SS_WRAP(元気回復行動プラン)の解説④
※WRAPの解説は今回でお終いです。次回から本編に戻ります。
チュラカ達にアドバイスをしながら、行動計画を仕上げていく。ついさっき草案がまとまったから、今はみんな自分用の行動計画の清書をしている。
静かな教室の中、ペンを走らせる音だけが響いていた。そしてそれが唐突に途切れる。
「出来たにゃ♪」
「ボクも出来たわふ!」
「わたしも出来たわよ」
順番にチュラカ、シャントリエリ、グローリーが笑顔で言葉を口にした。
そして3人は立ち上がると、プリントを僕に手渡してくる。
中身はもちろん、それぞれの個性が感じられる内容だった。
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(チュラカのWRAP)
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・元気が出る時の行動パターン
→きちんとご飯を食べる。
→ヌシ様と話をする。
→適切な睡眠をとる(6~8時間程度)。
→狩りをする。
→鳥のお肉を食べる。
→魚を捕る。
→魚を食べる。
・元気を無くす時の行動パターン
→睡眠時間が長くなる(10時間以上寝るとダメ)。
→群れに大きなトラブルが3つ以上発生する(5個以上になると、ストレスが深刻)。
→ご飯を食べられない時(食糧難の時)。
→雨や雪の日が続いた時(狩りが難しい時。それのトラウマが甦る時)。
・避けた方がいいこと
→だらだら眠る。
→疲れているのに無理をする。
→半日以上の長時間の会議。
→2日酔いになるくらいの飲酒。
→雨の日の無理な外出や狩り。
→決断を先延ばしにすること
・した方がいいこと
→疲れたら休む(昼寝も良いかもしれない)。
→規則正しい生活。
→群れにトラブルが起きないように、あるいは起きてもすぐに解決できるように、みんなとコミュニケーションを密に取る。
→狩りが出来ない日があっても大丈夫なように、食糧難をストレスに感じないように、食糧の備蓄をする。
→会議などのストレスは狩りや運動で発散する。
・注意サイン
→睡眠時間が長くなる。
→猫尻尾と猫耳の元気がなくなる。
→ぐったりする。
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猫系の血を引くからか、鳥や魚が好きというのは何となく分かる。新しい移住先の近くにも魚がいる川が流れているだろうから、着いたらたくさん獲ってあげよう。
あと、チュラカの性格的に複雑なトラブルの処理は、強いストレスになるみたいだ。チュラカ自身もそれを自覚しているみたいだから、僕がサポートできるところは支援していきたいと思う。
さて、次はグローリー。
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(グローリーのWRAP)
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・元気が出る時の行動パターン
→きちんとご飯を食べる。
→アキラと話をする。
→アキラに頭を撫でてもらう(スキンシップ)。
→アキラと一緒に寝る。
→お風呂に入る(入りたい!)。
→音楽を聴く(聴きたい!)。
→歌を歌う(カラオケに行きたい!)
→適切な睡眠をとる(6~8時間程度)。
→コーヒーを飲む(コーヒーを飲みたい!)。
→緑茶を飲む(紅茶じゃなくて緑茶が良いの!!)
・元気を無くす時の行動パターン
→睡眠時間が短くなる。
→食事を抜く(丸1日以上抜くと調子を崩しやすい)。
→生活リズムが崩れる。
→誰とも話をしない日が続く。
→生き物を殺した後(特に人型の魔物)。
・避けた方がいいこと
→夜更かしや夜更かしにつながる行為。
→疲れているのに無理をする。
→飲酒。
→暴飲暴食。
・した方がいいこと
→疲れたら休む(寝付けなくても横になる)。
→規則正しい生活(しんどくても朝起きる)。
→身体を清潔に保つ。
→身だしなみを整える。
→アキラとスキンシップを取る。
→生活の質の改善(日本の状況に近付ける)。
・注意サイン
→身だしなみに無頓着になる。
→体重が1ヶ月で2キロ増減する。
→眠れなくなる。
→夜中に目が覚める。
→無性に泣きたくなる。
→自暴自棄になる。
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……うん、グローリーは愛が重い。
僕のことを好きでいてくれるのは嬉しいんだけれど。
でも、まだ依存の問題は置いておく。グローリーには生きる気力を回復してもらうことが先決だから――明日から、温泉が出る場所まで歩いて移動するという強行軍を無理強いさせる訳だし――現時点では「これもアリ」ということにしよう。
グローリーは、やっぱり日本の生活に引きつけられるところがあるのだなと思う。お風呂は温泉を見つければ何とかなりそうだけれど……コーヒーとか緑茶とかは、僕の出来る範囲内で早く見つけてあげたい。
あと、気になったのが元気を無くす行動パターンの最後に書かれた“生き物を殺した後(特に人型の魔物)”という箇所。
人間側で勇者をしていたのだから、必然的にチュラカ達のような魔物を殺した経験を持っているだろうなと想像はしていたけれど、平和な国に暮らしていた日本人としては、やっぱりすぐに割り切れるものでは無いと思う。
でも、僕がこれから魔王になることを考えたら、僕もグローリーも人型の魔物を殺すことを恐れてはいられない。そして、絶対に僕らが“ニンゲン”を殺す時が遠からずやってくるであろうことも覚悟している。
大切なモノを守るため、自分の命を守るため、僕らの野望を実現するため……理由は何とでもつけられるけれど、そのための準備を今から考えていないといけないなと思った。
少しだけ、話がズレた。
とりあえず、グローリーを見ている限り、僕の前で“女の子をしている”状態なら大丈夫だろう。逆に、僕の前でも身だしなみを整えられない状態では、かなり危険だということを頭に入れておく。
さて、次はシャントリエリだ。
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(シャントリエリのWRAP)
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・元気が出る時の行動パターン
→きちんとご飯を食べる。
→ご主人様と話をする。
→ご主人様に褒められた時。
→ご主人様に頭を撫で撫でしてもらえた時。
→ご主人様の匂いをクンクンした時。
→適切な睡眠をとる(6~8時間程度)。
→狩りをする。
→ウサギのお肉を食べる。
→いっぱい走った時。
・元気を無くす時の行動パターン
→雨や雪で運動が出来ない時。
→ご主人様に叱られた時。
→ご主人様のお役に立てない時。
→ご飯を食べられない時(食糧難だけでなく、朝食を抜いたり、狩りで獲物が獲れなくて夕食を食べられない時)。
・避けた方がいいこと
→ご主人様のおそばから離れる。
→疲れているのに無理をする。
→雨の日の無理な外出や狩り。
→食事を抜くこと。
・した方がいいこと
→ご主人様第一主義を少しずつ改善していく。
→疲れたら休む(昼寝も良いかもしれない)。
→規則正しい生活。
→狩りが出来ない日があっても大丈夫なように、食糧難やご飯を食べられないことをストレスに感じないように、食糧の備蓄をする。
・注意サイン
→お腹が空いて不安になる。
→ご主人様の顔色が気になってしまう。
→犬尻尾と犬耳の元気がなくなる。
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シャントリエリも、愛が重いというか――“ご主人様第一主義”がちょっと激しい。
群れの主には絶対服従という種族としての習性みたいなものらしいんだけれど、ちょっとどうかなと思う。
厳しい言い方になるかもしれないけれど、YESしか言わない人形は僕は要らない。むしろ、何を考えているのか分らないから、怖いとすら感じてしまう。
服従と忠誠は、違うものだから。
だから、シャントリエリにはアドバイスをして、「した方がいいこと」という欄に“ご主人様第一主義を少しずつ改善していく”と入れさせた。
とはいえ、とりあえずシャントリエリは、僕が注意してスキンシップを取るようにしていれば大丈夫だろう。
◇
「さて、それじゃみんなのWRAPが出来たところで――それぞれのWRAPをお互いに見せ合って、自分のWRAPに取り入れられそうなものを見つけてみましょう」
「了解にゃ(≡ω)」
「分かったわ」
「お2人のも見てみたいですわん!」
……こうして、僕らのWRAP講座は朝まで続いた。
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(WRAPまとめ)
元気回復行動プランという名前の通り、“何をすれば自分が元気でいられるのか?”や“どんな状況なら自分の調子が悪いのか?”を考えて、行動計画を立てる心理療法です。作った行動計画が日々の生活の指標になってくれますので、元気な状態の維持や不調な状態からの早期回復を手助けしてくれます。
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