第21話_流浪の鬼角少女
いきなり現れた脳筋幼女。
その挑発的な言動に、飛び出そうとしていたチュラカとシャントリエリに待ったをかける。
「待て!! ――チュラカ、シャントリエリ、まだ戦うな!!」
「了解にゃ(≡ω)!」「了解わん(≡ω)!」
いきなり足を止めたチュラカ達とそれを止めた僕に気付いて、脳筋幼女が驚いたような表情を浮かべる。
「ミニマム・キャットオークとミニマム・コボルトが一緒に戦うだと!? しかも、成年前にヌシを連れているなんて――どういうことだ!?」
ちょっと気になるキーワードを口にした脳筋幼女。
詳しく話を聞いてみたいけれど……まぁ、脳筋っぽいから無理なのは分かっている。
戦うことになるだろうから、とりあえず人物鑑定スキルを発動させる。
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(基本情報)
・名称:メリカン・ブルーア
・年齢:14歳
・性別:女
・種族:ミニマム・ゴブリン
・レベルランク:★★★(3つ星)
・HP:318
・MP:52
・LP:10
・STR(筋力):120
・DEF(防御力):84(+12)
・INT(賢さ):36
・AGI(素早さ):41
・LUK(運):29
(装備)
・武器/丸太(細)
・服/毛皮の胸当て+毛皮の腰巻
・靴/革の靴
(称号)
・ミニマム・ゴブリンのじゃじゃ馬族長候補→攻撃力&防御力2割アップ。
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おおっ、チュラカ達みたいなブースト装備が無いのに、星3つなのは凄い。
特に「HP、STR(筋力)、DEF(防御力)」が高いのは、持っている称号のおかげもあるのだろう。
でも、チュラカやシャントリエリが敵わない相手では無さそうだ。
2人には魔法障壁を張れる防具を渡してあるし、多少怪我をしたとしても部位欠損までなら僕のヒールで治療できることはシャントリエリで実証済みだ。
――なんてことを考えながら観察していたら、嫌そうな視線が脳筋幼女から返ってきた。
「そこの男! あたいのことをジロジロ見るな! 気持ち悪い!」
気持ち悪い……幼女に言われると、何か凹む。
「アキラ、アレ、殺していい?」
なぜかブチ切れているグローリー。何があったの?
「好きな人を気持ち悪いって言われて、怒らない女はいないのよ。アキラ、どいて!」
「いやいやいや、ちょっと落ち着こうよ。何より、グローリーは今、戦える状態じゃないでしょう?」
「それはそうだけれど、女には戦わないといけない時があるのよ!!」
グローリーは殺る気になっているけれど、そのステータス的に戦わせる訳にはいかない。
生活の中にストレス対処法やWRAP(元気回復行動プラン)を取り入れたり、僕やチュラカ達と仲良くなったりしたことで、出会った時よりも数値が上昇しているとはいえ――グローリーのHPやLPはヒールが効かずに低い値のままなのだ。
改めて、グローリーのステータスを確認する。
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(基本情報)
・名称:モーニング・スター・グローリー(星朝顔)
・年齢:15歳(元21歳)
・性別:女
・種族:人族
・レベルランク:★★★(3つ星)
・HP:42/318
・MP:31/722
・LP:3/10
・STR(筋力):68
・DEF(防御力):75(+112)
・INT(賢さ):520
・AGI(素早さ):42
・LUK(運):45
(装備)
・武器/グローリーの片手氷魔剣
・服/革の鎧+布の服
・腕輪/毛皮の腕輪×2+毛皮の足輪×2
・靴/革の靴
(称号)
・廃棄勇者→国に見捨てられた勇者。
(隠し称号)
・地雷乙女→無理やり乙女を奪おうとすると呪いが発動。半径10メートルをズタズタに切り裂く。
・異世界の転移者→スキル恩恵。記憶の継承。若返りなど。
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うん、HPとLPが低いのに、戦闘をさせるのは危険だと思う。
でも、動かない僕らに、脳筋幼女がいらだちを増しているのが伝わって来た。
ゆっくりと口を開けたかと思うと、脳筋幼女は声を張り上げる。
「あたいはミニマム・ゴブリンのメリカン・ブルーアだ! 次期、族長候補の1人として、ミニマム・キャットオークと遭遇したからには生きて返すわけにはいかない!!」
その言葉の直後、脳筋幼女改めブルーアの背後の茂みから、5人の鬼角幼女が出てきた。
みんな毛皮の胸当てと腰巻を身に着けていて、その手には細い丸太が握られている。
「ブルーア様! 1人だけ前に出られては危険ですっ!!」
「いきなり走って置いて行くなんて、非道いです!!」
非難の声をあげる鬼角幼女達に、ブルーアが苦笑する。
「い~んだよ。どうせこいつらは束になってもあたいに勝てない。ミニマム系の魔物はせいぜい頑張っても星2つが限界だし、それに捕まる男の力も知れている。あたいみたいな才能は、こいつらには無いんだよ♪」
自分のことを鼻にかけたような言葉に、チュラカとシャントリエリのケモ耳がぴくんっと跳ねたのが分かってしまった。
「ヌシ様?」「ご主人様?」
殺気の籠ったチュラカとシャントリエリの声。
無理に抑えつけるのは、良くないだろう。
「2人とも、相手を殺さないようにね? 利用価値があるから」
「分かったにゃ。シャントリエリと同じように、せーどれいにするにゃ!」
「……ライバルが増えるのは嫌だけれど、ご主人様の命令なら受け入れるわん!」
いやいや、そういう対象として利用するんじゃないから。それに、シャントリエリは性奴隷じゃないからね? 抱き枕にはしているけれど。
「僕は情報収集と味方を増やしたいの。大抵の大怪我は治せるけれど、恨まれるような戦い方はしないでね?」
「「了解にゃ(≡ω)!」」
2人の声に、ブルーアの口元が歪む。
「ふふん、2人がかりでも負けるつもりはない。もしも負けたら、そこの男の望み通り性奴隷にでも何にでもなってやるよ♪ ――いざ、尋常に勝負!!」
「「勝負にゃ!!」」
チュラカとシャントリエリの声が重なって、戦いの火ぶたが切って落とされた。
◇
所要時間は23秒。
勝負はブルーアが瞬殺されることで、あっさりと終わった。
その内容はとてもシンプル。丸太で殴りかかって来たブルーアの攻撃をシャントリエリが盾で受け流し、隙が出来た瞬間に、素早さが上昇しているチュラカが槍を喉に付き付けたのだ。
それでも強引に槍を打ち払って抵抗したブルーアに、チュラカとシャントリエリが距離を取ってアイス・ニードルを発射。ブルーアの両足は地面に縫い付けられ、動けなくなったところをチュラカとシャントリエリに武器を向けられて、降参したのだ。
現在、激しい凍傷を負ったブルーアの足を、僕がヒールで回復している。
襲いかかって来ないかチュラカとシャントリエリが警戒してくれているけれど、ブルーアやその付き人の雰囲気では、襲われることは無さそうだ。
僕がチュラカ達の魔法の武具を作ったことや大怪我を直せるレベルのヒールを使えることを知って、「強いは正義!」という考えを持つブルーア達は、僕の仲間になることを快諾してくれたから。種族的な確執があるかと思ったのだけれど、ブルーア達ミニマム・ゴブリンとしては「昔のことは気にしない主義なんだ。それよりも、強いオスの子どもを産みたい」ということらしい。
ひしひしとグローリーから“ロリコン・ダメ・絶対!”という電波が飛んできている気がするけれど――いつものことだから、気付かないふりをしておこう。
「さて、これで治療は終わり。元通りに動くか、あと変な痛みが無いか、確認してみてもらえるかな?」
「ああ。ちょっと動かしてみるよ」
ブルーアが足踏みをしたり、ジャンプしたり、軽く走ってみたり、反復横とびみたいなことをしてみたり……って、この子無駄に元気だな。問題無さそうで何よりだ。
そんな僕の視線に気付いたのか、ブルーアは恥ずかしそうにはにかんだ。
「うん、何の違和感も無いよ。あんたの魔法は凄いんだな♪」
ブルーアが笑顔を作って、右手を僕に差し出し、言葉を続ける。
「約束通り、あたいの旦那になってくれ♪」
「お嫁さんじゃなくて“仲間”としてなら、歓迎するよ♪」
苦笑しながら脳筋幼女に提案をする。ブルーアをお嫁さんにするのは、まだ早い。
気が付けば、ブルーアも苦笑していた。
「まぁ、最初はそれでもいいかな。……だけど“あるじ”と呼ばせてくれ♪」
「そのくらいなら、良いよ」
目線を合わせて、手を伸ばす。
「よろしく、あるじ!」「よろしくね、ブルーア」
握手をした瞬間、ぐっと手を引かれて――唇を奪われた。
「「「――ッ!!」」」
チュラカ、シャントリエリ、グローリー、そして何故かルーちゃんの声にならない声が重なる。
「……」「……」「「「……!!」」」
とりあえず。舌を入れてこようとした痴幼女を引き剥がす。調子に乗らせてはいけない。
グローリー達のじとっとした視線がご褒美です。
なんて言えない雰囲気。
ブルーアには、後でお説教が必要だ。
――と思った瞬間。
「いたっ!?」
グローリー達から、小石が飛んで来た?