プロローグ13話『レグス・ラトミーナ』
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昼食を終えたコウタは、化粧室にて王との謁見の準備をしていた。
服装については…まあ、ワイシャツとズボン。宿屋のおカミさんが綺麗にしてくれたので、前よりも様になってる気がする。
姿見を見て、様々なポージングをして、心を盛り上げる。
少し緊張しているのは隠しようがないが、表情が少しほぐれた気がする。
「ほっ!はっ!ふんっ!…イケてるぜ、俺!」
「…何をしているの?」
1人で盛り上がっているコウタに、後ろからシェリーが話しかける。
「うお!驚かすな!…これはまあ、アレだ。精神統一的な何かだ…よし!さ、行こう」
顔をパンと量の手のひらで叩き、気合いを入れる。
人と面会するのにこれだけ気合いを入れたのは久しぶりだ、あっちの世界では…ひたすらこき使われて人前に出させてすらもらえなかった。
相手は王様、営業の取引相手とは訳が違うが…キチンと堂々と話そう。
化粧室から出ると、ヘルトが待っていた。
「よろしいですかな?では、玉座の間へ参りましょう」
大理石の床の上に敷かれている美しい絨毯を歩く訳だが…踏むたびソワソワする。
少し歩くと、大きな扉が目の前に聳え立っていた。その扉の前には2人の兵士が警護している。恐らくはこの先に玉座の間があるのだろう。
すると、ヘルトが喋り始めた。
「…王よ。英雄殿が参られました」
「ーーああ。兵士たちよ、扉を開けよ」
中から声が聞こえた。この声の主が王様であるということはコウタにもわかる。
「はっ!」
扉の前で警護をしていた兵士が、大きな扉を開ける。
中はやはり、玉座の間であった。
「待っていた。会いたかったぞ」
玉座に座る、圧倒的なオーラを放つ彼こそが王なのだと。
彼こそが傑物、レグス・ラトミーナその人なのだと、はっきりわかった。
整った金色の髪の上には王冠がある。
顔は良い歳の取り方をしたおじさま…と言った感じだろうか。元の世界ならば…老若問わず女の追っかけができるタレントか、もしくはシャレオツな喫茶店やバーでも営んでそうだ。
そういえば、あの腐れ貴族から奪った札束ももう薄くなってきたわけで…このままだと生活に困ることになりそうなんだよなあ。
…待てよ。この機会、つまりそういうことなんじゃないか。
「…」
すっかり圧倒されてしまったコウタであるが…すぐに脳が切り替わる。
「…ん?どうした、固まって」
「お初にお目にかかります、王よ。大変、お会いしたく存じておりました。この度の御機会、誠に感謝致します」
…決まった!
ビジネススイッチ、オン!ここで王に好印象を抱いてもらえれば、当分生活は困らんぞ。
「…コウタさま?なんだか色々打算的ですわ!本当にそう思ってらっしゃるの?」
「…るっせー。こうして媚び売っときゃ、生活は安定すんだよ」
コウタの態度の豹変ぶりに、若干の軽蔑の目で突っ込むシェリー。そんなシェリーに小声で耳打ちする。
こういう薄汚れた大人の社会は、醜い建前で成り立ってるのである。
「ふっ…はっはっはっ!良きに計らえよ、私にそんな建前は通じん!しっかし…君、なかなか度胸があるなあ。この私に嘘をつくとはな!」
急に笑い出し、コウタの嘘をしっかりと暴くレグス。
「んなっ、滅相もない!そのようなこと…」
マズい、もっと上手く演じなくては…この男に嫌われてしまう。
この男に嫌われたが最後、この国には居られない!
「…ほう、そんなことを思っていたのか。安心したまえ、誰も君を追い出さんよ。兵は出よ!この者と2人きりにさせてくれ」
「「「はっ!」」」
レグスの一声で、玉座の間にいる十数名の兵士たち全員とヘルトが退出する。
これで、王と2人きりになってしまった。ああ、もちろんシェリーはノーカウントである。
「君、英雄にしてはなかなか打算的だな。嫌いではない、生きるのに必死で悪いことなんてないからな!」
「…なんのことだか」
苦し紛れに誤魔化す。
どこまでも余裕そうな王の表情。まさか、心を読まれているのではあるまいな。
「そのまさかだ。スキル【心を拾う鼓膜】、私は生まれつき人の心の声が聴こえるのだよ。もちろん、君の声もしっかりと聴こえていたよ」
・【心を拾う鼓膜】
対象の心を聴き、どんなことを思っているか、考えているかを読み取ることができる。読心スキルの最高位であり、更に対象に意識を集中すれば、過去すらも聴き取ることができる。
左の人差し指と親指で輪っかを作り、コウタを覗くラトミナ王レグス。
その仕草は、あたかも″全てお見通しだよ″と言っているかのようだった。
「…チートだ。心読まれ…いや、聴かれちゃあ、こっちはなにもできねーじゃねーか」
反則、反則だ!
そんなの…駆け引きも何もできねえよ!
「酷い言い草だなあ。ちなみに更に意識を集中すれば、過去すらも覗けるぞ?…ふむふむ、なるほど、ほう…おっと。ええ、マジかいな」
そう言って王はコウタのことを凝視し、耳を傾け始めた。威厳のある一挙手一投足がどうしてだろうか、怖い。
…耳を傾けた?傾ける…つまり、集中?
ってことはまさか!
「おい、王様!俺の過去覗いてんのか!」
「の、覗いてないよー。ひゅーひゅひゅー」
「嘘つくの下手すぎか!」
目を逸らし、音にもならない口笛を吹き誤魔化すレグスであるが…コウタは悟ったのであった。間違いなく、この男は自分の過去を聴き取ってしまった、と。
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