第8話
生きの良い魂魄と器の人型
あの子はいつも落ち着きってものが身につかないんだから 母 影宮玲悧
「師匠!ファミリエを追わなくては!」
「まぁお待ちよ、今度は君が落ち着きなさいなシス君」
おめおめと目の前のファミリエが宿ったと思しきゴーレムに逃げられてしまった吾輩とシス君、シス君は焦りをあらわに今にも追いかけていきそうになったが視線をシス君の服に合わせ着ている服の襟首の後ろを念力でつまみあげてシス君の行動を阻止した。
先ほどは極度の興奮のあまりシス君の身体検査魔術を行うことを後回しにしてファミリエ入りのゴーレムの調査を優先してしまうという里親失格な行動を深く反省する。
「つっ摘み上げないでください!師匠!」
「ごめんよ、シス君でもちょいとお待ちよ、今、追跡と身体検査魔術の結果が出て…おや?」
ゴーレムが逃走したことよりも吾輩は目の前で起こった一連の出来事に興味をそそられて顎に手を当てて思考を巡らすと同時にその場に残った魔力痕から対象を追跡する魔術とつまみあげたシス君を下してを身体検査魔術を二重に行使しその結果に興味がわく。
追跡の魔術は正直、期待はしていなかったがやはり反応がない…なんせ吾輩が張った保護結界を力づくで破るでもなく正式な手段で解いたわけでもなくましてや吾輩を含めた魔術や魔法を操る魔導士が考えもつかない方法で保護結界を中和してすり抜けるなどの高度な技術を見せたファミリエだこの程度は小手調べのことなのだろう。
だが、身体検査魔術の情報でシス君の体に特に異常がなく(腕や手首に異常は表面的にも見当たらない)、ゴーレムからの魔力線が伸びていることに気づく、やはりファミリエが憑依しているとはいえもとはゴーレムであるから召喚者からの魔力線はつながっているようだ。
「どうしたのですか?師匠まさか僕の体に何か悪いところでありましたか?!」
ゴーレムを追う為に研究室を飛び出そうとしていたシス君が不安そうな青い顔で問いかけてくるが吾輩の顔には笑みが浮かんでいた。
先ほどはファミリエに対してちょっと怖がらせてしまったために吾輩が追いかけるのは下策なのだならば別の手段を講じれば良い。
「いやいやとくにおかしなことはないよ、そ・れ・よ・り・も・シス君、ファミリエ君を連れ戻すためにちょいと協力してもらうよ~」
両の手をを合わせ魔力を練る、術式を改ざんして目的の魔術を創るとシス君に行使する。
シス君からつながる魔力線を通してゴーレムの視点に同調するどうやら学院の外へと道を探そうとしてあちこち高速で移動しているようだ。
次の瞬間には視線が動き回って道を曲がったりしているがゴーレムの中身がすごいものなのかとてもこの反応速度では人間族が出せる速度ではないのでこれでは単純に追いかけるだけでは罠でも使わないと捕まえられないだろう。
だとしても罠は単純なものでよい。そもそも吾輩たちが追いかけなくてよい。
「さてどこに行こうともゴーレムというものは必ず主人の呼び出しには応じるものだよ」
ぐにゃりとシス君のわきの空間が歪む。
「それじゃあ、もう一度改めて自己紹介から始めようかい?ファ・ミ・リ・エ・君」
突如として空中に放り出されたにもかかわらずに猫人族のようにちゃんと二本足で器用に着地を決めて見せたシス君のファミリエに穏やかに話しかけた。
「ええ、どうやらここから逃げ出そうにも普通のやり方じゃ無理そうですしね」
見事なまでに黒い髪目の彼女は引きつった笑みとともに吾輩たちとの話し合いに応じる態勢を見せたのだった。