第12話_楽しい内職と歴女
※前話の温泉までの距離を「1日半→3日半」に修正しました。
竹槍を作りながら、情報を頭の中で整理する。
村の猫娘は53名。強さは平均的に星2つ、つまり“駆け出し冒険者程度の強さ”を持っている。
キャットオークは種族的に身軽で、スピード重視の戦い方が得意とのこと。
チュラカもルーちゃんも、木の上で普通に戦えると言っていた。
ちなみに魔法を使える猫娘も少しだけいる。
火属性魔法が使える者が3名。
水属性魔法が使える者が2名。
風属性魔法が使える者が2名。
土属性魔法が使える者が5名。
光属性魔法が使える者が0名。
闇属性魔法が使える者が0名。
聖属性魔法が使える者が0名。
回復魔法が使える者が0名。
ユニーク魔法が使える者が0名。
そのうち、属性が重複している者が1名。
それはチュラカだった。
村長をしているだけあって、火・水・風・土の4属性を使えるらしい。
ドヤ顔で「ふんす、ふんす」と鼻息荒く僕を見てきたから、頭を撫でてあげたら喜んでいた。もちろん、土と風属性の魔法解析&魔法作成の実験体――もとい、善意の協力をしてもらおうと思っている。
特に土属性魔法は、温泉を掘るのに必要だから助かった。
現地に着くまでに解析して、オリジナルの穴掘り魔法を開発したり、温泉を流す水路や大浴場を整備出来るような魔法を開発しようと思う。
一方で戦闘系のスキルは、狩猟民ということもあり、弓と槍と投擲スキルを持つ者が多かった。
みんなには槍を持ってもらおうと思っていたから都合が良い。木々が多い森の中では長い得物が必ずしも有利とは限らないけれど、歩兵同士の戦いでは距離というモノは大きなアドバンテージになるから。
例えば、刀同士での戦いでは農民は武士に勝ち目はないけれど、竹槍を持って2人以上で戦えばその立場は逆転する。何より、長い得物ならば相手から攻撃を受けるよりも先に攻撃することが出来るから、相対的な危険性も下げることが出来る。
とはいえ、今の僕らが明日までに量産することが出来る武器や防具は限られている。
最初はみんなが元々持っている石槍や弓を魔法陣で強化するつもりだったのだけれど、規格なんてものを無視した作りになっていたから、個々の装備に合わせた魔法陣の微調整に膨大な時間がかかると判明したのだ。
汎用性を持たせた魔法陣を開発すれば良いのかもしれないけれど、魔力がお世辞にも多いとは言えない猫娘達にはMP1数値分だけだとしても余計な負担をかけたくなかったし、戦場ではそれが生死に繋がると思ったから、没にした。
そんな訳で、僕らが量産できる魔法の武器は竹槍一択だ。
ある程度の太さは揃っているし、長さも揃えて切ることが出来るし、何より材料は大量にそこら辺に生えている。普通は使い捨ての武器なんだけれど(事実、チュラカ達の話では狩りの時に2回以上獲物に刺したら壊れるものらしい)、水の魔法陣を組み込めば品質が良い“鉄の槍”くらいの強度が生まれることを、試作品でグローリーが検証してくれた。
竹槍に組み込むのは、最初は火属性のファイヤー・アローにしようと思っていたのだけれど、周囲が森ということで山火事が怖いことや、竹槍の強度アップに水属性のウォーター・シールドを使うことから、相性が良いアイス・ニードルを組み込むことにした。
ちなみに試作品を素人の僕が使ってみたのだけれど、人の腕くらいある木の幹に刺した瞬間、木が凍りつくという凶悪ぶりだった。地面に刺したら、周囲50センチに霜柱が立ったし、相手が動物や魔物なら即死レベルは間違いないだろう。
もちろん、誤って穂先を触ってしまったり、味方にぶつけてしまったりした時に怪我をすると困るから、使用者が敵と認識しないと魔法の追従効果は発揮されない安全設計になっている。
称号による使用者制限もしてあるから、敵に奪われてもただの竹竿でしかない。
ちなみに、魔力を込めて発動キーワードを唱えると威力を弱めたアイス・ニードルを3回まで発射することが出来る。
弓の改良に時間が取れなかった分、遠距離攻撃手段も必要だと思ったのだ。
そのことを説明したら、グローリーに「馬鹿じゃないの!?」って怒られたけれど――美少女のジト目はご褒美だった。
ちなみに、防具は毛皮で作った腕輪。
本当は1人1人マントを作りたかったのだけれど、村にある布地と呼べるモノが少なすぎたから断念した。
とはいえ、魔法を付与した毛皮の腕輪の防御力は高い。
腕輪を身につけているだけで素早さが10アップに加えて、防御力が20アップだ。両手&両足につけることができるので、素早さ40アップに防御力80アップ。そう考えるとちょっとやり過ぎた感も無くはないけれど――後悔はしていない。
加えて、ウォーター・シールドによる簡易障壁の自動展開が可能。急所に当たりそうな攻撃は、これでほぼ防ぐことができる。
……うん、やり過ぎました。反省しています。
だからグローリー。蔑むような視線で「男って、本当に馬鹿よね? 馬鹿なの? 死ぬの?」って顔をしないで下さい。
心臓がドキドキしちゃいますから♪
ふいにグローリーが、ぴたっと僕のおでこに右手を当ててきた。
流れる沈黙。微笑むグローリー。
「あはは……」
乾いた僕の笑いの直後、美少女がため息を吐く。
「アキラは全然、反省していないじゃない!」
グローリーの叫び声が森に響いて、たくさんの鳥が逃げて行った。
◇
全員分の竹槍を作り終えて、今は毛皮の腕輪を作っている。
チュラカとグローリーが毛皮を切り、僕が魔法陣を転写して、ルーちゃんが検品して箱に入れる単純作業。魔法陣を設計するのが少し大変だったけれど、一度形を作ってしまえば、あとはスキルが転写してくれるだけ。
おしゃべり――もとい、今後の打ち合わせをしながら進めていく。
「ねぇ、チュラカ。“熱い雲が噴き出している場所”って、僕らが向かおうとしている場所以外には無いの?」
「ん~、森自体が危険で、あまり遠くには言ったことがにゃいから、分からないにゃ。でも、チュラカ達が向かう場所は山の入口にゃから、山に登ればもっとたくさんあるかもしれないにゃ」
「大きな山なの?」
「おっきな山にゃよ?」
「どのくらい?」
「おっきな、おっきな、おっきな山にゃ!」
「そうか、とっても大きな山なんだね」
正直良く分からなかったけれど、チュラカを傷つけたくないから言葉を選んだ。
空気を読んだのか、グローリーが会話に混じって来る。
「アキラ、山というよりかは“山脈”と言った方がイメージが湧くかも知れないわ。ターメリック山脈は天然の要塞なの。温泉が出るのは知らなかったけれど――このベルガモッド大陸を文字通り分断している存在なのよ」
「グローリー、もっと詳しく教えてくれる? 地名とかも分かる範囲で教えてもらえると助かる」
「ええ、いいわよ。ターメリック山脈は神々と戦った巨大な龍が地に落ちて、その死骸で出来たと言われる大陸を東西に分断する巨大な山脈なの。この南北に伸びるターメリック山脈を挟んで東はサフラン王国、エクメア帝国、オキザリス聖国、ソロ自治同盟といった独立色が強い国々が治めているわ。そしてターメリック山脈を挟んで西――つまり今のわたし達がいる方向――はルドベキア聖国、レンテンローズ王国、カリブラ王国、シーマニア海運同盟といった緩い同盟で繋がっている国々が治めているわ」
小さく息を吸って、グローリーが言葉を続ける。
「過去に東西の国で軍事的ないざこざが何度も有ったみたいだけれど、ターメリック山脈を越えてまで大陸統一を可能にした国は過去に1つも存在しない。一応、シーマニア海運同盟とソロ自治同盟を中心とした商人の商業ルートは確立されているけれど、それ以外には交流はほとんどないと言われているの。――以上が、わたしが城にいた時に仕入れた知識よ。ちなみに、わたしを召還して捨てた国は“レンテンローズ王国”って言うの。王族と貴族と軍属のほとんどは、クズだから遠慮なく切り捨てて良いわよ♪」
にっこりと作り笑顔を浮かべるグローリー。
ちょっと怖いなと感じてしまうけれど、彼女がされたことを考えると――うん、僕もムカムカしてきた。
レンテンローズ王国はいずれ潰す。
「ちなみにグローリーは、この大陸の地図を見たことはある?」
「精度が適当過ぎるモノなら、参考程度に見たことがあるわ。地図なんて軍事機密の中でもかなり上の方だから、わたしが見れた地図の精度は推して知るべしって感じだけれど――国の位置関係くらいならあっていると思うし、後でノートに書いておく?」
「そうしてもらえると助かる」
僕が日本から携行していた仕事鞄のショルダーバックに、ノートやA4コピー用紙が筆記用具とともに大量に入っていることを、心が読めるグローリーは知っている。
プログラマーとしてご飯を食べていた僕だったから、いつ、どこで、良いアイディアが湧いてくるかもわからなかったから、紙とペンはいつも大量に持ち歩いていたのだ。
その中の1冊を、僕はグローリーとの交換日記として使っている。
貴重な紙を消費するのは正直痛いのだけれど、グローリーの心理療法に有用だと思うからケチるつもりはない。
特別なコミュニケーションは信頼感の構築に繋がるし、言葉を文字にすることで自分の気持ちを整理することも出来る。他にも、後日見直すことで新しい発見ができるし、書いた時点では受け入れられなかった気持ちを落ち着いて分析することも出来る。
そういう意味では、今はまだ良いけれど、紙を手に入れる手段をどうにか見つけたい。
手元の紙が尽きることは、1つの心理療法が使えなくなるということを意味する。
そう考えると、薄ら寒い不安感に襲われる僕がいるのだ。
うん、僕のストレス軽減のためにも、紙の入手方法は真剣に考えよう。
あと、ストレス軽減という意味では、トイレの改良が必要だろう。
いわゆる“ぼっとん”は、流石に田舎の曾祖父ちゃんの家以来で戸惑った。紙じゃなくて葉っぱだったし。
水の魔法陣と空間魔法の魔法陣を組み合わせることで、水洗トイレもどきが作れないかなと思っているけれど……まぁ、おいおい改良していこうと思う。
何だか頭の中で大きく話題がそれてしまった。
話を戻そう。
「ねぇ、グローリー。ここまでの情報を総合的に考えて、僕はターメリック山脈沿いの森の中に都市を作ろうと思っているんだ。イメージとしては、温泉の出る森の街をイメージしている。あと、都市の形は“五稜郭”みたいな星型にしたいんだけれど、何か良い案はあるかな?」
「そうねぇ――とりあえず、五稜郭は格好良いから、大賛成よ♪」
にこにこした笑顔を見た瞬間、“歴女”という単語が頭の中をよぎったけれど、確認するのは止めておこう。多分、話が長くなる。
グローリーが胸の前で腕を組んで、言葉を続ける。
「あと、森の中に村を作るって言っていたからその気はないのかもしれないけれど、山沿いなら、地形を上手に使えれば山城が作れると思うわよ?」
「山城か……検討の余地はあると思う」
「そうなのよ。山城って攻められにくさでは最強なのよ!!」
うん、きらっきらの瞳をしているグローリーのことは、歴女認定しても良いのかもしれない。
でも、僕が検討の余地があると言ったのは、プラスの意味で言ったわけではない。
ここは中世ヨーロッパ並みの文明だとしても異世界なのだ。
「山城って格好良いし、ロマンの1つだけれど、対空防衛がザルだから対空戦力を揃えられるまでは止めておいた方が良いと思うな」
「空から来られると、やっぱり防衛力が弱いの?」
「うん。日本のお城も外国のお城も、空からの攻撃に弱いんだ。事実、第一次世界大戦以降の戦争は、制空権を取った方が勝つことが多かったみたいだよ」
「あ~、そうなんだ。わたしも、もう少し近代の歴史を勉強していたら良かったなぁ……幕末までは詳しいんだけれどね」
そう言って、グローリーが言葉を続ける。
「ターメリック山脈には竜族が住むとされているわ。数が少ないからめったに山から出てこないみたいだけれど、下位種のワイバーン程度になると数百匹の群れを作っているだろうから、そこの個体が流れてきた時に対処できる程度の対空戦力が出来るまでは、山城は封印ね」
「山城、作る気満々だね?」
「歴女の夢ですから!」
キリッとした顔を作って、すぐにグローリーが笑顔を作る。
思わず僕も笑顔になっていた。
「さてと、話しているうちに作業が終わっちゃったわ。――これで腕輪の材料は全部揃ったかな?」
グローリーが最後の毛皮を僕に渡した。
それに魔法陣をちゃちゃっと転写して、ルーちゃんに渡す。
「ルーちゃん、コレで最後かな? 数は揃っている?」
「はいですにゃ! 検品しながら数を数えていましたが、ちゃんと人数分+予備が20個ありますにゃ!」
「ありがと。チュラカもグローリーも、ありがとう」
小さく息を吸い込んで、言葉を続ける。
「それじゃ、ちょっと遅めのお昼ごはんにしようか♪」
「がんばったわ」「やっとお昼にゃ~(Tω)ノシ」「はいですにゃ(≡ω)♪」