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いつか語られた物語  作者: 祝子 紀
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第2話

土くれの人形(マリオネット)



師匠(せんせい)が見出してくれた才能ですから   魔術師アレクシス



 その日の講義をあらかた受け終えたアレクシスは荷物をまとめると言われたとおりにアルテリウスの研究室を訪れた。


窓際の机に向かっていたアルテリウスは扉を開けたのがアレクシスであることを気づくと古びた印象を持たせる栞の挟まれた魔導書を片手に「座ろうか?」と近くの椅子をすすめた。


「今回は期待してくれていいよ、古代で使われていた使い魔もといファミリエの召喚を行うのだから」


「使い魔の召喚をわざわざですか?」

「そうだよ~。現代の使い魔といえばその辺にいるネズミを捕まえて自分の魔力で染めて出来上がりといったペットのような眷属が多いのだが古代では自身の生涯を通した相棒や伴侶といった側面が強くてね。それらを召喚するための専用の魔法陣がみつかったのだよ」

「専用の魔法陣があるのならば魔術師であれば僕の以外の人でもできるのでは?」


 アルテリウスの語ることはアレクシス自身のコンプレックスを悪戯に刺激するには充分であった。


 なんせアレクシスはゴーレム以外の魔術は良く言えば不得意、悪く言えば使えないので彼は自分以外の人でもできること、つまりは比較対象とされることがひどく苦手である。


 しかし、アルテリウスはクスリと笑みを漏らして片目をゆっくりと閉じアレクシスを見つめる。


「コンプレックスなどお見通しさ、この魔法陣はシス君のゴーレム魔術にぴったりなのだよ」


「僕のゴーレム魔術は召喚の魔術とは分類が全く別だと思うのですが、降霊の魔術であれば入れ物としてゴーレムを使いますが、召喚の魔術にゴーレムなんて身代わりや生贄の代わりにもなりはしないのです」

「それだよ!」

「それとは一体何ですか?」


 アルテリウスは閉じていた片目を開けて魔導書をアレクシスに手渡すと椅子から立ち上がり近くの棚の中から様々な結界を書くために使われるの赤いチョークを取り出し右手に持つと研究室の隣続きに作られた実験室への扉を開けてアレクシスを手招いた。


 アレクシスを見るアルテリウス教授の目は不出来な直弟子(せいと)を責めるようなものではなくこれから行うことに対する好奇心に満ち溢れたものだ。


 アルテリウスに手招かれたアレクシスはしぶしぶといった様子で机の上に荷物を置き、渡された魔導書を右手に持つと実験室へと続く扉をくぐり、殺風景な白い実験室の真ん中にたたずむアルテリウスの目の前に移動した。


「今回の実験は君のゴーレムに直接魔法陣を書き込むものだ」


「僕のゴーレムに直接ですか?」

「そうさ、この召喚の魔法陣の面白いところは降霊の魔術式を組み込まれた仮契約の魔法陣であることなのだよ、ふつうは降霊魔術を用いて作り出す自動人形(オートマータ)は意志を持たないがこの魔法陣を用いてゴーレムを作成した場合は意志を持ったゴーレムが出来上がるのだよ」



「仮契約の魔法陣、意志を持つゴーレム」



「そうだよ、通常の使い魔であれば捕まえてきたものに自分の魔力を染めるだけの簡単でつまらないものだがファミリエの召喚は降霊の魔術式が組み込まれた魔法陣をゴーレムに直接書き込みゴーレムを作り出すことを経て呼び出したものと対峙し双方が納得して初めて本契約へと至れる複雑な魔法陣なのだよ」


「ですが、僕がゴーレム魔術で製作できるのはモデルにしたものしかできないのです、それに呼び出したものが例えば蛙であったのなら人型のゴーレムに無理やり蛙を押し込んだちぐはぐな存在になってしまうのですよ?」

「それに関しては大丈夫さ!この魔法陣はその可能性も先読みしているかのように召喚したもの形に合わせてゴーレムを作り変えてくれる術式も組み込んでいるのだよ、でもさすがに大きさを変化させるのは組み込まれてなくてね」


「何故ですか?」

「召喚したものがドラゴンといった大型種の場合、十分な場所を用意せずにやるのは危険だろう?それに魔法陣の基準となる円の大きさから考えて場所を取らずに呼び出したものの本来の姿を知ることを優先したためだと吾輩は考えているのだよ」

「では師匠せんせい、ゴーレムの素材は何を使いますか?」



「今回はこれさ」



 チャッポンという音と共にどこからともなくアルテリウスの左手の中に白い液体の入ったフラスコが出現した。


 空間魔術の上位クラスである空間転移の魔術をこともなげにこなすアルテリウスに思わずため息を漏らしそうになるがそこは今の実験に関係ないとアレクシスは気持ちを引き締める。


 おそらくフラスコの中身は液化させた魔力に親和性を持つ金属なのだろうアルテリウスの左手にあるフラスコは淡い光を発したり玉虫色に輝いたりとせわしなく変化を続けている。


「知り合いの鉱石商人が珍しい鉱石を見つけて吾輩によかったら研究に役立ててしてほしいと先週末に学院を訪れてきてね、鑑定した結果魔力に親和性を持つ隕石(メテオライト)だとわかったんだ」

隕石(メテオライト)ですか!そんな貴重な鉱石を」

「いやいや、隕石(メテオライト)といっても鉱石の内容物によっては値段は一長一短だからシス君は気にしなくていいんだよ」


 フラスコの中身を確かめるかのごとく左手で軽くゆするアルテリウスを見るアレクシスは今度こそため息をついた。


 確かにアルテリウスの言う通り鉱石の値段はクズ石から宝石に分類されるものまでピンからキリまであることは確かだが魔力と親和性を持つ鉱石それも隕石(メテオライト)となると話は別になってくる。


 アルテリウスが知人の鉱石商人から実験に使う鉱石を買うことは珍しくない、他の教授たちも学院から支給される鉱石では足りない時に自費やコネクションを使って集めることはよくあることだが、隕石(メテオライト)に使った費用をアルテリウスが口にすることがないことから尋常ではない費用が掛かったことは確かであった。


 アレクシスは直弟子(せいと)として師匠(せんせい)と慕うアルテリウスの金銭感覚だけは苦学生の己には理解することはできないなと改めて思い口にすることなく心の中だけにとどめた、だが実験のために自らも費用を捻出することを惜しまないところは師匠(せんせい)らしいとも思った。


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