SS_WRAP(元気回復行動プラン)の解説①
※ここではWRAP(元気回復行動プラン)について解説します。設定的には“2日目の夜”の夢の中というイメージです。なお、この話の内容を、本人達は目が覚めると同時に忘れます。ちなみに、みんな積極的なのは、夢の中だからです。
「……ここ、どこにゃ?」
「さっき会ったのだけど、ご主人様いわく“別空間と呼ばれる場所”とのことわん(≡ω)!」
「どう見ても、小学校の教室にしか見えないわ。なんか勉強机も小さいし、わたしの通っていた小学校がこんな感じだったから」
教室のドア越しに聞こえてきたのは、チュラカとシャントリエリ、そしてグローリーの声。
ちなみに、グローリーの意見は正解だ。教室の入り口には、6-2と書かれた木札が下がっている。
僕も引き戸を開けて教室の中に入る。
「みんなお疲れさま」
「あ、ご主人様わん!」
「アキラ、どうしてこうなっているのか説明しなさいよ!」
「いやいや、コレ、夢の世界だよ」
「「「夢の世界なの?」」」
不思議そうな表情を浮かべた3人の声が重なったけれど、僕にはそうとしか説明が出来ない。事実、僕も半分は混乱しているのだから。
小さく咳払いをしてから、言葉を続ける。
「正直、僕も不思議に思うけれど……さっき、僕をこっちの世界に飛ばした“コウモリの羽のお姉さん”が出てきて、『僕ら4人の夢を繋げた』って言っていたんだ」
「夢にゃ? 本当に、夢にゃ???」
大きな声をあげたチュラカをシャントリエリがたしなめる。
「チュラカさん、ご主人様を疑ったらダメ。ご主人様が言うなら、夢で間違いないわん!」
シャントリエリの言葉に、チュラカがはっとした顔をしてこくりと頷いた。
「ヌシ様が言うなら、これは夢で間違いないにゃ(≡ω)b」
ちょぴっとドヤ顔のチュラカに、グローリーが苦笑する。
「わたしも分かった――ということにしておくわ。さっきまで落ち葉のお布団の上にいたのに、気付いたらこんな場所にいるんだもの。夢じゃなかったら、逆にびっくりするわよ」
3人がそれなりに納得してくれた上で、話を続ける。
「ありがとう。それじゃ、神様から言われた通り“WRAP(元気回復行動プラン)”についての話をしたいんだけれど……って、チュラカ、どうしたの? いきなり立ち上がって」
僕の問いかけに答えずに、チュラカは椅子の上に立って両手をパタパタしている。一生懸命に手を動かして、椅子の上でジャンプしているその姿は、ちょっと可愛い。
「チュラカ、何しているの?」
2度目の声かけに、チュラカが僕の方を見る。
「夢の中なら、鳥みたいに飛べるはずにゃ! でも、今のチュラカは飛べないにゃ! 何でにゃ!?」
「いや、多分、そういう仕様なんだと思う。ここでチュラカに飛ばれたら、ゆっくりとお話する雰囲気じゃなくなるでしょ?」
「雰囲気なんて関係無いにゃ! チュラカは飛びたいんだにゃ!! いつも夢の中じゃ、なぜか夢だと気付けにゃいから――今日だけは飛びたいんだにゃ!!」
叫びながら羽ばたくのを止めないチュラカに、シャントリエリが苦笑いを浮かべた。
「チュラカさん、我儘言っているとご主人様に嫌われるよ? それでも良いわふ?」
「どうせ朝になったら、忘れている夢にゃ! 我儘言っても許されるにゃ!」
チュラカの言葉に、シャントリエリの作り笑顔が崩壊する。
「我儘は良くないっ! 調子に乗るのはいい加減にするわふ(≡д)!!」
ブチ切れたシャントリエリ。でも、チュラカは黒い笑顔を作った。――って、あれ?
反省した顔じゃなくて、黒い笑顔なの?
ゆっくりと、囁くように、チュラカが言葉を口にする。
「シャントリエリ殿も楽しんだらどうにゃ? 今なら、ヌシ様に何をしても許されるにゃよ?」
その表情は、うん、とても黒いな。
シャントリエリは困惑した表情。
「どうせ夢にゃ。何を、しても、許される、にゃよ?」
チュラカの囁きに、シャントリエリの表情が変わる。
「……それも……そぅ……わふっ……じゅるり♪」
舌なめずりをしたシャントリエリの視線が、僕にロックオンされた。
シャントリエリさん? 気の強そうな釣り目が、ちょっと据わっているのは、なぜですか?
「……」「……」
シャントリエリと視線が交差する。
これは早速、下剋上フラグ? 夢の中で殺されるの?
じゅるりって音がしていたし!!
そう思った次の瞬間、シャントリエリが椅子から立ち上がって、僕に跳びかかって来た。
「ご主人様が大好きわふ! シャントリエリと子づくりするわんっ♪」
シャントリエリに押し倒されて、そのまま貪るようにキスされた。
夢の中だから、美幼女にキスをされても許されるよね? 美幼女からだから、事案とか事件とかにならないよね? ノーカン、そう、ノーカンだよね? 舌が入って色々と“吸われたり混ざったり”している事実は……うん、その事案は……気持ちいいから、このまま――なんて考えていたのが間違いだった。
気が付けば、僕の周囲に氷の矢が突き立っていた。
教室の床ごと僕の服を凍らせて、肌も凍傷にさせる一歩手前のギリギリ感。
恐る恐るグローリーの方を見てみると……うん、目元がマジで怒っていた。
いつの間にか僕らに近付いていたグローリー。
げしっと軽くシャントリエリを蹴って、僕の上から退かせる。
「離れなさい、ぴんく犬」
「ぅうっ! 邪魔するなわんっ!!」
威嚇するシャントリエリ。でも、グローリーが一睨みすると――シャントリエリは犬耳を伏せて、上半身を起こした僕の後ろに隠れるように移動した。
そんなシャントリエリを一瞥すると、グローリーは僕の前に立って、上から見下ろしてくる。
「アキラも調子に乗ると、後が怖いわよ?」
抑揚の無い静かな声のグローリー。その表情、微笑んでいるけれど、怒っていますよね?
僕の目線での問いかけに、グローリーが「ふんっ!」と小さく鼻を鳴らす。
「アキラ、ちょっと耳を貸しなさい」
ご機嫌斜めのグローリーに反抗するなんて出来ない。
耳元で大声で「馬鹿!!」って言われるのを覚悟して、床から立ち上がってから、ちょいちょいと手招きをしているグローリーにおそるおそる顔を近付ける。
――次の瞬間、がしっと顔を固定され、グローリーにキスされた。
そっと触れるような優しいキス。貪るようなシャントリエリとは対照的な口づけ。
固まっていると、ゆっくりとグローリーが離れていく。
「アキラはガードが甘いのよ。――わたしのことも、ちゃんと見てよね?」
真っ赤に顔を染めた乙女の言葉に、何だか僕も恥ずかしくなる。
神様にはWRAPについて説明しろって言われているのだけれど……この空気感じゃ、なかなか始められそうにないです。