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迷子

電車の窓に映る女を見つめる。

彼女は、口癖のように言っていた。笑なさい。ぎこちなくてもつくり笑いでも上手く笑えなくてもいい。それでも笑なさい。

1番初めに言ったのは、泣いている子どもにだった。それ以来、彼女は笑うようになった。

彼女は未熟だった。もう、30に手が届くという年だ。1人で生きていけるようにならなくてはいけない。だけど彼女にそれはできない。自分が弱い人間だと自覚していた。

笑うことは苦手だった。今日も彼女は笑う。鏡を見ると笑う。苦手な笑顔を浮かべる。笑うことにより辛い出来事を辛くないと自分で自分を騙すのだ。

そもそも愛想なんてない方だ。集団行動は苦手。たまに現れる自分を寵愛してくれる人と過ごすのが好きだ。そのまま行動できたらどんなに幸せだろう。

彼女は愛想がいいと言われる。人懐っこいね、誰もでもすぐに仲良くなるねと。それは誰だろう。愛想がいいのは生きていくため。たくさんの人に優しくしてもらうためだ。

そんな彼女には時々男性が寄っていく。そう、彼女はモテるのだ。なぜかって、それはきっと彼女の見た目のせいだろう。世の中で1番モテるのは手の届きそうな女だ。彼女は童顔だ。20代前半には余裕で見える。そしてよく不安げに人を見上げる。そう、小柄なのだ。日本の男は女性を征服したがる。一見大人しげに見える彼女は男にとって都合よく映るのだ。ちょうどいい女。連れて歩くのに恥ずかしくない程度に可愛らしく愛想がいい。清純そうに見えるので浮気の心配もないだろうと。

彼女はそういう男が嫌いだった。彼女は大人しくないのだ。自分の意見を言わずにいれない。そして曲がったことが大嫌いだった。彼女は男の些細な裏切りを許せなかった。自分に対する不誠実さを許せなかったのだ。

彼女は愛されたがりだ。愛を捧げることも知らない。見せかけの愛ならいくらでも。好きそうなそぶりならいくらでも。男のプライドをくすぐることも得意だ。だが彼女は人を愛せない。好きなフリをする。そして愛されて初めて安心するのだ。安心してからしか愛せない。自ら愛することを知らない悲しい女だ。

今日も彼女は首をかしげる。恋ってなんだろう。

一週間もしたら風化する想いは恋なのだろうか。恋は請いだ。相手を求める気持ち。

果たして本当に相手を求めているの。そんな気持ち本当は何年も感じていないのかもしれない。

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