第25話_たゆんたゆん襲撃事件♪
岩場の上から降り注ぐ太陽。ひんやりとした涼しげな風。それらが交わり、滝から流れる水の飛沫を変化させる。
そう、魔法のように綺麗な虹が作られていた。
「ほわ~ぁ~ぁ~、生き返るぅ~♪」
「ふにゃぁ~ぁ~(≡д)♪」
「わふわふ~っ(≧ω)♪」
「くっ~は~ぁ~!! コレだよ、コレ!!」
岩場を囲うように立てられた仕切りの板の向こう側から、女性陣の声が聞こえてくる。
ちょっと年寄りくさい気がするけれど、多分、それを言ったら殺されるんだろうなと思ったから、お口にチャック。僕は、まだ死にたくない。
きゃっきゃ♪
うふふっ♪
ぱしゃぱしゃ♪
ちゅど、ばっしゃーーん!!! ばっしゃーーん! ばっしゃーーん!!!
「……今、何か凄い音が聞こえたんだけれど? 大丈夫?」
ちょっと躊躇したけれど、仕切り板越しにグローリー達へ声をかける。
「大丈夫よ~。やんちゃな猫さん達が勢いを付けて岩の上から飛び込んだだけだから」
のんびりしたグローリーの返事。
それに被さるように、チュラカの叫び声が聞こえてくる。
「お前ら、ちょっとは静かにするにゃ!! 良い雰囲気がぶち壊しにゃ!!」
「「「すみませんにゃ~(Tω)」」」
猫娘達の声に思わず苦笑いしてしまった。向こうの様子は見えないけれど、猫耳と猫尻尾をふにゃっとさせている猫娘達の光景が浮かんでしまったから。
「ご主人様、そっちに行っても良いですか?」
シャントリエリの可愛い声が聞こえてくる。でも、同時に感じる冷たい空気。……うん、グローリー、僕はシャントリエリをこっちに来させないから、自重しようね?
「シャントリエリ、一応、男湯と女湯を分けて作ったんだから最初に決めた通り別々に入ろう?」
「ボク、ご主人様になら全部見られても、大丈夫ですわんよ?」
「うん、ありがと。でも止めておこうね?」
そのやり取りは、3回ぐらいすでに済ませているよね? なんて言えたらどんなに楽だろうか。シャントリエリを傷つけないように、“お風呂一緒に入りたいおねだり”を回避するのは結構つらい。
ロリコンだから?
まさか。シャントリエリは従妹みたいで、甘えられると防御が“ヘル・モード”並に難しくなるからです。気分はそう、子育てをしている娘を持つお父さんの気持ち? やったこと無いからイメージだけれど。
……ということにしておいて下さい。
「あるじ、あたいもそっちに行きたい!!」
「いやいや、ブルーア、ダメだからね?」
「え~、あたいはあるじのお嫁さんだぞ? 一緒にお風呂くらい入っても良いだろ? なっ? なぁ?」
「それを言うなら、ボクもOKわふ?」
「チュラカも行くにゃ(≡ω)b」
「……あんた達、いい加減にしなさいよ?」
「「「ぴゃぐぅっ!?」」」
グローリーのドスの効いた声に、ブルーアとチュラカとシャントリエリが変な声を出して大人しくなった。……うん、今の流れだと、僕の方にも飛び火する可能性が高い。
「アキラ?」
ええ、はい、ほら、来た!
「……アキラ? 聞いてる?」
「聞いてイマスヨ?」
「何で片言なのよ?」
「いや、ほら、グローリー、怒っているでしょ?」
「それは愚問よ? 怒っている人間に『怒っているよね?』って聞いても、状況悪化しかありえないのを知らないの?」
ぅああぁ……今のグローリー、多分、かなり良い笑顔をしていると思う。作り笑顔っていうヤツだけれど。
「わたしはね、アキラに――「「「きゃぁ!!?」」」「「「敵襲ですにゃ!!」」」――っ!?」
敵襲という言葉に、思わず立ててあった板戸から外に飛び出していた。
アレが元気でフリフリ状態? まさか。チュラカ達が無理やり入って来た時のために、念のためタオルを腰に巻いていたのだ。ヌシ様特権を使って。
余談だけれど、タオルと言うよりかは、木綿の手ぬぐいに近い布である。お湯に濡れてちょっと透けてしまうのは……うん、今は気にしちゃダメだ。
「武器を手に取るにゃ!」
「ダメです、スライムに囲まれています!!」
「魔法が使える人は、詠唱開始――って、きゃぁ!!」
グローリーが悲鳴をあげて身体を隠す。たわわな双丘と髪と同じ色の――って、これ以上見ているのは不味い。
急いで視線を外して、息子が反応しそうになるのを意志の力でねじ伏せる。
「全員、一カ所に集まって固まるにゃ! 怯えなくても大丈夫にゃ、お前達にはヌシ様が作ってくれた防具があるにゃっ!」
勇ましいチュラカの言葉に、猫娘&鬼角娘達が落ち着いて行動を開始する。スライムの攻撃力がどのくらいあるのか分らないけれど、毛皮の腕輪を4つ装備しているから、みんな防御だけは大丈夫だろう。
加えて、チュラカ達ケモ耳娘は誰も、僕のことは気にしていないみたいだから落ち着いて行動が出来ている。
「……あとで正座だからねっ!?」
一人だけは、真っ赤な顔をしてこっちを睨んでいるけれど、今は目線を合わせないようにしよう。
少し落ち着けたおかげで、状況を整理する余裕が持てた。
急いでONにしたメニューのスキルで確認したところ、スライム達――ミニマム・ラビットスライムという種族らしい――の数はざっと48匹。久しぶりの温泉で、しかも露天風呂状態だったから、ゆっくりしたいという理由でスキルをOFFにしていた過去の自分を殴りたい。
岩場の出入り口は見通しが良いから、魔物が入って来ても十分対処できると判断していたのだけれど、囲まれるまで気付かなかったのは不覚だった。
スライム達は地面や苔の色に擬態していて、遠目ではどこにいるのか分りにくい。
でも、確実に囲まれている。
「あなた達は完全に包囲されています! 無駄な抵抗は止めて、わたくし達の仲間を返して下さい!!」
そういう声が聞こえたかと思うと、スライム達の中から1匹の銀色のスライムが出てきた。
そして、そのスライムが人の形に変化する。
身長は130~140センチくらいだろうか? でも、例えるなら兎耳が付いている銀色の銅像。幼女なのにすらりとした肢体に、出るとことはくっきり出ている妖艶さ。正直、爆乳小○生とかが脱いだらこんな感じだろうなと危険なことを考えてしまった。
とはいえ、美術館とかで見たらそれなりに綺麗だなと思えるんだろうけれど――動く銅像は恐怖でしか無い。
銀色ですよ? 銀色。
全身に鳥肌が立った瞬間、周りの他のスライム達も人型に変化する。兎耳のぺったんな(あえて何がとは言わない)ロリロリな銅像。そして――銀髪はそのままに、スライム達の肌の色が白く変わった。
「……えっ?」
人間と変わらない兎耳娘が全裸で立っていた。桜色のぽっちも人間と変わらない。
最初に声をかけてきた爆乳娘なんて――“たゆんたゆん”じゃないですか。
「立ってるにゃ(*ω)δ」
「たくましいです、ご主人様(≧ω)δ」
「あるじも、男なんだなっ(*∀)δ」
――気が付けば、元気になっていた。何がとはあえて言わない。
でも、お湯の中に避難したグローリーが、ジトっとした目で僕を見ている。
「こんな時に、さいてー」
いや、えっと、ほら!
男には戦わないといけない時があるんです!!
そう思った瞬間、ラビットスライム達が動いた。兎耳幼女達の手には、猫娘達の竹槍が握られている。
あ、コレ、ちょっとまずいかも?
※諸事情により、たゆんたゆんなのは1人だけになりました。




