第23話_時の止まった場所
「うにゃ~、くしゃいにゃ~(Tω)ノシ」
「やっぱり、くしゃいわふ!」
「ん? ここはそういうものだろ?」
「浮気者の匂いがするわ……」
約1名、ブルーアのことを浮気だと言って、ちょっと拗ねている人がまだいるけれど――ようやく目的地に着くことが出来た。
いや、正確に言うなら目的地の入口というのが正しいか。
これから、僕は温泉を掘りたいと思っているから。
土魔法の準備はOK。
やる気もMPも十分。
あとは良い場所を見つけるだけ。
とりあえず、ぬるぬるする水が流れているという川に行ってみたい。もしかしたら、川の近くからお湯が湧いているかもしれないから。
「ねぇチュラカ、ぬるぬるした水が流れている川って近くなの?」
「多分、近くだと思うにゃ。チュラカ達は、あまりこの近くに遠征しないから、詳しい場所は覚えていにゃいけれど――「あたい、知っているよ? ぬるぬるした水やお湯が流れる川だろ?」」
「え? お湯も流れているの?」
「ああ。川の一部だけれど、温かいんだ。冬とかになると、湯気が立っているぞ♪」
「それ、その場所、教えてくれるかな?」
「もちろんだ。あるじの望みなら、嫌とは言わないよ♪」
ふふんっ♪ と言ったちょっと得意げな表情のブルーア。お礼の気持ちを伝えておく。
「ありがとう」
「ああ。それじゃ、早速、案内するぞ♪」
◇
お湯が湧いている場所の中でも、一番近い場所ということで連れて来てもらったのは――小さな滝が流れ落ちる、岩壁に囲まれた苔むした空間だった。
豊富な水蒸気と高めの温度と閉鎖空間がそうさせるのか、足元も壁も中に生えている木々も、全てが明るい緑色の苔に覆われている。
目を奪われる光景に、グローリーも息を飲んでいた。
思わず、足を踏み入れるのがもったいないと思ったけれど。
その一方でケモ耳(鬼角含む)娘達は、ふかふかの苔の上を普通に歩いて、「滝つぼに魚がいないかにゃ?」とか「くしゃい場所に、どんなお宝が埋まっているにゃ?」とかいう話をしている。
ちょっと複雑な気持ちになったけれど、直後にグローリーが小さく噴き出す。
「ふふっ、猫さん達は仕方がないわね。それだけ、自然が身近にあるということよ?」
「怒ったりしたら、かわいそうかな?」
「そうね。そう思わないと、ダメかも。――勇気を持って、わたしも第一歩を踏み出します!」
「んじゃ、僕も同じく」
グローリーとタイミングを合わせて、綺麗に生えた苔の上に足を踏み込む。
「フカフカね」
「何十年って積み重なった感じかな?」
「そんな感じね。どれだけの時間でこうなったのかは、恐ろしくて考えたくもないけれど」
そう言ってグローリーは小さく深呼吸をする。
ストレス対処法の基礎として、「ストレスを感じたり緊張したりした時には、深呼吸をする」ことをグローリーにはお勧めしているのだけれど、それがきちんと習慣になっているのが何となく分かった。
グローリーが言葉を続ける。
「さて、それじゃ温泉を見てみましょうか♪」
とても可愛い笑顔だった。




