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いつか語られた物語  作者: 祝子 紀
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第3話

魔石の石墨(チョーク)



あいつの後継者が可愛くない知恵の回る子だとはな   錬金術師フラメア・ニコラウス



「さて、そろそろ実験を開始しようかね~」


「この魔導書はどうしましょうか?」

「吾輩が栞を指しておいたところに件の魔法陣が書かれているからそこを開いてくれないかい」


 いわれたとおりにアレクシスは左手に書物を構え魔導書の栞の挟まったページを開いた。


 複雑な魔力を法則によって支配する陣がそこに描かれていた。


 初めて目にするファミリエの魔法陣は幼いころに見たその道を究めた職人が作り出した繊細な細工を施されたガラスの工芸品(アーティファクト)を見た時と同じ感動を覚えた。


「その魔導書に書かれた魔法陣の大きさが最大らしいから、それに見合う大きさのゴーレムを作ってくれないかい?吾輩は実験室に保護結界を張るからさ」


 アルテリウスの声に現実に引き戻されたアレクシスは魔導書の魔法陣に少なからず魅入られていたことを感じさせない動きでアルテリウスからフラスコを右手に受け取るとゴーレム作成魔術の詠唱に始めた。


 フラスコのゴム栓がひとりでに外れてアレクシスの手を離れて宙に浮かぶ、中から液化した金属が重力を感じさせない動きで人型のゴーレムを静かにかたどっていくまるでそこに透明人間がいてペンキでも被ったかのような現れ方だ。そして液化した金属がフラスコからすべて出たと同時にまたゴム栓が閉まる。


 アルテリウスもアレクシスの詠唱が始まるのと同時に右手に持っていた結界作成用の赤い魔石の石墨(チョーク)を空中に軽く放り投げた。


 放り投げられた石墨(チョーク)は天井ギリギリの高さで静止したかと思えば、次の瞬間には目にもとまらぬ速さで空中に文字を描き出し、二人とゴーレム一体を中心とした赤い光を放つドーム型結界が瞬く間に作られた。


 アレクシスがゴーレム作成の第一段階を終えた時、役目を終えた石墨(チョーク)がアルテリウスの右手に収まるのがアレクシスの目に入った。


 アルテリウスは満足げに保護結界を首を回して確認するとアレクシスが作り出したゴーレムにちらりと目を向け即座にくるりと背を向けた。


「相変わらずゴーレムの造形技術と観察眼において君の右に出る者はいないみたいだね、私としてもこれほど自分そっくりのゴーレムは作り出せないよ」


 アレクシスが今回モデルにした素体は自分自身であった。

 人型ゴーレムの真髄(しんずい)はいかに人間に近いものを生み出すかということを信念とし、ゴーレムの造形技術や不自然ではない自然な動きをゴーレムに組み込むことに心血を注ぐアレクシスだからこそ完成度だろうまるで死人を思わせる色合いの顔色でアレクシスそっくりのゴーレムがアレクシスの目の前に横たわっていた。


 詠唱を終えたアレクシスに背を向けながらアルテリウスは中身の無くなったフラスコを受け取り、おそらくは倉庫から空間魔術で中身のないフラスコと交換したのか簡素だが清潔な印象のズボンとシャツをアレクシスに渡した。


 作成した人間そっくりのゴーレムは当然のように裸であるためアルテリウスなりのアレクシスへの配慮だろうことを察して自分そっくり裸の人型ゴーレムにアレクシスは丁寧に服を着せた。


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