第28話_協力関係?
フランネルとの簡単な自己紹介の後に、僕の側近(?)として「グローリー+獣耳娘3人」をフランネル達に紹介する。
4人は見た目通り人族、キャットオーク、コボルト、ゴブリンだと分かるけれど、族長候補なのにシャントリエリとブルーアが僕の配下になっていることを、フランネルを含めたミニマム・ラビットスライム達はとても驚いていた。
その後、機密情報を話しても良いように、場所を滝の近くに移してから――お互いに置かれている状況を話し合った。
簡単にまとめると、次のような感じになる。
僕らの持っている情報は――①元勇者のグローリーから手に入れた情報によると、ファントムの森の入口を人間が開墾しようとしている②シャントリエリの住んでいた村が分裂して族長争いをしている③ミニマム・ラビットスライムの偵察に出ていたブルーア達と決闘して仲間に引き入れた④温かいお湯である温泉が出る場所で、新しい村を作ろうと考えている――というモノ。
その一方で、フランネルは――①ここ1週間で、就寝直前までは村にいた仲間が、朝になるごとに1人、また1人と消えていく②次は誰が消えるのかと怯えていたら、神域である苔の森から騒がしい声が聞こえてきた③性欲が強いオークの主がいたから、オークの主が仲間を攫ったのではないかと疑った――ということを困ったような顔で話してくれた。
◇
フランネルが一息ついてから、お互いに顔を見合わせる。
「僕らもフランネルの事情は何となく理解出来たよ。もし良かったら、フランネルの村で起こっている事件の解決に僕らもきょうりょ――「わたくしは、まだアキラさんのことを信用はしていませんよ? それでも良いのですか?」――えっと? 本当に?」
一瞬固まりかけた僕の言葉に、フランネルがとても良い表情でにっこりと微笑む。
「はい♪」
「……僕がフランネルの仲間を攫っていないのは、ここにラビットスライムがいないことで分かるよね?」
「いえ――犯して、殺して、埋めれば、何も証拠は残りません。森は広いですし、水属性の耐性を持っていれば、わたくし達の“強酸”は自衛手段にならないですからね」
フランネルの影のある作り笑顔に、嫌な想像をしてしまった。
強酸さえ何とかすれば、ラビットスライムは兎耳の女の子でしかない。爪さえ何とかすれば、キャットオークは猫耳の女の子でしかない。牙さえ何とかすれば、コボルトは犬耳の女の子でしかない。怪力をどうにかすれば、ゴブリンは鬼角の女の子でしかない。
そして、悪意を持った人間はどこにでもいる。
「……。僕は、そんなこと、しないよ、少なくとも」
「そうですか。アキラさんがそういう人であることを祈ります」
そのフランネルの表情は笑顔だけれど、「警戒心は残っている」とアピールしていた。
「……」
「……」
場を包み込みそうになった気まずい空気を崩すために、話題を切り替える。
「そう言えば、この場所はフランネル達の神域なんだよね? ごめんね、知らないとはいえ土足で踏み荒らしてしまって」
決してわざとじゃないけれど――苔の上にはそれなりの足跡が付いているし、焚き火をした川原には黒い煤が付いた石がいくつもある。魚も結構な数を獲ってしまったし、あげくの果てにはみんなでお風呂に入ってワイワイ騒いでしまった。
分かりやすく例えるけれど、もしも戦国時代の日本の神社で同じことをしたらどうなるだろうか? その場で処刑されても文句は言えないと思う。とはいえ、この話題を避けてフランネル達と仲良くなることは事実上無理だろう。
そんな僕の考えを見透かしているような表情で、フランネルが苦笑する。
「神域を穢したことは、正直“知らなかった”じゃ済まされない問題です。しかし、50名以上のキャットオークを処刑しようとしても抵抗されるのが目に見えていますし、下手したらこっちに甚大な被害が出てしまいかねません。とはいえ、何もしないで釈放する訳にもいかないのが、わたくし達の現状です」
フランネルが僕に目線を合わせて言葉を続ける。
その瞳は、ちょっとだけ悪戯っぽい色に変わっていた。
「そこで提案があるのですが、“行方不明になった仲間の捜索を5日間手伝ってもらう”ことを条件に、水に流すというのはどうでしょうか? 仲間が見つかっても見つからなくても、捜索は5日間だけで良いです。わたくし達ラビットスライムは人数が多いとは言えませんし、そちらには嗅覚の鋭いコボルトさんもいるみたいですから」
それは事実上の和解の提案だった。乗らない選択肢は無いだろう。
「フランネル、今は言わなかったけれど、夜の警備の協力も含まれるんだよね? こっちの仲間を危険にさらすわけにはいかないけれど、交代で見張りを立てることくらいなら出来るよ?」
「ありがとうございます。人数が少ないので、そうしてもらえると本当に助かります」
「分かった。こっちが神域を侵したのは事実だし、困っているフランネル達を放っておくのもなんだか具合が悪いし、喜んで手伝わせてもらうよ。――みんなも、それで良いかな?」
事後承諾になったけれど、僕の言葉にグローリー、チュラカ、シャントリエリ、ブルーアが頷く。その向かい側でフランネルの側近も頷いていた。
心持ち和やかになった雰囲気に、グローリー達が言葉を口にする。
「アキラ、運用しだいでスライムは最強になるから、仲間にしちゃいましょう?」
「ヌシ様のいうことなら、スライムとも仲良くするにゃ(≡ω)」
「ボクもご主人様の言うことなら、スライムと仲良くできるわふ!」
「あたいも別に気にしないよ? あ、でも、スライムを攫っていたのがあたいの所属していた群れだった時には……ちょっと迷うけれど、あるじ側の立場でいさせてもらいたいな」
「「「私達もがんばります!!」」」
みんなの元気の良い声を聞き終えて――遠くで待機していた猫娘&兎娘達に事情を説明してから――僕らは、ラビットスライムの村へと移動することにした。




