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フェアリーキル  作者: とんかつ定食
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シキの提案はルディリアにとってありがたいものだった。

フェアリーチェストも、フェル金貨も、兄と姉の2人がルディリアの為に用意したものだ。

しかし甘えてばかりは嫌だった。

本当にに困った時にしか使わない、使いたくない。

ミンナ村の村長にはお世話になったから恩返しがしたくて金貨を使ったが、これからは自分の力でなんとかするのだ。


どちらかが迎えに来てくれた時に立派になったルディリアに驚くだろう。

いつまでも身体の弱いルビではないのだ!


ルディリアはフンフンとやる気をみなぎらせながらアヒルのポシェットに荷物を詰める。


数枚のフェル金貨、大好きでずっと入れっぱなしにしていたキャラメル、村長から貰った白いワンピースは畳んで奥の方へ。


もし兄姉が迎えに来ればそれで良いが2人とも何せ忙しい。

最悪自分で家に帰らなければ。


ルディリアは最初から自分を無能だと決めつけたあの父親を見返すのだ。




「むうううう!!!」



やるぞーと言いたげに両手に拳を作って空へと高く突き上げたルディリアに呼応する様にタヌキも足元で叫んだ。



「きゅううぅぅぅぅ!!!」




2人で叫び合ってトコトコと走り家を出ていく2人にシキも装備を服の上からパンパンと叩いて確認すると後に続いて出ていく。



「なに・・・・・あのノリ・・・・」



暑苦しっと言いながら出ていくソプラの後にハイドリヒ5世が続く。


家に帰った頃にはいつもお腹がペコペコで扉を開けてるとエプロンをしたルドギアが笑って迎えてくれる。

その手にはルディリアが大好きなチーズハンバーグが3つ重ねてあってチーズハンバーグタワーになっている。

とろけたチーズと空腹が加速する程のいい匂いをしたハンバーグにずっとクンクン匂いを嗅いでいても飽きない人参のバターソテーは丸い小さめのボールに沢山入っていてむううー!と喜びの声を出すと

ルドギアはニッコリと優しく笑うとお皿に山盛りの白いホカホカご飯をテーブルに置いてくれる。


大喜びで席へ走るとふわりと身体が浮かび、下を向くと心底嬉しそうにジュディリスがその逞しい腕で抱き上げてきて、彼も優しく笑う。


2人とも高位社員のくせに、忙しいくせにルディリアが帰ってくる定時に合わせて無理矢理帰ってきてくれているのを彼女も知っていた。

ただいまを言うと2人ともそこにいてくれてルディリアが大好きな笑顔を浮かべてくれた。



おかえり



そう言う2人の声がとてつもなく遠くに聞こえて、それは暫く先になりそうな予感がルディリアはしていた。


2人の顔が、声が遠い。


寂しくて、心細くてじんわりと視界が歪む。

鼻の奥がツンとして涙が滲んで溢れそうになるのを必死で我慢した。


ミンナ村の外、果てしなく続く草原に立つとそこはどうしようもなく不安定に見えて踏み出す足がガクガクと震えた。

初めて旅。


初めて家族から長い時間離れて知らない子達と過ごす。

心許す人が少なく、きっと大変な事も多いだろうし主治医もいないせいで不安の方がいっぱいだった。

前に比べたら外を歩ける程元気にはなったが身体は相変わらず弱い。

きっと迷惑をかけるだろう。


小刻みにブルブル震えるルディリアの脚にふわっと温かいものがくっついた。


ハッと下を向くとまん丸と太った真っ白いタヌキが真っ赤な目で心配そうにルディリアを見上げていた。


頑張らなければ、さっき決めたではないか。


ルディリアはカリヤを抱き上げるといつもの定位置である肩の上に乗せた。



「いこう、カリヤ・・・」



口を引き結んで未だ歩いた事もない道を踏み出す。



「大丈夫だよ」



後ろから声を掛けられ振り向くとシキが立っていた。



「1人じゃないし、僕はここら辺歩き慣れてるし身分証明書だって確実に身元が判明してる奴がひとりでもいるなら普通に出されるから」



さあ行こうと背中を押され、トコトコっと脚が前に出る。


始まった。


見たことのない街を沢山回ってしたことの無い旅をする。




その始まりが。






空は快晴、終わりのない透き通る空には雲がゆったりと流れていく。


弱いが風も吹いていて、歩くにはちょうどいい。

青々とした草を踏み鳴らしながら歩くと植物特有の匂いがした。


馬車道はあるにはあるが、ミンナ村とは本当に田舎の辺境の地にある為そんなに踏み慣らされているわけではない。

シキは軍人の本格的なブーツの為歩きやすいしサクサク進むが、問題はルディリアとハイドリヒ5世だった。


特にハイドリヒ5世など長距離歩く為の靴ではない。

エナメルのテカテカ光った革靴は傷一つない。

硬い素材で作られているため余程歩いて履き慣らしていないと靴ズレを起こすのだが、彼がそこまでしているわけもなく早速弱音を吐いている。


これは先が思いやられるなぁとシキはチラリと女性陣を盗み見る。


流石ミンナ村の野生児、訂正して妖精の巫女。

ソプラはなんともない、ご近所にお散歩にいくような顔で歩いている。

歩き慣れているといった足取りはしっかりしていてこれは放っておいても平気だろう。


問題はルディリアだ。

チラッと彼女を見ると、見たことのない景色が珍しいのか瞳をキラキラさせて周りをキョロキョロと見ているが呼吸が早い。


まるでもう何時間も歩いている様な疲労が見える。

恐らくはフェアリーチェストのおかげでこうした街から街へと歩く工程をしたことがないのだろう。

シキは実際に使った事がないが、ソルディック社のフェアリーチェストとは街1つ1つにフェアリーサークルという魔法円の様な装置が設置されている。

それはソプラの大嫌いな方法で作られる。


100ではきかない量の妖精を殺してそれを核とされた大きな丸い円盤の様な宝石の結晶を作る。

それを原動力としたフェアリーサークルは全ての街の地面に設置される。

勿論フェアリーサークルを設置する為に各街にはソルディック社から謝礼として多額の謝礼金が出て、維持費として毎月定額がソルディック社から支給されている為それを資金源にしている街も多い。

ミンナ村もソルディック社からの謝礼金で廃れる事無く村を存続出来いるのだがソプラはそれを知らないらしい。


フェアリーチェストはそれらのフェアリーサークルを通して一瞬でその場所に移動出来る近未来的な装置だった。


しかしそれはソルディック社の社員なら誰でも使用出来るわけではなく選ばれた高等社員、高位社員と呼ばれる限られた人間しか携帯を許されていない。


これが売られるものな1億出してでも買取りたいと騒ぐ貴族や人々が大勢いる。

そんな代物をソプラノはまっぷたつにへし折って再起不能にしてしまったわけだが。


そんな便利な移動方法を普通にしていたルディリアなものでこうして体力を浪費して移動する事に当然慣れていなかった。


人一倍体力を消費しているのだろうハァハァと荒い呼吸を繰り返しながらも珍しい景色が楽しいのだろう。

僅かに笑いながら歩いている彼女の気持ちは折れてはいない。


しかし




「そろそろ休まないかぁ・・・・僕はもう限界だよぉぉ・・・・」




シキ、ソプラ、ルディリアからだいぶ離れた所で座り込むハイドリヒ5世にシキはこめかみを押さえた。




「あのなぁ・・・・・まだ歩き出して2時間しか経ってない、もうすぐでサディルナ領行きの船着き場行くから頑張ってくれない?」



女の子でさえまだ騒いでないのに情けないと言ったように肩を竦めて見せるシキにハイドリヒ5世はフンフンと怒る。




「僕はデリケートでいて繊細なんだ!!」




これでもかという程の大声で反論するハイドリヒ5世にシキはそんな大声出せるならも少し頑張れよと言いたいのをグッと我慢すると女性陣を見た。



「休む・・・・・?」



呆れた様に問うソプラに答えようとしたシキが瞳を見開いた。

素早く腰からナイフを引き抜くと構えた。




「おい!立ち上がれ!!走って逃げろ!!」




怒鳴るシキにソプラとルディリアがそれぞれの武器を持って構える。

ただ1人ハイドリヒ5世だけは自分に投げ掛けられた忠告だと言うのにハァ?と言いながら立ち上がろうともしない。


その様子にシキは苛立った様にチッと舌打ちするとハイドリヒ5世の方へ向かって走り出した。



「危ない!!」




ルディリアの悲鳴でようやくハイドリヒ5世は後ろを振り向く。

そこには喉をグルグルと鳴らしながら牙の間からボタボタと涎を垂らす野犬型のモンスターが4頭座り込んだ餌に向かって走ってきていた。



「ヒイィ!!」



慌てて立ち上がり逃げようとするが野犬が噛み付いて来る方が早かった。

でっぷり太ったハイドリヒ5世の腹目掛けてモンスターの牙が襲い掛かる。

シキの走るスピードは通常の人間より速いが間に合わないを

その光景にいち早くルディリアが叫んだ。



「カリヤ!!」



ルディリアの声にタヌキも武器を取り出して叫んだ。



「キュウウウーン!」



答えるようにタヌキは音楽隊の指揮者が楽器達を指揮する際に使うタクトを振るった。


銀細工で作られたそれは音符の形をしている、それは全く同じ物をルディリアも持っていた。

それが彼女達の武器だ。


タヌキが手を上げると、ルディリアを囲む様に周りを光の魔法円が包む。

その光をルディリアが素早く自分のタクトでなぞると切っ先は光り輝いた楽譜の羅列となって光り輝いた。


それを彼女はハイドリヒ5世へとビシッとタクトで指すと今まさに彼へ噛み付こうとしていたモンスターがバシッと見えない壁に弾かれた。



(光の盾?!)



ソプラは信じられないといった顔でルディリアを見た。



「うわあぁ!」



情けない声をあげながらその場で座り込み動けなくなったハイドリヒ5世の周りには楽譜の羅列が魔法円の様にグルリと囲み結界となってモンスターからの攻撃を防いでいる。


その様子にガルガルと怒るモンスターをシキがナイフを突き立てた。

一撃で完全に息の根を止める。

細い様に見えて鍛えられた腕は力強く握ったナイフを柄の部分を残して全て刃をモンスターに突き立てるとそのまま横一文字に切り裂いた。


ビシャッと音を立てて血をばら撒くモンスターにシキは素早く次から次へとモンスターを引き裂いて行く。


その素早さにソプラノは自分の武器を構えたまま呆然と見ていた。



「ふう・・・・」



ハイドリヒ5世の周りを血とモンスターの死骸が散乱する。

あれだけ派手に立ち回ったのにシキは返り血1つ浴びていない。

そして驚く事にハイドリヒ5世も返り血を浴びていない。

全てをルディリアの作った結界が遮断していた様だ。

全てを倒し終わったのを確認するとルディリアはタクトを上から下に下げた。

それが魔法を解く合図らしい。


光の魔法円はふわりと消えてキラキラとした余韻を残して消滅する。


その様子にシキがルディリアを見た。










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