。皆やつれており、目が虚ろだ。


「心底同情するよ。無能な上司に従わないといけない兵士さんたち!」


「やってしまえぬぷ!晒し首ぬぷ!」


 兵士たちが襲いかかってくる…が。


「ん!?…トロいな」


 コイツらふざけてんのか?遅過ぎる…いや俺が速過ぎるのか?


「な、我々の攻撃がいとも容易く」


「目の隈が酷い、寝不足だろ。大丈夫、今から寝れるぞ」


 手刀で総勢8人余りの兵士を落とす。だが、1つここでふと思ったことが…


 あれ?こんなに俺って強かったっけ?


「ぬ、ぬぷ!貴様何を!」


「ーーお金、ちょうだい?」


 修羅の顔をしながら、そう耳元で囁くと爵位持ちの貴族は失禁しながら失神してしまった。



 戦闘も終了し、貴族の身体を物色する幸多。

 本当はこんな男の身体など弄りたくないが…仕方がない。


「えーっと、あったあった。ほら、これアンタらの金だろ」


「こ、こんな大金いただけませんよ!ここはあなたが!」


 襲われていた平民に、適当にポケットに入っていた札束を渡す。

 すると、彼らは狼狽えてしまった。これほどの大金は見たことがないのだろう。


「それにお礼だって…」


「いらねーよ。その金で早くこんな生活抜け出しちまえ、礼は…その時返してくれよ、じゃあな」


 しかし、さっきの爺さんにしろ今の青年たちにしろ…貧困層が多過ぎる。


 この国についてもっと知りたい。この世界についてもっと知りたい。


 そう思い、目指した場所は…


「へいらっしゃい!ん?見ねえ顔だな!」


 酒場だ。ここならば、情報なんて幾らでも簡単に手に入れることができる。


 ちなみに、もう一文無しではない、さっきの貴族から札束を1束をくすね…貰った。相当な額なはずだ。


「旅人だ。良いネタ、頼むよ」

誤字脱字の修正、加筆等ご要望あれば気軽にどうぞ


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