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2話

  01


 私は明那くんを連れて、御剣改め怪異 人形使いからなるべく離れた場所へと飛ぶことにした。

 狭い場所でヤツを解除してしまうと、明那くんを巻きこんでしまう可能性がある。

 もし、美しい顔に傷一つつけてしまったら私は責任を取って死ぬ。

 人形使いは外に出た私たちの息の根を止めようと、手を伸ばしたところで私は行動を起こすことにした。


「明那くん、危ないから私の肩にしっかり掴まっててね」


「え? うわあああ!」


 あまり状況を読み取れていない明那くんを無理やり私の肩に背負って、二階から飛び降りた。

 人形使いはただの退魔師だと思っていた人物が突拍子もない行動をしたせいで驚きのあまり体が硬直していた。

 退魔師は怪異に取り憑かれた被害者の傷を癒したり、怪異を追い払うこと以外は他の人間と同じ能力しかない。

 通常なら二階から飛び降りたら、降りた衝撃で足を折ってしまうのが当たり前だ。

 だが私は地面に降りた瞬間に生まれつき持っている魔力を使って衝撃をゼロに抑えた。

 人形使いが私を一退魔師だと思ってくれたおかげで難を逃れた。

 私に普通の退魔師が出来ない仕事を送ってくる上の役人たちは大抵胡散臭い依頼か、胸糞悪くて吐き気をするものしか持ってこない。

 今回の場合は明那くんに出会えたことで積もりに積もったイライラを無しにして良いと考えている。



「煌坂さん! あの高さから降りて大丈夫だったんですか??」


 真実を知らない明那くんは私が二階から平然な顔をして降りたのを見て不思議そうに見つめていた。

 ここで長時間みっちり私の秘密を教えてあげたいが、上の階にはまだ人形使いがいる。

 だから私は彼を不安にさせない為にもジョークを交えてあげた。


「ふふっ、明那くん。女の子には秘密はつきものだからあまり追求しないでね」


 私は二十年以上苦手だった片目ウィンクをした。

 学生の頃、あまりにもウィンクが下手だったせいか当時の友人から出来損ないの般若の面と言われていたことを思い出した。

 嫌な汗をかきそうになったから、急いで屋敷から離れることにした。

 明那くんが住んでいる屋敷の庭は千人以上入れるイベントを開けそうなぐらい広く、人形使いから一時的に隠れるには向いていた。

 移動している最中、私の視界には太すぎず細くもない触ったらプリンのように柔らかそうな明那くんの太ももがあったせいか木にぶつかりそうになった。

 明那くんの声で我に返ったが、自分の目の前にパンツが見えるか見えないかわからない絶対領域と太ももがあったら誰だって理性を失ってしまうのではないかと思う。


「さてと……ここなら屋敷から離れているから大丈夫かな。もう降りても大丈夫だよ」


「ありがとう……ございます」


 本当は明那くんを私自らの手で下ろしてあけたいと思っていたが、そうなると必然と体に触れてしまうことになる。

 理性が爆発してしまう恐れがあるから、私は明那くんに自分で降りてもらうことにした。

 私は数時間前に迷っていた森の中に戻ってきた。

 この場所はどうやら魔力の跡を消してくれる生きた森だったらしい。

 暫くの間は怪異が発生した原因の探索に時間をかけるか。

 果たして現存しているのかどうかだな、私に探索の力があれば明那くんを危険な目に合わせなかったのに。

 今、落ち込んでも仕方がない、早急に原因を探し出して明那くんに()()を迫らなくてはいけない。

 彼があのまま御剣と共に生活を続けてしまえば、同じ様に怪異化する可能性がある。

 父親と共に暮らすか、父親の束縛から抜け出すか。

 まだ年端もいかない少年に選択を迫るのはとても心苦しいことだが、これは彼のためでもある。


「明那くん、さっき言っていたメダルはどこにあるのかな?」


「確か……ここから東の方向だと思います」


 東か……屋敷からは近くはないが他の人間が住んでいる住宅地と距離が近い。

 原因がある場所に怪異 人形使いが先回りをしていたら、私は明那くんを守りながらヤツを駆使して戦闘を行わなければいけなくなる。

 最悪場所だけを案内してもらってどこか茂みに隠れてもらうしかないかもしれない。

 明那くんは私が考えている間に歩き出していた。

 私は親の後を追いかける小さな子供のように駆け足で明那くんの元へと向かった。

 仕方ない、その時になったら考えておこう。

 ―――――――

 ――――――――――


 私は明那くんに連れられて、彼が言うメダルが捨てられた場所に到着した。

 周囲の状況を確認するために明那くんを残して、自分の背丈より高い木の影に隠れた。

 念には念をだ、無鉄砲に何も確認をせずに突っ切ってしまって怪異 人形使いと遭遇をしたら明那くんの身が危ない。


「あれは!!」


 私は息を潜めて前方にいる怪異 人形使いを確認した。

 やはり先回りをしていたか……

 いや待てよ、今この場所にいるということは原因物であるメダルが近いということだ。

 メダルを破壊される前に何とか元の姿に戻そう。

 人形使いは人間を百人以上乗せられそうなぐらいの大きさの手を茂みの中に無造作に突っ込んでいた。

 今はまだこちらの方に気付いてはいないのがせめてのも救いだ。

 あんなのを直接体に食らってしまえば明那くんはひとたまりもない。

 後ろの方で待機している明那くんはまだ怪異 人形使いがいることに全く気づいてはいなかった。

 私は音を立てずに明那くんの元へと戻っていく。


「明那くん、今前の方には怪異になっちゃったパパがいるから君はこの茂みに隠れてて。私が良いよと言うまでは絶対に外に出ないで」


 私の目の前にある茂みなら中学生ぐらいの男の子でも簡単に入れる。


「ま、待ってください! 煌坂さんがいくら退魔師だからといって女性一人で怪異と戦うなんて無理です!」


 明那くんは依頼を受ければ怪異化した人間と毎日戦っている私を生まれて初めて女性扱いをしてくれていた。

 行くんじゃないと私の服の袖を掴んでいるその健気な姿は映画のヒロインのようだ。

 本来は逆だと思うが細かいことは気にしない。 


「大丈夫、私はこう見えて他の退魔師より腕には自信があるの。……でも私を心配してくれたのは嬉しかったな」


 私は明那くんの頭を自分の子供のように優しく撫でたあと、再びハグをした。

 ああ、髪から溢れ出る甘い花の香りが私の鼻に入り込む……

 まるで最後だと言わんばかりに男の子の匂いを堪能したあと、私は人形使い使いの方へと向かおうとした。 


「煌坂さん、一つ約束してもらっても良いですか?」


「何だい? 何でも言ってごらん」


 明那くんが望むなら私はどんなものでもプレゼントをしたい。


「パパを……元の姿に戻してくれたら最後に伝えたいことがあるんです。だから負けないでください!」


 明那くんは今まで見せたことのない満面の笑顔を見せてくれた。

 季節は冬なのにまるで夏に咲く向日葵のような暖かい笑みだった。  


「行ってくるね、明那くん」


 私はキャリーバックにかけられていたロックを全て解除をした。

 胸の高鳴りに反応しているのか、ヤツはいつも以上に暴れていた。



 02


「今回は怪異の部分だけを食べてよ、クロウ」


 退魔師はみな私を死神と言う。

 死神 煌坂神奈に逆らった者は誰であろうと魂を狩られる。

 あの日、海外から呼び戻されて契約を結ばされたときから私の人生は大きく変わっていった。

 不名誉な渾名をもらってしまったのは未だに納得がいかない。

 クロウと呼ばれる大鎌は持ち主の魔力の量によって姿形を変化する。

 大鎌だったり、日本刀になったりしていたと前の契約者は話していた。

 私が持つクロウはカラスのように黒く、刃の方は血で染まったと思ってしまうほど紅色だ。

 一振りするだけで二十から三十ぐらいの敵を屠れるぐらい強力だが、一瞬だけ隙が生まれてしまうので私は注意深く使っている。

 見た目は重そうに見えるが、上に投げて一回転するぐらいには軽い。


『明那ぁああああああああああああ!!アキナはドこにいる!!』


 怪異 人形使いは私の気配に気付いたのか、私の元に近づいてきた。

 原因物を探す前に戦闘はしたくないが……


「あれは……」


 人形使いの右手には少し薄汚れている金のメダルが付着していた。

 どうやら私だけかメダルの存在に気付いているのは。

 メダルを破壊されないように左半身だけ狙おう。

 そして弱ったところでメダルについて聞いて、その反応次第で明那くんを呼ぶとするか。


「そぉれ!」


『ぐワああああああなあたあ!!』


「思う存分喰らいなさい! クロウ!」



 私はクロウをバットのように振り回し、闘牛のように一直線に突っ込んできている人形使いの目に向けて大量の砂を飛ばす。

 人形使いが錯乱してる間に無防備な下半身を遠心力を利用して斬りつける。

 一回、二回、三回と攻撃をしているうちにクロウの魔力を吸う力が増えてきたことに気づいた私は一旦離れた。

 危ない、全力で斬りつけたら御剣本体ごと刈り取ってしまうところだった。


『はァはァ……オいそこのオンな……アキナはどこだ』


「?! 怪異が喋った?」


 色々なタイプの怪異と戦ってきたが、喋る怪異というのは初めて見た。

 理性を取り戻したというのか?

 ……様子を見てみよう。


『アキナにアヤまリたい……わたしはあの子に酷いことをしてしまった』


「本当に謝る気はあるの?」


 嘘に決まっている、人間のときに明那くんに言っていた言葉は忘れるものか。



『ああ、もちろん……さぁどこにいる』


「パパ、ボクは……」


 後ろを見ると茂みに隠れているはずの明那くんがこちらの方に来ていた。

 まずい、どうにかして明那くんに先程いた場所に戻ってもらわないとクロウに魂を狩られる。


「明那くん、私が良いって言う前に来ちゃったらダメだよ!」


「煌坂さんのおかげで自分に自信が付けるようになりました。パパ……いや貴方は以前も謝りたいと言いながら、ボクの大事な物を全部壊しましたよね」


『……』


「どうせ今手に持っているメダルも壊すんでしょ!」



『イや、これはオークションに出す。御剣アキナの首にかかっていたメダルという名目で売れば大金が手に入る! もう惨めな思いはしないですむんだよ』


「煌坂さん、ボクはさっき伝えたいことがあるって言いました」


「うん……」


 明那くんは悔しさで拳を握りしめ、少女のような可愛らしい顔から男の子の表情に変わっていた。

 恐らく私と彼が思っていることは一緒だと思う。


「……ずっと牢屋にいるのは嫌なんです、パパに虐げられる人生から抜け出したい、助けてください煌坂さん!」



「君のその選択は間違ってはいないよ。危ないから後ろに下がってて」


 私は自分が持つ魔力の全てをクロウに注ぎこむ。

 クロウは明那くんを除いて人形使いの魂を喰らい尽くした。

 御剣遼太郎は地面に倒れているが、明那くんは見向きもしなかった。


「明那くん、私の助手になってくれないかな」


 クロウをキャリーバックに閉まったあと、私は半壊していた自宅を見つめていた明那くんに私の助手にならないかと話す。

 明那くんには母親がいるみたいだが、話を聞いてみると男遊びが激しい人みたいだから自分がいなくなっても気にしないと言っていた。


「どうせ行く宛はないんです、煌坂さんと共にいれるのなら助手になりますよ()()


 明那くんと一緒に住める……夕食を一緒に食べたり、寝ている明那くんを起こしに行ける。

 ああ、何て幸せなことなんだろう。

 やる気のない仕事を続けて意味があるのかと思っていたが、ようやく私は仕事にやる気を見出すことが出来た。


 長い長い一日はようやく終わりを迎えた。

 私と共に歩いてる明那くんの顔はいつにも増して綺麗だった。

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