復讐、そして
「国王に会わせて下さい!今すぐに!!」
俺はアルス王国に来た。
アルス王国は武力国家でとても高い軍事力を保有している。
俺は、城の受付の人に緊急で国王に会わせてくれと頼んだ。
俺のとても切羽詰まった演技が上手くいったらしく、程なくして国王との面会の許可が出た。
「勇者カインよ。受付の者から緊急の用事だと聞いたが何事だ?」
「僕にアルス王国の兵を貸していただきたいのです。」
「ほう。勇者が必要としているのだから貸してやるが、何故だ?それに他の仲間達はどうした?」
「仲間は皆殺されました。そして私も追われているのです。」
「何?魔王の手先か?分かった早急に手配する。」
「ありがとうございます。国王様。」
「何、気にするな。お前は歴代の勇者よりも強い。今回こそ魔王討伐出来るやも知れないのだからな。お前が死んでしまっては困る。」
俺は一礼してから玉座の間を出た。
王国の門を出るとそこには既に数百もの軍隊があった。
「皆さん。この僕のために力を貸してくれる事に感謝します。絶対に魔王の手先を倒しましょう!」
「おぉぉ!!!」
返って来たのは数万にも及ぶ兵士達の声。
これなら勝てる。
そう思った時だった。
「そんなに盛り上がってどうしたんですか?」
アリサがこっちに歩いて来る。
兵士達が一斉に振り返った。
来るのが早すぎる。
俺が強化魔術込みで一日中走ってアルス王国に着いたのに、もう追いつかれた。
「皆、こいつが魔王の手先だ!撃退するぞ!」
俺の声で魔術師と弓兵の部隊が狙い撃つ。
しかし、どんなに撃っても全く当たらない。
「くそっ!何で当たらねぇんだ!」
弓兵の誰かがそう言ったのが聞こえた。
ゆっくりと近づいて来ていたアリサが何故か急に立ち止まる。
俺が何事かと思った瞬間、まだ遠くにいたはずのアリサが目の前で短剣を振り下ろそうとしている。
キィン!!
俺は間一髪ぎりぎりのところで勇者の剣で防いだ。
「お前だけは絶対に許さない。謝っても絶対に許さないし、何があっても絶対に許さない。」
俺は少し距離をとって無言で剣を構え直す。
アリサが動いた。
動きがほとんど見えない。
高速で襲いかかってくる。
俺は一歩でも間違えたら危険なぎりぎりの所で攻撃を防げている。
アリサの攻撃がどんどん激しくなる一方だ。
「うぉぉぉぉ!!」
今まで周りで見ていた兵士達の一人がアリサに向かって切りかかる。
アリサは避けるだけでその兵士には反撃も何もしなかった。
このお陰でアリサの攻撃が止まった。
「邪魔しないでくれませんか?殺しますよ?」
これが元々聖女だった人が放ったとは思えない殺気に兵士達は動けなくなった。
俺は反撃に入る。
使える強化魔術を全て使ったうえに、『限界突破』も使った。
限界突破は一時的に全てのステータスを百倍にするスキルだ。
一度使ったらしばらく動けなくなるから絶対に仕留めないといけない。
キィン!
ガッ!
カン!
俺の攻撃が次々と弾かれる。
「今、どんな気持ちですか?あなたの全力の攻撃が一つも私に当たってませんよ?」
アリサはニヤニヤしながら攻撃を弾き続ける。
そしてついに限界突破の効果時間が切れてしまった。
体が鉛のように重くなり、力が全く入らない。
「あら?もう終わりですか?」
これはもうダメだ。
俺は地面に倒れ込んだ。
「さて、あなたが私に苦痛を与えたように私もあなたに苦痛を与えてあげます。」
アリサは持っている短剣を俺の腕に刺した。
「痛いですか?あなたの腕を今から切断するのでよく見ておいて下さいね。」
ザクッ
グッ
ゴリッ
体から腕が切断された。
「うぁぁぁぁぁぁ!!」
それを見たショックと痛みを堪えることが出来なくなり、叫びをあげてしまった。
「そうそう、その声を聞きたかったんです。」
アリサは嬉しそうに笑う。
それからさらに滅多刺しにされた。
グサッ
グサッ
グサッ
グサッ
「あはははははははは!!」
アリサは俺の血で赤黒くなっても笑いながら更に刺す。
勇者の体だからかアリサがわざと意識してるのか、なかなか死ねない。
グサッ
グサッ
グサッ
グサッ
意識が遠くなってきた。
不意にアリサの手が止まった。
「私・・・なんて事を・・・」
今までとは様子が変わり急に立ち上がった。
「神様・・・どうかこんな私をお許しください・・・」
そう言ってアリサは自分の心臓に短剣を深々と突き刺した。
すると、アリサの体は真っ赤な炎に包まれた。
「まるで火刑みたいだ・・・」
そう思った所で意識が無くなった。
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気がついたら、私は短剣をカインに刺していた。
ジルを殺した事までは覚えている。
しかしそれ以降の記憶が全くない。
「私・・・なんて事を・・・」
ダリル、リリィ、ユーリ、ジル。
皆殺してしまった。
「神様・・・どうかこんな私をお許しください・・・」
私が死んでも何も変わらないし、神様に許されない事は分かっている。
しかし、私が死をもって償うしか方法は無い。
私は短剣を心臓に刺した。
次第に体から炎が出てきて全身を包む。
痛い・・・
熱い・・・
「まるで火刑みたいだ・・・」
カインがそう言ったのが聞こえた。
私みたいな異端者はこの世から完全に消滅した方がいい。
それが最期に思った事だった。