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16.お金が無くても

2018/6/4 誤字訂正しました。

 ゲベルと鋳掛屋さんが帰って来なくなって2日が過ぎた。おばあちゃんは「大丈夫よ。直ぐに帰って来るわ。」と言ってくれるけど、マチルダちゃんはちょっと寂しそうだ。でも、王子様がぴったりと寄り添(よりそ)っているから安心かな?


 今日も青空教室の後は王子様とマチルダちゃんのお勉強だ。今日からマチルダちゃんには簡単な算数を教えているんだけど、どうもマチルダちゃんは簡単な足し算は既に知っているみたいだ。・・・やっぱり鋳掛屋さんが教えたのかな?僕が王子様に教えた81種類の呪文・・・掛け算の九九も教えたら覚えてしまいそうだけど。うーん、まだ早いかなぁ?小さい子は覚えるのも早いけど、せっかく覚えても使わないと直ぐに忘れちゃうしね。


 僕がそんな事を考えながら窓 ― 木の扉が付いているだけの開口部(かいこうぶ) ― の外を見ると、道の反対側からこちらを(のぞ)き込んでいる少年と視線が合ってしまった。教会で僕達を礼拝堂に案内してくれたり、フェルトの水ペンやスレート板について(たず)ねてきたりした、あの色白な少年だ。少年は小さい荷車がギリギリすれ違える程度の幅しかない、家の前の通りの反対側に張り付(はりつ)いている。


 少年はとても驚いた顔をして固まっている。うーん、僕が外を見ただけで目が合ったって事は、僕の事をずっと見ていたって事?・・・まぁいつまでも二人で固まっていてもしょうがないので、窓辺(まどべ)に歩み寄って少年に声を掛ける事にする。

「こんにちは!何か御用ですか?」


 僕の声を聞いた少年が、口を真一文字に結び、意を決した様子で道を渡って近づいて来るので、慌てて家の戸口を開け「いらっしゃいませ。」と言って招き入れる。

「先日は名乗りもせずに失礼しました。ヨルンとお呼びください。」

 やっぱり教会の子は礼儀正しいね。それに、なんだか随分(ずいぶん)思いつめた雰囲気(ふんいき)だ。僕が「カイルと呼んでください。」と答えてから振り返ると、縫い物(ぬいもの)をしているおばあちゃんが立ち上がって「どうぞ。入ってお座りなさいな。」と言ってくれる。


 僕が進めた椅子に座ると彼が話し始める。

「あの、今日はお願いしたいことがあって参りました。」

「はい、何のお話でしょう?」

 神父様には色々とお世話になっているし、僕に出来る事なら・・・おっと、王子様のお世話が出来ないのは困るし、おばあちゃんのお手伝いが出来なくなるのも困っちゃうね。やっぱり話を聞いてから決めなくちゃ。


「実は、この前見せて頂いた文字の練習に使う道具を手に入れたいと思ったのです。教会にも何人か文字を覚える年頃の子供がいますので。」

「はい。」

「それで、カイルに教えて貰った古着屋と石工の工房に行ってお願いしてみたんですけど・・・お金が無いと買えなかったんです。」

「・・・ああ、交換できるものが無かったんですね。」

 僕がそう言うと、ヨルン君の顔がぱっと明るくなる。

「そ、そうなんです!教会の子供達はお金なんか持っていませんし。教会にも余分なお金なんて無いんです。」

 確かに、僕だって割れ窓直しの仕事が無ければ一文無しだった訳だし。彼の欲しいのに買えないという苦しみは良く分かる。

「自分達で作るのですか?」

 子供だけで作るのは難しそうだけど、材料さえあれば作り方は僕が教えられるよね?

「それも考えたのですが・・・古いフェルトや糸は使わなくなった古着から手に入るのですが、余分なスレートの板はやっぱりお金が無いと手に入らないんです。」

「うーん、黒っぽい石なら、建物の床石(ゆかいし)でも、道の石畳(いしだたみ)でもいいんですけど・・・この町は白い石ばっかりですよね?」

「そうなんです。」

 僕って悲しそうな顔に弱いのかな?ヨルンにも何かしてあげたいと思ってしまう。

「そうすると、僕に頼みたい事って何でしょう?」

 彼は口を何度か開けたり締めたりしてためらった後、僕の目を見て言った。


「僕に!魔術を教えてください!騎士になれる程度の魔力は持っています!魔術でお金を手に入れて、スレートの板を買いたいんです!」

ちょっと短めでした。次は週末までになんとか・・・

それにしても、いまだにヒロインの影も無いとは。どうしましょう?

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