捻くれ者の私の友達
私には、捻くれ者の友人がいる。
私は此永日和。小さな喫茶店をやっている。
”森のひよこ”と名付けたこの店には、店員は一人しかいない。
メニューもコーヒーを含むドリンク数種、サンドイッチなど軽食が3種、
デザートにはケーキと、そこまで無理のない範囲でやらせてもらっている。
この店に来るのは、ほとんどが常連さんだ。
顔馴染みの彼らは気に入りの軽食や飲み物を頼み、
読書や人懐っこい若いマスターとのお喋りでそれぞれの方法で時間を過ごす。
夕方になり、客も少なくなった頃、
日和は、捻くれた性格の黒猫のような友人を思い浮かべていた。
彼は今日も来るだろう。そしてカウンター席の一番奥に座るのだ。
カラン――来客を告げるベルにそちらを見ると、
パーカーのフードを被った黒猫が店に入ってきたところだった。
「いらっしゃい。来てくれると思ってたよ」
「……別に。」
現れた黒猫に声をかければ、興味がなさそうにぽつりと呟く。
これはいつものことなので、私も彼も気にしない。いわば挨拶のようなものだ。
黒猫といっても、当たり前だが本物の猫ではない。彼の名は季羽緋月。
警戒心の強い、目つきの鋭い少年である。気紛れにふらりと現れ、ふらりと消える。
そんな彼が周りを警戒する様は、まさに毛を逆立てて威嚇する猫のようだ。
「いつものでいい?」
「ん……」
小さく頷いた彼に、少し待っているように言い、奥に行く。
小さなキッチンスペースにある冷蔵庫から用意しておいたケーキをとり出し、
彼の好きなイチゴをのせてやる。
「はい、日和さま特製ケーキ」
「アンタ相変わらず変だね」
緋月はケーキを受け取り失礼なことを言うが、これは通常運転だ。
「そんなことを言うなら、これ私が食べちゃうけど?」
そう言えば、緋月はケーキの皿を手元に寄せて無言で睨んでくる。
好物を奪われまいと睨みつけ、威嚇する様は猫にしか見えない。
「緋月くん、それよく頼むね。気に入ってくれた?」
彼の前に座り、自分の分のコーヒーを飲みながら尋ねる。
すると、緋月は視線を外して呟くように返す。
「別に。……アンタのケーキ嫌いじゃない。イチゴは好きだけど」
彼の「嫌いじゃない」は、気に入ったと同義である。
「ありがと。嬉しいな。また作るね」
嬉しくなって笑顔になる。
「僕、アンタが喜ぶようなこと言った覚えないんだけど」
お礼を言った日和に意味が分からないといった緋月は本当に捻くれている。
彼は察しがいいから、日和が喜んだ理由も分かっているのだ。
素直じゃない友人は、気に入っても決して素直にはそれを言わない。
彼は嘘は言わない。
捻くれたことは言うが決して相手を騙したりはしない。
そして遠慮もしない。
もし気に入らなければ、彼は三口あたりで食べなくなり言うだろう。
顔をしかめて「こんなものを食べさせるの」と。
そんな友人の照れたように呟かれたそれは、日和にとって何よりも嬉しいものなのだ。