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第8話_女勇者は強がっていた

「なんか……心配だな……」

宴の途中で、ぽつりとこぼれた自分の言葉。

誰にも聞かれていないと思うけれど、隣にいるグローリーが反応していないか、ちらりと様子を見てしまった。


うん、大丈夫。

グローリーはウサギのように野菜と格闘している。

でも改めて、グローリーのトラウマは根深いのかもしれないと感じた。


僕がそう思う理由は、グローリーがお肉を避けていることだけじゃない。

さっき、グローリーが気を失っている間にヒールをかけてみたのだけれど、擦り傷や小さな切り傷は治ったのに、HPがほとんど回復しなかったのだ。

僕の力不足が原因かなと最初は思ったけれど違うっぽい。2回、3回とヒールをかけても、それ以上は回復しなかったから。


多分、HPやMPの大元になる生命力が減っているのだと思う。

多分、このままじゃグローリーは――


「ごちそうさま」


不意に聞こえたのはグローリーの声。

「にゃ? グローリーは少食にゃ~。料理が口にあわなかったにゃか?」

「ううん、美味しかったわ」

「グローリー、大丈夫?」

僕の認識が正しければ、お皿に一盛り分しか食べていない。

「アキラ、そんな顔しないでも大丈夫。ちょっと人に酔ってしまったみたいなの。――チュラカちゃん、さっきの家で今日は休んでも良いかな?」

「もちろんにゃ♪ チュラカの火属性魔法の基礎で“虫焼き”しておいたから、毛布は安全にゃ!」


虫焼きというのは、毛布につくダニやノミを火属性魔法で生み出した高温の熱風で殺虫する行為。コレをしないと、寝ている間に虫に噛まれて痒くなるらしい。

「チュラカちゃん、ありがと。それじゃ、わたしは寝るわね」


「何かあったら、近くの仲間にすぐに言うにゃよ?」

「ええ、ありがとう。――そうそう、アキラ。今から、わたし身体を拭くから、覗いたら承知しないからね?」

「覗かないよ。ゆっくりどうぞ」

「つれないのね」

「いやいやいや、どういう意味?」

「ふふっ――どういう意味でしょ?」

意味深な表情で笑顔を作ったグローリー。ちょっとだけ心臓がドキリとした。


つまらなさそうな表情で、チュラカが親指をぐっと立てて逆さまにする。

「馬鹿なこと言っていないで、早く寝るにゃ(≡ω)p」

思わずグローリーと一緒に顔を見合せて、噴き出していた。

「グローリー、おやすみ」

「ええ、チュラカちゃんもアキラも、2人ともおやすみ♪」


そう言うと、グローリーは小屋の方へと歩いて行った。

軽くふらついているけれど……手助けしようにも、多分断られるだろうと思うことにして、視線を外す。


「ヌシ様、ご飯をもっと食べるにゃ! まだまだお肉があるにゃ。それに、村を森の奥に移動させる話も、みんなにしないといけないにゃ(≡ω)」

「うん、チュラカの言う通りだね。ありがと」

「もちろんにゃ♪」

チュラカの笑顔に笑顔を返して――僕達は、宴を再開することにした。

グローリーが教えてくれえた人間の情報や、これから森の奥に移動する場合にはどこを目的地にしたらいいのか、みんなと考える必要がある。


それに、移動する前にみんなの装備を整えたい。

目指すは、格上の中堅冒険者が出て来ても余裕で勝てる装備。

僕も含めて全員HPが少ないから、まずは防具を重点的に作ろうかな?


 ◇


何をどうすれば、こうなってしまうのだろうか?

チュラカと話しながらチュラカの家――グローリーが寝ている小屋の隣にある――に向かっていたら、小屋の中からグローリーが飛び出して来たのだ。

僕の腕の中で、子どものように泣きじゃくっているグローリー。

その背中を優しくポンポンと叩きながら、グローリーが落ち着くまで好きなようにさせておく。


5分くらい泣いて、疲れたのだろう、糸が切れるようにグローリーの身体の力が抜けた。

「――っと、危ない」

「ヌシ様、今夜はお楽しみですね(≡ω)δ」

「いやいや、そこまで僕は鬼畜じゃないから」

「でも、グローリーを1人にするのは良くないにゃよ?」

「それは分かってる」

「とりあえず、グローリーが寝ていた家に運ぶにゃ」

グローリーを起こさないように抱きあげて“お姫様だっこ”してから、小屋の中に移動する。室内だと魔法の照明の光が強すぎたから、明かりを弱める。


チュラカが枯れ葉に毛布を敷いた寝床を整えてくれる。

「さぁ、置くにゃ」

「ありがとう、チュラカ」

ゆっくりとグローリーを寝床に横たえ、その近くに座る。

「それじゃ、邪魔者のチュラカは消えるにゃ♪」

「え、ちょ、チュラカ!?」


「分かっているにゃ。ヌシ様はヘタレにゃから、何もしにゃいことくらい(≡ω)」

「喜んで良いのか悲しんで良いのか……」

「泣いて良いにゃよ?」

キシシっと笑ってから、チュラカが小屋を出て行った。


かつん、かつんという光球に蛾が当たる音だけが小さく聞こえる。


「……ぅぅっ」

うなされているグローリー。

何かを探すように左手が宙をさまよった。

震える手。うなされている声。苦しそうな表情。

見ていられなくて、思わずその手に左手を重ねてしまった。

「――」

声にならない吐息を洩らし、グローリーが微笑んで、すやすやと寝息を立てる。

でも、その疲れ切った寝顔は、どこか儚い危うさが滲んでいる。


僕と同じ日本人だからとか、こっちの世界で困っていたからとか、可愛い女の子だからとか、僕の知らない魔法を使えるからとか――色々と理由は付けられるけれど、僕はもうグローリーのことを、見捨てられないと自覚している。


多分、グローリーは心を病んでいる。

本人は強がっているけれど、かなりギリギリな印象を僕は受けた。

そして、男性相手に握手が出来ないくらいのトラウマを持っていたはずなのに、僕に抱き付いて安心していた事実を考えると――グローリーは同じ日本人である僕に対して、依存しかけている危険な状態だ。


グローリーは、生きる気力も生命力も減っているのだと思う。

僕も経験したことがあるから分かるけれど、そんな時の人間は心が弱くなる。

多分、このままじゃグローリーは――遠くない将来に自ら死を選ぶ。


でも僕は、グローリーを守りたい。

同情とか下心とか打算が無いと言ったら嘘になるけれど、僕はグローリーを守りたい。

たった1人の女の子が助けられなくて、何が魔王だ。

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