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4.怪物

 中庭の出口だったアーチ型の門が崩れ落ち、何か黒い塊がそこに(うずくま)っていた。

 ゆっくりとそれが形を変え、黄色く輝く目と黒い翼、鋭い爪と牙を持った怪物になる。これは・・・この怪物は・・・。

飛竜(ひりゅう)だ・・・でかいな。」

 ゲベルが静かに呟く。現実逃避しそうになっていた僕の希望を打ち砕く一言だ。

 確かに王子様に読んであげた本には載っていたけど、こんな神話や伝説に出てくる生き物が、まさか実在するとは思っていなかった。・・・ええと、本には「子供を食べる怪物」って書いてあったっけ。

「僕が注意を引きます、ゲベルは殿下を抱えて逃げてください。」

「無駄な事はするな。ここで時間を稼ぐしかない。」

「でも。ゲベルなら戸口を壊して屋内に・・・」

「こいつの狙いは殿下の魔力だ!俺が背中を見せたら終わりだ。」

 確かに飛竜の黄色い目が王子様を(とら)えているのが分かる。それに割り込む様にゲベルが立ちはだかる。

「俺が前に出る、お前は殿下と逃げろ!」

「はい!」

 殿下の手を握り直して腰を落とす。やるしかない。


「行け!」

 音も無く飛竜の巨体が空に浮き、そのまま足の爪を先に落ちてくる。考える前に体が動き、王子様を抱えて飛び退く。

(ほのお)よ!」

 ゲベルの声と共にその剣の刃が一瞬赤熱(せきねつ)し、輝く残像を残して流れる。

「ギェェェェェ!」

 雄鶏(おんどり)の鳴き声をそのまま大きくしたような絶叫が響く。どうやら最初の一太刀(ひとたち)は飛竜に届いたようだ。だが、ゲベルは騎士だからこんな大技(おおわざ)を何度も使える程魔力は大きくはないはずだし、鉄の剣だって赤く輝く程の高熱に長くは耐えられないはずだ。


 「来い!トカゲ野郎!」

 ゲベルが飛竜を挑発するが、飛竜はその剣を警戒して下がる。そして長い尾を左右に大きく揺らして威嚇(いかく)する。あんな太い尻尾で攻撃されたらそれだけで死にそうだ。

 どうする?どうすれば良い?何か出来る事は?僕にも火の玉が使えれば良かったのに、でもここで攻撃して注意を引いたら、ゲベルの努力が無駄になる。逃げ道を探そう!

 灌木(かんぼく)の影を()い、中庭の(へり)(つた)い歩いて出口を探す。けれども、中庭の窓は今日に限って鎧戸(よろいど)を固く閉め、もう一つの戸口も鍵がかかっている。

「なんで?どうして今日はみんな閉まってるの?」


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


前日譚:あの木より背が高くなる?


「カイルはずるい!」

「え?殿下?なにか至らない事がありましたか?」

「なんでカイルのほうがせがたかいの?ボクもおおきくなりたい!」

「ふう。ご安心ください。殿下はちゃんと大きくなります。王様も王妃様も王太子様も兄王子様も、みんな背がお高いですから。大人になれば私より高くなります。」

「おとなになったら?」

「ええ。」

「どれくらいたかくなるの?あのきくらい?」

「うーん、さすがにあそこまでは大きくならないと思います。」

「むう。カイルは、あのきのてっぺんにてがとどかないのに、なんでたかさがわかるの?」

「ええ?だって見るからに・・・。」

「ボクはおおきくなる!カイル、ウソはいけないんだよ?」

「ちょ・・・ちょっと待ってください、あの木の高さをお教えします。ええっと、測量と同じだよね?距離と角度・・・地面は(たいら)だし、紐と棒があればいいのかな?」

「てがとどかないのにわかるの?」

「分かります。殿下にウソはつきません。ちょっと用意しますね。」

「うん!」

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