プロローグ
今日はクリスマス、周りはカップルだらけ。
イルミネーションが光っていて、皆楽しそうに町中を練り歩いている。
俺はと言えば、これから夜勤の警備の仕事がある。
「みんな楽しそうだなぁ…」
高卒で特にやりたいこともなく、就職するのも面倒臭い。
かといって、働かなければ食っていけない。
だから今は、なるべく給料の良い仕事をしながらボーッと生活している。
目的もなく、何も考えない人生を歩んでいる。
「いつからこんなつまらない人生になったんだろう…」
クリスマスの夜ということもあって、憂鬱が加速していく。
目の前の現場までついた、今日は建築関係の警備だ。
「ガードマンさんお疲れー!足場組むから歩行者誘導してねー!」
「分かりました」
土方の兄ちゃんは元気だ、俺と違って家族や友達がたくさんいるんだろうな。
(俺だって本気を出せば…)
本気ってどう出すんだったっけ。
というか、本気を出したことすら無い気がする。
「おい、足場緩んでるぞ!あぶねえ!」
「崩れるぞッー!避けろッー!」
何やら大声が聞こえた、そちらの方を向けば、足場の鉄板が落ちる寸前だ。
真下には小さな男の子がボーッと立っていた。
「あぶねえッ!」
俺は咄嗟に踏み出して、その子を突き飛ばしていた。
と、同時に凄まじい音が聞こえた。
(なんだ…どうなったんだ…?)
うっすらと目を開くと、どこかのおばさんが悲痛の表情でこちらを見ていた。
その横には、先程の男の子らしき子が、なぜかおばさんがその子の目元を手で伏せている。
周りを見渡すと、皆が凄惨な顔をしながらこちらを見ている。
(なんだなんだ……?こんなに哀れみの視線を受けたのは産まれて初めてだ……)
俺は、ゆっくりと自分の体へ目を向ける。
足場が見事に俺の腹に刺さっていて、上半身と下半身が分裂していた。
辺りは血の海と化していた。
(あぁ……なるほど……これは詰んだ……)
なぜか冷静な自分がいた。
(目が見えない……とても寒い…………)
俺はゆっくりと目を閉じた。