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旅シリーズ

草原を探す旅

作者: 川理 大利

初の短編です。

「俺は、草原に行きたいんだ!」


 そう言い、街を飛び出していった少年、ソウヤ。時代は、終末へ向かい。世界は荒れ果てる。そんな世界に草原などない。しかし、ソウヤは草原を見てみたかった。かつて、世界には塩水の巨大な湖である。海というものもあったという。かくいうこの街もかつては港町として栄えていた街だ。しかし、世界は荒れ果て海は消え失せた。そして、緑も失くなりつつあるなか人類に与えられたのは街にこもり世界が滅ぶのをその身で感じて待つのみ。そんな状態がソウヤにとってはたまらなくつまらなかった。だから、ソウヤは街から出た。街から出ようとしない街の人たちを置き去りにして。


 かつて、ソウヤは海が見たかった。しかし、そんなものなどこの世界にはもうないと聞いたときソウヤは絶望した。海が見れないというなら、なぜこの世界に生まれてきたんだと。しかし、そんな絶望の淵にて両親が草原について話しているのを聞く。話によると草原はどこまでも緑が生い茂り太陽の陽射しが照りつける開放的な場所なのだという。その話を聞いたときソウヤはこのために生まれてきたのだと思った。草原を見るために生まれてきたのだと思ったのだ。そこで、ソウヤは何年もかけて旅に出るための準備をした。朝食を我慢し、旅の食糧として溜め込んだ。貴重な水も昼食の時には我慢してビンに入れて溜め込んだ。衣服も着るのは寝間着と普段着のみと決め二着以外の服はすべて溜め込んだ。そのようにして旅の準備を約5年かけてしてきたのだ。そして時はきた。15歳になったからだ。15歳になれば成人とみなされ自由が認められる。15の儀にて、ソウヤは宣言した。


「俺は、草原を探す旅に出る!」


 しかし、街の人たちは認めなかった。街の外へ出て帰ってきた者はいない。そう決して。だから認めなかった。しかし、ソウヤには必ず草原を探して出すという信念があった。一度家に帰ると、旅に出るために自室の物入れに溜め込んであった水の入ったビン、食糧、衣服を手に取り、大きな革でできた袋に詰めると、家を飛び出し走り出した。街の人たちにどれだけ止められようとソウヤは振り向かなかった。そして、街の門の前に立つと一言、他の街の人には考えられないような。いや、考えても実行できないようなことを言いはなった。


「俺は、草原に行きたいんだ! だから旅に出る! これは、絶対だ!もう誰も俺を止められやしないさ」


 このソウヤの言葉に街の人たちは絶句した。街の人たちはソウヤの信念に押されてソウヤの旅立ちを認めるしかできなかった。共に旅に出ると言い出す者は誰一人いなかった。旅立ちというのはめでたいものだが、ソウヤの旅出ちを祝福することなどできやしなかった。自ら死にに行くようなことだからだ。ソウヤのことを完全に理解できていた者などこの街にはいなかっただろう。両親でさえもだ。ある日、突然海を見たいと言い出したかと思えば、草原を探すと言い旅立ってしまった。誰かソウヤのことを理解してくれる人が現れることを願い、街の人たちは皆、家へと戻っていった。無事こそ祈えど追いかける者は誰一人いなかった……。


「これが街の外か……」


 どこまでも続く赤茶色の土と岩が広がる荒野。起伏はあるものの、草花といった類いはどこにも生えておらずどこか寂しさを感じる景色だ。ソウヤは思った。寂しい景色だ。この世界で一人生きていくのはどれだけ孤独なのだろうと。しかし、ソウヤはその思いよりも街の外へ出たことによる感動という感情のほうが僅かに上回っていた。だからソウヤは孤独は感じなかった。昔は季節もあったらしいが今は一年中寒い。寂しい風が強くときに弱く吹いている。しかし、街の中ではある程度守られる。街をぐるっと囲む防護壁のようなものがあるからだ。空はガラスで覆われており、完全防護だ。街のなかでは一年中春。しかし、世界が滅べば街も共に滅ぶ。いつ滅ぶのか分からないままただ生きていくだけ。明日滅ぶかもしれない。皆そんな気持ちで生きているのだ。


「とりあえず、隣街まで行ってみよう」


 とりあえず、隣街を目指す。それが、ソウヤのした決断だった。何をするにも情報収集というものは大切なことでありそれをしなければ生きていくことなどできない。とはいえ、隣街がどこにあるのか。そもそも隣街は存在しているのかということが分からないため。フラフラと道のない荒野をさ迷い続けること2日、旅立った街がどのあたりか分からなくなってきたころ。建物の集まった街とはいえないが村と呼べる規模のものが見えてきた。ソウヤはその村に入ろうとしたが村の門は固く閉ざされ開けることができない。村の周りは防護壁で囲まれ空も透明度の低いガラスで覆われている。今はどこの街や村もこのような構造をしており隣街どおしの付き合いなどはない。


「誰かいないかー?」


 ソウヤがドンドンと、門を叩くと。門の内側からはガヤガヤと何かを話し合うかのような話し声が聞こえてきた。その後、ソウヤに質問が投げかけられた。


「なんの用で来た」


「情報収集だ」


 ここは、あくまでも真面目にしておかなければ村のなかに入れさせてもらえないだろう。そう考えソウヤは簡潔な答えを返した。


「それだけか?」


「それだけだ」


 質問が投げ掛けられなくなり、村の中に入ることが許された。理由は村に害が無さそうだかららしい。ソウヤが村に足を踏み入れたところ空気が変わったのを感じた。外の渇いた空気からどこか重苦しい空気へと。村の内部は廃墟が多く、まさしく滅びゆく村という感じだった。村の人もいるには居るのだが数が少ない。10人居るか居ないかといったところだ。


「情報収集をしにきたということだったな。何の情報を聞きにきたとは聞かんから長老のところへ行ってきな。この道を真っ直ぐ行けば長老の家へとたどり着くことができる」


「そうか。ありがとう」


 この道と指差された道は廃墟の瓦礫が落ちていたりして足の踏み場がない。瓦礫を避けながら先へと進む。ソウヤは思った。なぜ、村はここまでひどい状況なのかと。ついでだから村がひどい状況になった理由も聞こうと思いひたすらに歩く。そして、ボロボロの家にたどり着いた。これまで歩いてきて見た家もボロボロだったが道を歩いた先にあった家はもっとひどかった。家として成り立っているのが不思議なほどな惨状だった。壊れて閉まってすらいない扉をソウヤはノックする。


 コンコン。


「用があるなら用件を言え!」


 ソウヤは長老は気が短いのだろうなと思った。


「情報収集に来た」


「何の情報収集じゃ」


「草原を探すための情報収集だ」


 扉の中から愉快な笑い声が聞こえてきた。


「ふぅっふぅっふぅっふぅっ。面白いことを言うじゃないか。よろしい、中に入るがよい」


 扉を開けて中に入る。正確には、扉を横にどけて中に入った。建物の内部は外から見るよりはだいぶ清潔的であり、生活感があふれでていた。天井から照らされる黄色の照明。全てがどこか懐かしいとソウヤは思った。

 そして、中にいた長老は髪も髭も白く、優しそうなお爺さんだった。


「草原を探すための情報収集といったな」


「はいそうです」


 後ろの棚をがさがさとあさりながら長老はソウヤに聞く。そして、何かを見つけたのか一枚の地図をおぉ、あったあったと言いながら取る。


「これをお前さんにやろう。大昔の地図じゃ。ここが、今いる村じゃな」


 と、言いながら長老はある一点に丸をつける。丸がつけられた場所は今いる村からだいぶ離れていた。


「ここに、昔草原があった。それはそれは美しい草原じゃった」


 長老が丸をつけた場所は昔草原があった場所だという。長老の目はどこか遠いところを見ている目だった。


「わしも死んでしまう前にもう一度あの草原を見てみたいぐらいじゃ」


「死んでしまう前ってことは、世界が滅びそうになったのは結構最近ってことなのか?」


「わしは、もうおぼえておらん」


 ソウヤは、残念だと思った。世界の秘密に迫ることができると思ったからだ。世界の秘密に迫ることが出来れば、草原を見つけやすくなるかもしれない。しかし、それは甘い考えだった。


「お主、世界の広さを知っておるかの?」


「世界の広さ?」


「そうじゃ、昔々世界が緑に覆われていた頃の話じゃ。世界はな、球体なんじゃぞ。信じられないじゃろ。世界は広いんじゃ。どこまでもどこまでも果てしなく続く。そんな世界を旅するんじゃ、その地図に書かれている草原がある場所に行っても無いかもしれん。草原だけを探して、広い世界を旅する覚悟はあるかい?」


 そもそも、ソウヤはこれまで狭い街にこもって暮らしていたため、そのような情報など手にいれることもできなかった。いや、子供にそのような情報が入らないようにしていたのかもしれない。ソウヤは文字が書けなかった。それは、学校がないからだ。読むことはできたが、書くことはできなかった。滅びゆく世界に教育など必要ないと判断されたからだ。今は、もう国などというものはなく街で全てをしきっている。ソウヤは、自分がこれまで限られた狭い世界にいたのだと長老の話を聞いて感じた。そして、同時に街にすみ続ける人々を残念だと思った。


「俺は、この世界がたとえどんな広かろうと旅してみせる!」


「その覚悟があれば大丈夫じゃ。さぁいっ」


「最後にひとついいか? なぜ、ここの村はここまでひどい状況になったんだ?」


 ソウヤが長老にあとで聞こうとしていたことだ。気になってしょうがなかったのだ。道を通ってきたときの廃墟は、住む人がいなくなったから荒れたという荒れようではなかった。


「この村がこのような状況になっておる理由は人の醜さじゃ。かつて、この村では食糧が採れなくなり飢饉が起きた。その時、わずかな食糧を奪い合い殺し合いが起きた。そこで、殺された者は……」


「なるほど……そんなことがあったのか。だから村の人も少ないのか?」


「ああ、そうじゃよ。今はもう、わずかな食糧を少しずつ消費しながら生きていく日々じゃよ」


「これ……やるよ」


 ソウヤは、革袋のなかから残っていた食糧の2分の1を取り出した。これだけの食糧でどれほど生き長らえれることができるかは分からないがあげて損はないだろうと思ったからだ。


「こんなに多く……。ありがとう……」


「草原見つけたらこの村にまた来るからよ、それまで生きてろよ」


「そうじゃな。楽しみにしておくとしよう」


「それじゃ」


 ソウヤは歩きながら後ろに手を振る。その後ろ姿を見送ってから、長老は空高く煌めく太陽を見ながら一言呟く。


「あのような若者もいるのじゃな……。未来が少し楽しみじゃ」


 ソウヤは村を出るとまずは、長老から貰った地図の丸で囲まれた場所へ行くことにした。村を出てひたすら北へ行った場所にあり、目印は柱状の岩と書かれているが,そもそも北がどちらか分からない。ソウヤは考えた。この世界では、太陽は北から上り南に沈む。つまり、太陽がどっちの方向へ移動しているかを見れば導き出せるだろう。幸い、天気は晴れであり太陽の照り返しがきつい。時間が分かれば手っ取り早いが時間を気にしている人などこの世界にはいないだろう。好きなことをやって暮らす。世界がいつか、滅ぶと分かっているからだ。誰も努力をしない世界。それは、間違っているのだろうか。ソウヤが空を見上げると太陽はちょうど薄い雲に隠れてしまった。しかし、もう大体の位置は把握することができた。太陽は少しだけ村の方へと下がり始めている。つまり、だいたい昼過ぎだということだろう。ソウヤは太陽が沈む方向とは逆方向へ歩き始めた。


 しばらく、歩き続けていると日が沈んでしまった。日が沈むと荒野は気温が昼間とは比べ物にならないほど低くなる。このまま進み続けたいところだが体力を残しておくためにも休む必要がある。火をつけるのに役立ちそうな物を探し、歩く。村につくまでの二日間は、木がまばらに生えていたため火をつけるのに苦労はしなかった。火を出す道具はある。しかし、その火を強くさせるものがない。見渡す限り木などはどこにも生えていないからだ。ソウヤは仕方ないかと思い、革袋の中から一枚の白い服を取り出した。


「仕方ないことだ……」


 火をつけるための道具であるマッチを鞄から取り出す。火が燃え広がり始めたらその周りを石で囲い暖炉の完成だ。すぐ燃え尽きてしまうだろうが燃え尽きてしまう前に服を入れればいいだけの話だ。服に日が燃え移ったところで大きめの石を周りに並べる。


「寒いな……。何か食べよう」


 ソウヤは鞄のなかから食糧と水を取り出した。食糧、スープの元だ。それを水と一緒に火にかけようとしたところで鍋がないことに気づいた。仕方なく鉄製のカップの中にスープの元と水を入れてスープを作る。しばらくすればスープはできるだろう。それまで寝る準備をすることにしたソウヤは地面に布を敷いた。村につくまでの二日間もこれで寝たのだがどことなく寒かった。どこかに草でも生えていないかと探したところ。草がまばらに生えている場所を見つけた。その草をちぎりながら考える。まさか、ここが長老の言っていた草原なのではないかと。いや、それはないだろうとソウヤはその考えを頭からふるい落として火のある場所へと戻った。


 翌朝。眩しい太陽の陽射しで目が覚めたソウヤは周りを見て驚愕を受ける。地図に示されている草原の目印である柱状の岩がすぐそこにあるのだ。しかし、草原などどこにもない。草がまばらに生えているだけであり、荒れ果てた荒野だ。どこまでも、岩と土が地平線の果てまで続いている。ソウヤは落胆した。草原は残っていなかった。では、どこを目指せばいいのかと。一度村へ戻ろうかとも考えたが、もう草原を探すための手掛かりは残っていないだろう。とっくに消えていたが、服の燃えカスの後始末をして一夜止まった場所を発つ。どこへ行けばいいのかは分からないがまた、他の街や村を目指そう。ソウヤはそう考えた。


 ソウヤは歩き続けた。何か乗り物があれば楽なのだろうがそんなものはこの世界にはない。無くなった。何日もの昼と夜を越えていき、村を出てからどれほど経ったのか分からなくなった頃森に行き当たった。


「あれは……森か?」


 ソウヤは森を見るのは始めてだった。初めて自然の恵みというものを感じた。森には焚き火用に使える枝があるかもしれないうえに水や食糧もあるかもしれない。ソウヤは森に向かって走った。全てが初めて見る光景だった。木々からぶら下がる木の実。小さな湖のなかを泳ぐ魚。ビンに水を入れ、木の実を集め、枝を拾う。この森に戻ってこれるか分からない。そもそも、この先に森があるかさえ、分からない。できる限り革袋に詰めて森を出る。森は少し歩いたところで途切れていた。そこから先は見慣れた荒野だった。しかし、土の色が違う。これまでは赤茶色の土だったのに対して、黒い土と灰色の岩に覆われた荒野がひたすらに広がっている。気候が変わった。ソウヤはそう感じた。


 荒野が黒い土に変わってから自然が増えたようにソウヤは感じた。草がほとんど無く。木々も生えていなかった赤茶色の荒野と比べ、草がまばらに生えておりときどき木々も見かける。草原に近づいてきたとソウヤは思った。

 しかし、行けども行けども草原などはない。村を出てからひたすらに北へ向かっている。と、ソウヤは思っているがそれすらも分からない。ここで、引き返せば村や街に戻れるだろうかとふと思った。しかし、ソウヤは足を進めた。草原を見つけるまでは帰れないという信念があるからだ。


 やがて、生まれ育った街とは別の街に行き当たった。そこは、村ではなく街だった。立ち寄った村と違い門の検査は簡素であり、すぐに入ることができた。ソウヤが生まれ育った街とは比べ物にならないほどたくさんいた。食糧もたくさんあった。水もたくさんあった。ここは楽園なのかとソウヤは思った。しかし、他の街や村と同じように空はガラスで覆われ周りは防護壁で囲まれている。ソウヤは街を行く人に聞いてみた。


「この街は、なんでこんなに裕福なんだ?」


「あんた、よそ者かい? 仕方ないね、教えてあげようじゃないか。ここはね最北の街なんだよ。周りには街はない。だからこの街だけで好き勝手できるのさ」


「そういう、もんなんだな」


 ここは、最北の街らしい。それほど旅立ってから日が経ってないように感じるが、実際にはかなり日が経っていたのだろうとソウヤは思った。ソウヤは旅に夢中になるあまり時間を早く感じていたのだ。昔は、太陽の周りをこの世界が一周するのを一年と読んだらしいがそれほど経っているのだろう。草原の情報を集めるためにソウヤは書店を訪れた。しかし、古い本は無く最近書かれた本ばかりであったので、街に古くからあるらしい図書館に行ってみることにした。図書館は、かなり古い建物だった。図書館の前にある古びて、ひび割れている案内板によると、100年ほど前に建てられた建物であり様々な本が蔵書されているらしい。ここなら、草原の情報を掴めるかもとソウヤは期待に胸を膨らませた。


 図書館には、司書などおらずひどい有り様だった。読み終わったのであろう本はそこら中にほったらかしにされており、埃まみれになっていた。人は一人も居なかった。しかし、ソウヤはこの状況は使えるなと思った。図書館にこもり、片っ端から本を読み草原についての情報を手にいれることができると思ったからだ。


「まずは、この本だな……」


 片っ端からソウヤは本を読む。寝食を疎かにしながらも本を読み、草原についての情報を見つけるとノートにメモを取った。そして、数ヵ月後すべての本を読み終えたソウヤはある情報を掴んだ。物語でも史実でも北中部か南中部が主な舞台となっていた。そこでソウヤはまず北中部をグルリと回ってみることにした。これが、どれだけ大変なことなのかソウヤには分からなかったがひたすら歩くと決意した。


 食糧と水を街で補給してから、一日宿に泊まり街を出た。街から南へ歩き北中部をグルリと回る。街や村が1つも無い荒野を歩き続け、300回は夜と朝を繰り返しただろうかと思った頃ソウヤは見たことのある景色のもとへと戻ってきてしまった。ソウヤは、いつか立ち寄った村の長老が言っていた世界は球体だということは間違いではないのだと知った。そして、同時に世界の広さを知った。世界の広さを知ったとき、自分がやろうとしていることがどれだけ大変なことなのかを理解した。しかし、草原を見つけることをあきめるなんてことはできなかった。


 北中部をすべて旅したため、南へとソウヤは向かった。一度通った道を戻る。同じ場所を通っているのだが既視感は無い。南中部に、草原があると信じているからだ。そして、北と南の境である森へあと少しという時に異変に気がついた。森が枯れていた。ソウヤは悲しかった。自然の恵みを教えてくれた大切な場所が消えてしまったからだ。草原はもう無いのだろうかと思ってしまったが最悪な想定は頭の隅へ追いやった。


 枯れた森を越えて、赤茶色の土と赤茶色の岩に覆われた荒野に足を踏み入れて、村に至る道を行く。道なき道だ。歩き続けるうちにそ廃墟群が見えてきた。群というほど多くはない。廃村といったところだろうか。ソウヤは、その廃村に足を踏み入れた。廃村を一目見てソウヤは、言葉を失った。その廃村は、かつて訪れ草原の情報をくれた長老がいる村だった。ショックのあまり倒れそうになるのを堪えて、長老の家へ向かう。そこには布団に横たわり、今にも息耐えそうな長老の姿があった。


「おい、長老! 大丈夫か!」


「うぅっ、お前…さんは…、あの時の…草原を探すと言った……」


「長老……もういいよ……話さないでくれ! 俺が今治してやるからさ」


 ソウヤには、なにもできないと分かっていた。しかし、そのうえで治してやると言った。


「草…原は…見つかった…か?」


「まだ見つけれてないんだ!」


 約束をしたのに良い報告ができなくて残念だとソウヤは思った。


「そ…う…かい。見つかる…こと…を祈って…るよ」


「長老……、俺は感謝してる。だから!」


「最後…の…お願い…じゃ。わし…を…埋め…て…くれ」


「そんなこと、できるわけないじゃないか!」


「わし…は、も…うじきしぬ…。せ…めて、しぬ…と…きは、しぜ…んのな…かでし…にたい。し…ぜん…にか…えり…たい」


「分かったよ、分かったからさぁ……」


 ソウヤの両目から涙があふれでてきた。涙をぬぐい、長老の家を一度離れて人1人入れるぐらいの穴を掘る。そして、その穴に長老を入れる。


「さいご…の…おね…がいを…きい…てくれて…ありがとう…」


「うわぁぁぁー!」


 ソウヤは泣きながら、長老のうえに土を被せた。涙が止まらなかった。長老と話した時間は僅かだった。しかし、ソウヤの思いを理解してくれたものは長老ただ1人だけだった。やがて、泣き疲れたソウヤは長老が埋まっている土の上で眠った。悲しかった。寂しかった。しかし、それ以上にソウヤ自信の無力さを恨んだ。憎んだ。しかし、どうすることもできなかった。


 目が覚めたソウヤは決意した。俺自身のため、それ以上に長老のために草原を見つけると。長老を埋めた場所の上に墓標を立てて、一礼してからもう一度辺りを見渡した。辺りには墓がたくさんあった。ソウヤは叫びながら走り、廃村を飛び出した。


 ひたすらに草原を探した。草原を探して旅するうちに、食糧は尽きた。生まれ育った街の付近に草原が無いことは分かっていたので生まれ育った街付近には向かわなかった。食糧が無いため、水を飲んで飢えをしのいだ。ソウヤは、水が無くなれば俺は死ぬなと思った。しかし、命の危機を感じてでも旅をやめることはできなかった。やがて、南中部を一周し終えてしまった。南中部にも草原はなかった。そして、ソウヤ自身今どこを歩いているのかが分からなくなり水も無くなったとき地面が突如柔らかくなった。


「まさ…か、こ…こは」


 ソウヤの目にはどこまでも途切れなく広がる背丈の低い草が、果ての果てまで続いており、爽やかな風で背丈の低い草が凪いでいる。そんな景色が映っていた。


「草…原なのか?」


 ソウヤは、草原だと思った。この爽やかな風、見渡す限りの草の群れ。心に感じた喜びのあまり草地のうえにソウヤは横たわった。そして、かすれた声で1人空しく声を発した。


「俺…やっと…草原…見つけたよ。でも、何でなんだろうな。どこか空しいよ……。長老、街のやつら見てるか? 俺は…見つけたぞ。草原を」


 ソウヤは、満面の笑みを浮かべると目をつぶった。


 どこまでも広がる赤茶色の土と硬い岩石に覆われた荒れ果てた荒野に横たわる痩せ細った1人の男。その、男の横には冷たいかぜに凪いでいる一本の草があった。





読んでくださりありがとうございます。


最後の結末の受け止め方は読んでくださった方それぞれにお任せします。トゥルーエンドかバッドエンドかは読んでくださった方次第です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読致しました。 『強制的な冒険譚』でも感じた事なのですが(最新部分まで読めていません。すみません)川理代利様は、時間経過や時間配分の描写が上手なのかなと思いました。 なので、ここをも…
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