1.神様ありがとう!
僕はカイル、転生者だ、別に信じてもらわなくてもいいけど、一応別の世界、別の時代で生きていた記憶がある。それ以外は特別な事は何もない普通の子供だと思う。
身分的には結構良い生まれだ。騎士の家で長男、おまけに母は王子様の乳母だから乳兄弟として将来は王子様の側近確定だ。
ほとんどの人が農民になる社会でこれは破格と言っていいと思う。凄いよね、合った事も無いけど「神様ありがとう!」って教会に行く度に感謝している。
王子様はこの国の第三王子で、僕の5歳下。生まれてすぐに死んじゃった弟と同じ歳だ。自分で言うのもなんだけど可愛い。おまけに利発で控えめな性格で悪戯の一つもしないスーパー王子様だ。
将来は王太子様を支える理想的な臣下になるように、僕の両親を含む全関係が色々誘導したり、刷り込・・・じゃなかった教育したりした結果なんだけどね。
僕の母親が乳母になったのも、王子様を担いで徒党を組むような高位貴族が排除された結果だし、一番の側近が最下位の貴族になる予定の僕なのも、みんな頭のいい大人達が立てた計画の一環なんだ。
なんと、僕が色々と悪戯をして、その後それがバレて大人達に怒られるまでが王子様の教育の一環だったりもするんだけど。まぁ道理で悪戯の成功率が高い割にバレるのも早いなぁって不思議に思ってたよ。トホホ。
でも悪戯は止められません、キリッ。うーん子供だよね?なんで自制できないんだろう?王子様には出来るのに。王子様は偉いよね、やっぱり血筋ってあるのかも。
まあ、僕はこんな人生で良いと思ってる。余剰生産性が低いこの世界でのんびり宮仕えなんて最高だよね。
王子様のお供って事で、入る事が出来た王宮の図書室で読んだ歴史書にも、古代帝国では一般大衆にまで貨幣経済が浸透していたけど、現在は農村部では物々交換が主要な商取引になってるって書いてあったし。
あーやだやだデフレ社会ですよ?こういう時代には宮仕えでお給金が銀貨で貰える生活が一番に決まってますよねー。ビバ!スローライフ!!
僕はこのまま王子様のお世話をして、のんびり暮らすんだ。もう一度感謝しちゃう!ありがとう神様!
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幕間:地に平安あれ
第三王子は理性的で才気煥発、まるで生まれながらの王者のようだ。私も長く生きてきたがこれ程の人物を見た事は無い。天才という言葉はこのような人間の為にあるのだと実感する。
確かに、早熟で大人顔負けの知識を蓄える子供は稀とはいえ存在する。だが第三王子はそれとは違う。教えられてもいない事をさも普通の事のようにしてのけ、何故そうなのかを尋ねると一流の教師のように判りやすく説明さえするのだ。
王城の倉庫にある武器や小麦の量を瞬時に計算し、相続争いがされた農地の面積を求める計算をするのが、僅か5歳の子供だなどといったい誰が思うだろう。あの幼い口から遠い丘の高さを正確に測る計算方法が出てきた時には心臓が止まるかと思ったものだ。
危険だ。王家の血の力に遜色も無い、これ程の才能を王太子が使いこなすことは難しいだろう。内乱を避ける為に身近に高位貴族を置かなかった事も失敗だった。今のままでは王権に野心の有る者なら誰でも第三王子を担ぐことが出来る。
どうすれば良いのか、ここまでの傑物ともなれば出家させて神に仕えさせても教会の権力復活に利用されかねない。5歳の童ならば、まさか何かの罪に問う訳にもいかぬ。
だが、もう時間が無い、来年になれば王子も城に送られてくる貴族の子供達と共に教育を受けるようになる。そうなればあの光輝かんばかりの資質を隠すことは出来なくなるだろう。
・・・やはり、私がやるしかないのだろうか?先王儚去の時の様な国を割る内乱は何をしても防がなければならない。流血、死、弱き者達の骸・・・あれを繰り返す訳にはいかぬ。ああ、神よ私を地獄に落とし給え。