第4話
見透かす片眼鏡
訳が分からないよとはまさにこの状況のこと 呼び出されモノ
「さて、あとは件の魔法陣と起動文字を最適な場所に刻んで必要量の魔力を流し込んでといったことだけだね~」
「魔導書には額に起動文字を、胸元に魔法陣を刻むように書いてありましたが」
「書かれている内容に忠実に沿う必要はないよシス君、今回はちょっとばかり吾輩がアレンジを加えようじゃないか」
「といいますと、どうするのですか師匠」
「まぁ、見ていてごらんよ」
アレクシスの作り上げた素体のゴーレムにアルテリウスが近寄りしゃがみ込み、シャツのボタンを二つ外して胸元をあらわにし額の真上に人差し指を押し付けると、音もなく静かにアルテリウスの指がズブリと沈み込む。
「ふむ、まずは起動文字から刻むかな、アレクシス、片眼鏡をかけてよく見ているんだよ」
アルテリウスが真剣な顔でアレクシスの名を呼ぶときは貴重な経験をアレクシスにさせようとしているときが多い、アレクシスは学院に入学できた記念にとアルテリウスに渡された解析と透過そして拡大と縮小の魔術が刻まれた片眼鏡が入ったケースをポケットから取り出しかけた。
渡された当初は自分に対してあまりにも親バカが過ぎるのではないかという問いも浮かんだがそれさえもお見通しといった調子でアルテリウスが「学ぶためには見るための道具も必要だよ」とアレクシスの頭をやさしくポフポフと撫でられたものだ。
アルテリウスはアレクシスが片眼鏡をかけたのを見ると額にめり込ませていた指を滑らせ起動のための文字を描いていく。
アレクシスがかけている片眼鏡越しの世界はまるでレントゲンを見ているかのような世界が広がっている。
その中でアルテリウスの動作一つひとつが光を描いてゴーレムの脳にあたる部分に刻まれていくのがアレクシスには分かった。
起動のための文字を溶かしゴーレムの脳に浸透させるように魔術を操る神業を苦も無く行うアルテリウスのさまはまさに魔導士と言えるだろう。
「さぁ、お次は肝心要の魔法陣だね、シス君、お手本は見せたから今度は君の番だよ、こっちに来て心臓のほうをやってごらん」
「えぇっ!僕がですか!それも心臓にですか!」
「そうだよ、これから君が呼び出す使い魔の魂が宿りそして動力炉になる魔法陣なのだから君が行うのが一番なのさ」
「でも師匠、僕はゴーレム作成と起動文字以外の魔術は」
「でも、だから、だってと言って恐れてばかりでは何も進歩しないさ、シス君、君がこの学院に入れたのは吾輩が才能を見込んだから、君には特化魔術師といったハンディキャップが確かにあるが、それを上回る魔力そのものを制御する能力は、学院にいるどの教員生徒も足元にすら及ばずと言い切れるほどだよ、もちろん吾輩を含めてね」
「師匠でも」
「だから恐れず挑戦しなさい、アレクシス、君一人では無理でも吾輩がちゃんと助言するよ」
アレクシスの体に震えが走る。
抑えようとしても止まらない小さな震えだ。
これがアルテリウスの言葉に対する歓喜によるものか、今から行うことに対する恐怖へのそれなのかは彼には分らない。
しかし、アレクシスの中で一つ定まったことがある。
「師匠、僕やって見せます、師匠が見出してくれた才能ですから」
「やる気になったようだね、いい顔になったよ」
アルテリウスはアレクシスの意志の強い瞳を見ると近づいてきた直弟子の手を取り、ゴーレムの胸元へと導くと静かに手を放す。アレクシスは指に魔力を纏いゴーレムの冷たい体にめり込ませゆっくりと心臓へとたどり着く、そしてアルテリウスのように指を滑らせ魔法陣を描き出す。
「そう、最初に円を描き陣を固定する、そうだよ」
「文字のバランスは小さめに中の図にこの世界に関する基礎知識が使い魔の魂魄に刻まれるためのものだから丁寧に」
「魔法陣を溶かす際は慎重に全体を薄く広げて心臓を包み込むようにして溶かし込んで」
ファミリエの召喚の儀式は続く………