魔物
私が家に戻った頃には、もう勇者達はこの村から出て行っていた。
私は、勇者達の後を追うために最低限の荷物をまとめ家を出た。
「あぁ、聖女様。どこにおられたのですか?勇者様御一行が村を出る時にお姿が見えなかったのでみんな心配してましたよ。あ、これからお出かけですか?」
私を見つけた男性がそう言いながらこっちに来た。
「えぇ、しばらくこの村に帰ってこれないと思います。それより、勇者達がどこに行ったのか分かりますか?」
「ええと・・・たしかここから北西にあるスヴェント王国に行くって言ってましたよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
私は彼にお礼を言って村の入口に向かう。
小さな村なので私がしばらく帰ってこないという話はすぐに広まり、村を出る時にはたくさんの村人達が集まっていた。
「行ってきます。」
私はまた会えるかもわからない彼らにそう言って村を出た。
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私はスヴェント王国へ向けて歩いている。
村の周辺なら歩いた事はあるがもうここは周辺という距離ではない。
昼過ぎに村を出たはずなのに、もう日が沈み始めている。
「大きな王国らしいからそろそろ見えてもおかしくない頃ですね。」
そう呟いた時だった。
ガサガサッと草むらが揺れた。
私が音のした方向を見ると、中型犬ぐらいの大きさの狼のような魔物がいた。
「えっと、確かヴォーダンウルフって名前でしたっけ・・・」
この魔物とは何回も戦った事はあるので別に怖くはない。
私は手に魔力を集めた。
すると手の上に光すらも飲み込むのではないかと思えるほど黒く、そして鈍く輝く短剣のようなものが出来た。
私がヴォーダンウルフの出方を伺っているとヴォーダンウルフの方から飛びかかってきた。
私は飛びかかってきた勢いに合わせて短剣を顔面に突き刺した。
「グァァァァ!?」
やはり魔物は丈夫なようで一撃で倒す事は出来なかった。
ヴォーダンウルフは私との距離をとってしまった。
さっきのを警戒しているようで、なかなか来ない。
だから今度は私からやってみることにした。
私は地面に手を触れヴォーダンウルフの真下に魔力を流す。
そして一気に魔力の塊を地上に放出した。
魔力の塊は杭の先のような形になっていて、ヴォーダンウルフの腹部を貫いた。
これには耐えきれず、ヴォーダンウルフは声も発することなく倒れた。
「初めてだったけど上手くいきましたね。やっぱり私って魔力操作の才能でもあるのかしら。」
そんな事を思いながらスヴェント王国に向けて歩き始めた。
まだまだ王国へは、たどり着きそうになかった。