第22話_鬼角幼女との会話
投擲を続けようとするグローリー達を何とかなだめて、ブルーアやその側近の鬼角娘を含めた全員で移動を再開する。僕らが目的地としている山も見えてきたし、あと数時間もしたら温泉が出ている場所に着けるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていて、ふと、気になることを思い出した。
「そういえばさ、ブルーアやチュラカに聞きたいことがあるんだけれど……僕って、いつかみんなに食べられちゃうの?」
とてもシュールな質問だと思う。でも、聞かずにはいられなかった。
「にゃにゃ!? チュラカはヌシ様を食べないにゃよ(Tω)ノ」
「ご主人様を食べるなんていうヤツは、ボクが成敗するわふ!」
慌てた表情のチュラカと忠誠心が重たいシャントリエリ。その言葉の後にグローリーが続く。
「よほどじゃない限り、魔物に攫われた男性は“要済み”になった後で殺されるわね。でも、有能な男性は例外的に生かされることがあるし、わたし的には大丈夫だと思うわ。群れを大きくし続けたり、回復魔法が使えたり、強力な攻撃魔法が使えたり――すでにアキラは心配しなくても、生き残れる条件に当てはまっているから」
ブルーアもうんうんと頷いている。
「そういうことさ。魔法使いである、あるじの場合なら大丈夫だろ?」
「そうにゃ! ヌシ様を食べるなんてもったいにゃいことしないにゃ!」
とりあえず、みんなの反応に安堵のため息を吐く。寝ている間に、ばっさりと殺られる可能性は限りなく低いと考えて良さそうだから。
そうなると、もうひとつ疑問に感じたことを聞きたくなる。
「ねぇ、チュラカ達が成年する前に僕と一緒にいたことを驚いていたみたいだけれど、それも何か理由があるの?」
僕の言葉に、ブルーアが「そんなことも知らないのか?」と言いたげな驚いた表情で口を開く。
「ミニマム系の魔物は、成年することで力が2倍になるんだ。♂を狩る力に目覚めると言った方が良いのかな? だから、あたいは成年前に狩られたあるじのことを普通より弱いと思っていた。首に縄を付けられている訳じゃないし、逃げ出すそぶりも見せていなかったし。――まぁ、魔法使いのあるじを捕まえられるチュラカとシャントリエリが強いんだけれどな♪」
「「「ん? あれ?」」」
ブルーアの表現に僕も含めて全員が反応した。
今の言い方じゃ、まるで――
「ご主人様はボクよりも強いわふ! そう、とってもとっても強いんだ!!」
「そうにゃ! ヌシ様は最強だから、そこを間違えちゃダメにゃ!!」
「まぁ、ステータスに波があるけれど、アキラはブルーアちゃんが思っているよりもずっと凄いわよ?」
3人の言葉に、ブルーアの目が驚いたように大きくなった。
「本当か!? せいぜい、星3つの“回復が得意な魔法使い”じゃないのか?」
「失礼な!! 本気のご主人様は星8つだぞ! ボクの本気の攻撃でも、傷1つ付かなかったわん(≡ω)」
誇らしげな顔でシャントリエリが言ってくれたけれど――うん、正直、星8つであることは隠しておきたかった。仲間内でも怖がられると嫌だから。
これからはあまり口に出さないように後でシャントリエリに釘を刺しておこう。
そして感じる熱い視線。うん、誰とはあえて言わないけれど。
「……ブルーア、とても目が輝いているね?」
「当たり前だろ!? あるじ、あたいと模擬戦してくれないか!!」
「拒否権は?」
「無い。――それじゃ、早速、開始だ!!」
いきなりブルーアが殴りかかってくる。
模擬戦だから、素手でやろうということなのだろう。うん、丸太(細)で殴りかかられなくて本当に良かった。毛皮の腕輪&足輪で守備力をブーストしてあるとはいえ、武器を装備されるとブルーアの攻撃力の方が上になってしまう。
まぁ、僕の魔法障壁を抜けるかと言ったら、また別問題ではあるけれど。
「あるじ、魔法障壁を張っていても、攻撃が出来ないぞ? あるじは弱虫なのか?」
安い挑発だけれど、ここは乗ってあげよう。脳筋娘を配下に加えるためには、圧倒的な力の差を見せつけないといけないから。
目を閉じて、マインドフルネスの思考と呼吸法を始める。
立ったまま背筋を伸ばし、首の力を抜いて目を閉じる。
ゆっくりと息を吐いて「1」をカウント。そのまま「2」「3」「4」とゆっくり数えて、頭に浮かんでくる雑念を「身体と切り離して、風船のように空へ浮かべるイメージ」を作る。
――さぁ、始めようか♪
所要時間は15秒。深呼吸と同じくらいの時間で準備は完了。
この短さでは、シャントリエリの時みたいに、ステータス制限を全て解除するのは難しい。けれど星5つ程度の解放なら余裕で可能だ。
後衛型の魔法使いなら詠唱時間15秒とかも普通にありうることらしいから、前衛が時間を稼いでくれれば実戦的な数字とも言える。
いきなり上った僕のステータスを感じたのだろう、ブルーアの表情から笑みが消えた。
「面白い、流石あたいの“あるじ”だ。こんな男があたいのあるじで、本当にあたいは嬉しいよ!」
言葉を区切ると、ブルーアが丸太(細)を手に取った。
僕の方も、ソレを受け止めるために魔法障壁を解除する。障壁を解除した僕の行動に、ブルーアが一瞬目を丸くして、恋する乙女のような優しい顔で笑った。
「うん、本当に嬉しい。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、身体が震える。……だから本気で行かせてもらう!!」
渾身の一撃。ステータスの制限解除をしていなければ命にかかわる一撃を、僕は左手で受け止めた。がっしりと手のひらで丸太(細)を握った僕に驚いたような顔をしたブルーアだったけれど、すぐに満足そうな表情に変わる。
「完敗だな♪ 避けられると思っていた一撃を、正面から受け止めて怪我もしないなんて――あるじには惚れ直したよ♪」
鬼角の美幼女が、ほんのりと顔を赤らめながら、爽やかに笑う姿。
その様子を「可愛いな」と感じてしまったのは、仕方がないことだと思う。
でも、気が付けば、グローリーの右手が僕に触れていた。
……僕はロリコンじゃありませんよ? NOロリータ、NOタッチです!
チュラカやシャントリエリに比べて、ブルーアは胸があるなんて思ってもいませんよ!!?
そこだけは、しっかりと認識していて下さい、グローリーさんっ!!
「ふふっ♪ 思っていないことが、なんで思考に混じっているのかしら? 可笑しいわね♪」
――あっ。




