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18.枯れ木に花を

「この大きさですか?」

 僕が大人の手のひらサイズの木の板を見てから尋ねると木工工房の親方が答える。

「そうだな、この大きさが一番多いな。」

 ここは町の教会の神父様の部屋だ。僕の目の前には神父様とヨルン、木工工房の親方、古着屋さん、石工の親方とその息子で徒弟のジンさん、それにもちろん王子様とマチルダちゃんとおばあちゃんもいる。つまり、僕がこの町に来てから知り合った鋳掛屋さん以外の大人の人全員が揃っている訳だね。


「別の大きさのガラス板もあるんですか?」

 僕が重ねて確認すると、今度は神父様が答えてくれる。

「もっと大きな物もあるにはありますが、大きくなれば高価にもなります、そこまで高価なガラス板など滅多に売り買いなどされないのですよ。大きくなれば壊れやすくもなりますし、子供達の負担も増えてしまいます。」

「ご説明ありがとうございました。では綺羅石(きらいし)はこの板の大きさに揃えて作ります。」

 僕は神父様にお礼を言って改めて木の板を見る。僕が割れ窓を直すまで、割れてしまったガラス板の代わりにはめ込んでいたという板だ。この神父様の部屋の窓もそうだけど、ガラス窓というのは正方形のガラス板を木の枠で幾つも並べるようにして作られている。お城に有った王妃様の温室だって南の壁一面がガラス窓だったけど、同じように小さいガラス板を並べた作りだった。

 窓全体が一枚のガラス板などというものは無いみたいなんだ。たとえ有ったとしても、ガラス板は遠い遠い南の国で作られる貴重品だ、小さい板に分かれていれば一部が割れてもその部分だけを取り換えれば済むって事なんだろうね。


「・・・それにしても、ヨルンがスレート板を買うだけの話がなんでこんなに大ごとになってしまったのでしょう?」

 僕が神父様の机の上に積み上がった雑多な大きさの綺羅石の板からヨルンに視線を移して言うと、彼は顔を真っ赤にして縮こまってしまった。いや、別に責めている訳じゃないよ?

「すみません。透明な石の板を作っていると楽しくなって、なんだか止まらなくなってしまって・・・。」

「気持ちは分かりますけど、それで魔力を全部使い切って気を失ってしまうのは危険だと言いましたよね?」

「深く、深く反省しました。魔力が無くなって、生きたまま埋葬(まいそう)されてしまったような(ひど)い気持ちになるのは二度と御免(ごめん)です。」

 うん、それは魔力が底をついた状態を良く言い表しているかもしれない。


 神父様が目を(つむ)って頭を振る。

「・・・まったく、あの時は心臓が止まるかと思いました。ヨルン、良い教訓を得たとは思いますが他の子供達が同じようにならないよう良く目を配ってください。」

「はい、小さい子供達には仕事では魔術を使わせませんし、板を作る時には必ず二人以上でやるようにします。」


 神父様から僕への頼み事が終わると、それまで黙って話を聞いていたおばあちゃんが、神父様に心配そうに尋ねる。

「神父様、石の板は子供達しか作ることが出来ないというのは本当ですか?教会の方なら皆ある程度は魔力をお持ちなのではありませんか?」

「確かに、教会は騎士の家の二、三男が多いので、万一家督(かとく)()ぐ場合に備えて簡単な魔術ならほとんどの者が使う事が出来るのですが、魔導士の様に自由に魔術を憶えて使える程の魔力を持つ者はそうそう居ないのです。その一方、無垢(むく)な子供は見ただけで新しい魔術を覚えてしまう事が多いので・・・私が倒れたヨルンに気が付いた時には、既に教会の子供達は綺羅石の板を作る魔術を身に着けてしまっていたのですよ。勿論(もちろん)、子供達に無理をさせる様な事は絶対にありません。ご安心ください。」

 そう、昔の僕みたいに調子に乗ったヨルンは、教会に居る子供たち全員に綺羅石 ― 白雲母(しろうんも) ―の結晶を張り合わせて成長させる魔術を教えてしまったんだ。お城に居た頃に、誰も僕の微妙(びみょう)な魔術に興味を示さなかったのは、新しい魔術を憶える同年代の子供が身近に居なかったからなのかもね?、

 うーん、ヨルンが・・・(うらや)ましい!嫉妬(しっと)しちゃうかも?・・・でもいいもん、王子様なら僕の変な魔術を色々見てきているし、魔導士並みの魔力も持っているから、そのうち僕の魔術も憶えてもらえるもん。


「神父様がご無体(むたい)な事をなさるなどとは思っておりません。けれども、このような高価な物を作れるとなれば、子供達が狙われる様になるのではないかと心配になるのです。」

 そうか、おばあちゃんは僕の事を心配してくれているんだ。それに僕の近くに居るとマチルダちゃんが危険な目に()う可能性もあるね?

「ええ、モディの心配はもっともです。子供達を危険な目に遭わせないようにするために、町の職人や商人がこうして集まったのです。」

 綺羅石の板を売るだけなら、商人である古着屋さんが居れば十分だと思って不思議に思っていたら、神父様は色々と考えてくれていたみたいだ。

「綺羅石の板は、今までもこの町の近くで採れることがありました。ですからこの町の石工が綺羅石を掘り出して売る分には不審(ふしん)(いだ)かれるような事はありません。表向きは石工が採った事にして、木工が作った箱に、古着を(ほぐ)したものを敷いて売り出すことを考えているのです。」

 すると「表向き」と言われた石工の親方が神父様に尋ねる。

「ええと、ウチは口をつぐんで黙ってりゃ良いんですかい?」

「いや、綺羅石の板を作るには、元になる白い石が必要です。それも結晶の粒が大きい物が良いのです。一番大変な仕事をお願いする事になるでしょう。」

「おお、中々重たい仕事になりそうだ。息子よ、荷車で石切り場から教会までどんどん運ぶぞ!」

「はい!お(どっ)つあん!」


 神父様は木工工房の親方と古着屋さんにも仕事を頼む。

「綺羅石の板は、ガラス板よりも割れにくいとはいえ、長い旅をする箱にはそれなりの工夫が必要でしょう。幸いこの町の中ならば色々試して失敗しても元通りに直すことができます。材料や手間賃程度しか出せませんがこの町の為になることです、よろしくご協力をお願いします。」

「最近、ウチの工房はちょっと景気が良いし、いい加減洗濯板(せんたくいた)以外の仕事もしたかったんで・・・お任せください。」

梱包材(つめもの)ですか・・・確かにフェルト屑なら・・・いや、普通は枯草(かれくさ)麦藁(むぎわら)を使っていますね?貴重品ですから二重の箱にするという手も・・・おっと、とにかく親方と相談して進めましょう。」


 神父様は満足そうに頷いて言う。

「長い間、私たちは痩せて薄い土を耕し、湖で(すなど)っても人々の糊口(ここう)を満たすことは出来ないこの土地で、交易に頼って生きてきました。今、(わず)かとはいえこの枯れた土地から新しい産物を売り出せるのはまさしく神の助けと言えましょう。ご協力に感謝を。皆さまに神のご加護がありますように。」


 ・・・なんだか思ったより大ごとになってきたかも。でもこれで僕にも手間賃が入ってくるようになるから良かったよね。これからの収入の一部はお城に帰る旅費として積み立てるのが良いかな?早くゲベルや鋳掛屋さんが帰ってこないかな?きっと喜んでくれるよね!

やっとこ更新できました。

カイル君が言う「大人の人」に青空教室の生徒達の母親が含まれていないのは、お城に居た頃に「成人男性以外とは話してはいけない。」と言われて育ったために、簡単な挨拶程度しかしていないせいです。

さり気なく歪んでいる主人公ですが、マチルダちゃんのおばあちゃんが矯正中ですのでなんとかなるでしょう。

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