表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/34

第7話_夜の宴と小さな違和感

僕が生み出した小さな殺気。いや、殺気とも呼べない小さな不機嫌。

でも、それのせいで気まずい沈黙が訪れていた。


――ぱたり。ぱた、ぱたり。

基礎魔法で生み出した魔法の光球に、集まる蛾達の衝突音が空間に響く。

「「「……」」」

誰も言葉を発しない。

僕もチュラカもグローリーも幹部猫娘2人も。


しんとした空気の中、広場で行われている「召喚成功の宴の準備」をする声が、遠くに聞こえる。そして、チュラカのお腹が「ぐ~」っと鳴く音が聞こえてきた。

「……にゃほん! ご飯、食べに行くかにゃ? そろそろ宴の準備ができているはずにゃ!」

取り繕うようなチュラカの態度。

ちょっとそれが微笑ましくて、周囲の緊張感が緩まった。


「……そうだね、ご飯食べようか」

立ち上がりながらグローリーに視線を向ける。

「美味しいごはんが食べたいな」

グローリーの言葉に、幹部猫娘達も頷く。

「食べるですにゃ!」「ですにゃ! ですにゃ!」

チュラカが笑顔で、元気良く立ち上がる。

「それじゃ、宴にするにゃ(≡ω)!」


続けて立ち上がろうとしたグローリーに、条件反射的に手を差し伸べそうになった。

HPもMPも回復していないから、見るからにフラフラなのだ。


でも、さっき拒否されたことを思い出して、それとなく手を引っ込める。

流石にまだ今は、手を取ってもらえないだろうから。


 ◇


村の広場に十数名ずつ固まって座る。

その中央に僕とグローリーは座っていた。

一方で、チュラカはというと、僕の隣で木製のコップを持って開会のあいさつをしていた。

いかに召還の儀式が大変だったか。いかにオークの主の僕が素晴らしいのか。そんなことを3分以上も話しているせいか、猫娘達の耳と尻尾がそわそわしている。

お肉を前に我慢ができない……みんな、そんな表情だ。


自分でも長くなっていると気付いたのだろう、少し強引にチュラカが話をまとめる。

「――ということで、チュラカ達のヌシ様に乾杯にゃ!」

「「「乾杯にゃ!!」」」「「にゃ!」」「「「乾杯にゃ~♪」」」

「乾杯」「……かんぱい♪」

チュラカの音頭に合わせて、ミニマム・キャットオークと僕、そしてグローリーの言葉が重なる。


今、僕達が手に持っているのは木製のコップに入った果実水。

チュラカ達が採集していたノブドウのような果実のしぼり汁に、魔法道具で生み出した“冷たい飲み水”を加えたものだ。


ちなみに、この飲み水、僕が作った魔法道具第1号から生み出されている。

グローリーから「水属性>アイス・ニードル」の魔法と「水属性魔法>基礎」の中に含まれる水を生み出す魔法を教えてもらい、解析して魔法陣を作って、1つのコップに組み込んだのだ。


多少寝ていたとはいえ、グローリーのHPやMPは枯渇寸前だったから、全員分の果実水を作るのは無理そうだったし――何よりも、解析~作成~転写までの過程が、僕の頭の中にあるイメージ通りに作れるのか試してみたかったという本音がある。


魔力さえ流せば無限に冷たい水が出てくるコップ。名付けて“不滅の泉エターナル・スプリング”だ。


……うん、自分でも中二病だと思う。チュラカ達には大好評だったけれど、グローリーにはジトっとした視線を向けられてしまった。

でも、それは、ご褒美です!!


――なんてことを考えていたら、トテトテと1人の猫娘が近付いてきた。

「ヌシ様、ヌシ様、ご飯食べて下さいにゃ!」

そう言って、平皿に乗せられたお肉と野菜を手渡してくれる。


確か、幹部猫娘のルーちゃんだ。

くりっくりの焦げ茶色の瞳が褒めて欲しいと訴えていたから、優しく頭を撫でてあげる。瞳と同じ焦げ茶色の猫耳と猫尻尾が嬉しそうにパタパタと動いた――と思った瞬間、ふと感じる視線。

周りを見てみると、猫娘達の熱い視線が僕に集まっていた。


「うらやましいにゃ」「ヌシ様に撫でられてるにゃ」「にゃにゃ!」「先を越されたにゃ~」「あざといにゃ!」「食べ終わったら、次を持っていくにゃ」「あ、それは順番にゃよ?」「早いモノ勝ちにゃ!」「負けないにゃ!!」


若干、剣呑な空気になりかけたのをチュラカが止める。

「みんな落ち着くにゃ! ヌシ様はそんなに一杯食べられないにゃ」


僕のことを思って言ってくれているのかな――と思ったけれど、気がついた。

チュラカの性格では、そんなことはないと。

多分、自分が食べる分が減ると思って言っているだけだろう。


「――ふふっ♪」

僕の考えていたことがバレたのか、グローリーが小さく噴き出す。


「とりあえずお腹がすいたわ。食べましょう?」

笑顔だけれど、グローリーに感じた違和感。

それの原因はすぐに気付いた。

グローリーが手に持っていた平皿にお肉が乗っていないのだ。


「グローリー、お肉は食べないの? 野菜だけだと夜にお腹がすくよ?」

「うん、大丈夫。ほら、わたし、少食だから」


ちょっとだけ影のある瞳。

グローリーが無理をしているのが、何となく僕にも理解できた。


グローリーのトラウマは、少し深いのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ