表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーキル  作者: とんかつ定食
4/60

4




シキはハッとしたように走り出して中に飛び込んでしまうんじゃないかという勢いで身を乗り出す様に井戸の中を覗き込んだ。



「・・・・・駄目かっ!クソッ!」




苛立った様に舌打ちをする。もしかしたら井戸へ落ちても拾ってメモリーさえ無事ならなんとかなるかとも思ったが


井戸は入口が小さく桶を落とすのがやっとで、しかも深さは底が確認出来ない程の物だった。



「あれは彼女の身分証明だ・・・フェアリーチェストがなければルディリアは自分の家に帰るどころかエルフェーデのあるフェル大陸に渡る渡航許可さえ降りないんだぞ!!」



シキの怒鳴り声を聞いていたルディリアが膝に乗せて優しくカリヤのお腹を撫でていた手を止めた。



「む・・・・・む?!」



心底信じられないという顔をしているルディリアに、シキは苦笑いした。



「もしかして・・・・・知らなかったの?」



事の重大さに気づいたルディリアが誰も聞いたことのないような悲鳴をあげた。




「むううううううー!!!!!!」




そんな大声が出せたのかという位の大声をあげるとノタノタと走り、彼女も井戸を覗き込む。



「む、・・・む、・・・・・うぅっ」



覗いたまま最後の方は嗚咽が交じる。

ルディリアにもフェアリーチェストの引き上げは困難だと理解出来たのだろう。

身分も証明出来ないということはまともな帰路にはつけない。

フェアリーサークルがなければ家に帰る事も出来ない。



「うっ・・・うっ・・・・ルドおぉ・・・・・ジュディリスうぅ迎えにきてえぇ」



大きな瞳からポロポロと大粒の涙が流れふっくらした頬に次から次へ伝って落ちる。その様子にカリヤは慌てた様にルディリアの足元をウロチョロしてはアワアワと彼女の脚を慰めるように撫でる。


ビエーッ!!と泣き出したルディリアにソプラも少しは悪い事をしたと自覚が出てきたのか少し心配そうに見ていたが、シキが睨み付けるとプイッと顔を逸らした。



「妖精を殺す様な物を使う方が悪いのよ!!」



「ふざけるな!人の物を壊しておいてよくそんな事を理由に偉そうな顔が出来るな?!」



大泣きするルディリアの代わりに怒るシキにソプラは余計面白くないといった表情になる。



「あれは彼女の身分証明であり財布であり移動手段だ・・・お前のせいで一文無しで知らない土地に放り出された様なものなんだぞ!」



シキの言葉に、何も知らなかったとは言えとんでもないことをしたと少しは理解した様だが、変な意地がルディリアに謝る気持ちを邪魔する。



「そんなの知らないわよ!私は巫女なの!!妖精を守るのよ!」



そう言って彼女は逃げる様に自分の家の方へ走って行ってしまった。


残されたシキとハイドリヒ5世は泣きじゃくるルディリアと残され呆然とする。




「あのクソアマ・・・・・この村の奴ら相当甘やかしたな・・・」




自分のした事を謝りもしないソプラの態度にシキが忌々しそうに毒を吐き捨てた。


井戸の近くでしゃがみこんでビービー泣くルディリアの傍らに膝を付くとシキはその小さな背中を泣き止むまでずっとさすり続けた。


そんな2人の後ろで、ハイドリヒ5世はニヤニヤと笑っていた。


金儲けの予感だ!



(アイツ・・・・・ソルディックの名字を名乗ってたぞ・・・)


ソルディック社はディスカール、フェル、ソルディックという男が代表取締役つまりは社長をしている。

ルディリアが名乗った名字と同じだった。


うまくいけばルディリアは社長令嬢かもしれないのだ。

あの高性能なフェアリーチェストを持っていた所を見ると可能性が非常に高い。

もし社長令嬢でなくてもエルフェーデでソルディックという名字の人間は全員が貴族クラスの家名で大富豪が多い。


(コイツをエルフェーデまで送り届ければ報酬が出るかも・・・・)



笑いが止まらない展開なハイドリヒ5世はキリッと顔を引き締め井戸の近くに座り込んでいる筈の2人の方を振り返った。



「やあ、諸君!僕から提案が・・・・・」




意気揚々と提案しようとしたハイドリヒ5世の視界な泣きじゃくるルディリアがシキに連れられ、村長の家へ入っていくのが見えた。



「おいおい待つてくれよ!僕もいくよー!!」



叫びながら慌てて後を追う。



辺りはもうすぐそこまで夕闇が迫っていた。




辺りの民家からは夕餉の食欲そそるいい匂いがする。

沢山の果実が山盛り入った大きな籠を背中に背負った中年の小太りの男性がのんびり家路を歩く。


こ地域特有の民族衣装だろうか、それぞれが色違いの似た様なデザインのロングスカートを履いてエプロンをつけた女性達がそれぞれ食材の入った紙袋を抱え3人程で集まって楽しそうに談笑している。


平和なミンナ村の夕暮れの中、シキは枯れてしまうんじゃないかと思うほど涙を流すルディリアの背中を優しく押しながら村長の家へと歩いていく。


宿がない以上自分もルディリアもここで世話になるしかない。

とりあえず事情を説明して彼女とタヌキが泊まる事も言わなくては。


えぐえぐと泣くルディリアの後を白いタヌキはトコトコとついてくる。

驚く事に四つん這いではなく2本足で人間の様に歩いてついてくる。


その様子に驚いた様に凝視するシキの視線に気付いたタヌキはフイッと素っ気なくそっぽを向くとルディリアの足にくっつくき、その太った体では考えられない位の素早い動きでササッとルディリアの身体をよじ登り小さな肩にドムッとくっついた。



「アウノイデラジール、ルドギア、ジュディリス、リールノアウノフール??」



ルディリアが突然理解不能の言葉を話し出す。シキは瞳を見開いて彼女をみるが視線は交わらない、どうやらルディリアはタヌキに話し掛けているようだ。

タヌキはコクッと頷くとキューキューと鳴く。


それを聞いたらまた大粒の涙が零れた。



「それ・・・・・どこの・・・・・」



そう訪ねようとしたシキの背中をドンっと鈍い衝撃が襲った。

前につんのめって倒れる所でなんとか踏み止まったシキがギロリと後ろを睨んだ。




「僕を忘れるんじゃない!!このハイドリヒ5世を!!」



転ばされそうになりながれシキはこれからの事を思うと気が重くなった。

コイツも同行するのだろう・・・・と。



「そこ、段差になってるから気をつけて」



シキは村の中でも一番大きな家の前で立ち止まる。

大きな円形の家は全3階建てで全て木製の温もりある建物だ。

所々ペンキが剥がれ、木の部分が剥き出しの壁があるが修理もされ大事に使われている。


中は思ったより広く、小さな木彫りの工芸品やヌイグルミが飾られていた。



「ようこそ・・・・・お客さまですか・・・?」



迎えてくれたのは歯の大体が抜けてしまい、空気と一緒に言葉を吐き出す老婆だった。



「村長さん、私の他、2名とタヌキがいるのですがよろしいですか?」



シキはオドオドしながら中に入ることを躊躇っているルディリアの背中を押して老婆の前に出した。


ビクッと身構えたルディリアだったが、老婆の優しげな顔にすぐヘニャッと力が抜けていくのがわかった。



「・・・・・事情は村の者から聞いています・・・さあ、お腹減ったでしょう?」



優しく笑いながらルディリアの手を引くと老婆は奥へと続くドアを開けた。

ギィと軋みながら開いた先には清潔そうなテーブルクロスが引かれたテーブルに心ばかりの食事が用意されていた。


湯気が立つ出来立てのシチューは野菜が沢山入っている。

焼きたてのパンは、かごの中に山盛りにされ、彩り良いグリーンサラダの上にはポテトサラダが丸く固めて乗せられていた。


決して豪華ではないが、客3人と老婆だけの食卓にしては量はかなり多かった。


まだポロリポロリ涙を流していたルディリアだったが、歓迎された食事に少しだけ瞳を輝かせているのが見えシキはホッとすると席に着いた。



「お代は・・・いりません」



席に着いたシキ、ルディリア、ハイドリヒ5世に村長の老婆は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。



「巫女様が・・・・・大変失礼致しました・・」



謝る老婆に、シキはルディリアの方をチラリと盗み見る。




「・・今日は沢山食べて、明日私達の方でも何か考えておきますので・・」



人見知りなのだろうと思う。シキはモゴモゴと喋れずまた少し泣いている彼女にの手に熱々のパンを持たせた。



「ブルーベリーのジャム、マーガリンと一緒に食べるとすごく美味しいよ」



そう言うとシキは柔らかいふわふわのパンにマーガリンとブルーベリーのジャムを塗るとルディリアの前で食べて見せる。




「やってあげる」




とっくに食事をがっついているハイドリヒ5世を無視して、未だにスプーンすら手をつけないルディリアにブルーベリージャムとマーガリンをたっぷり塗ったパンを持たせた。




「焼きたては格別だから、食べなよ」



俯きながら、膝の上で両手をギュッと握ったままだったルディリアが恐る恐るシキからパンを受け取ると引き締めていた唇を少しだけ開けて小さくパンを齧った。




「・・・おいしい・・・・」



本当に小さい声だったが一言そう呟いたルディリアに、シキはニッコリ笑った。



「でしょ?俺もこれ食べた時はびっくりしたよ」



そう言ってスプーンに手を伸ばしたシキの腕を小さなフカフカした手がトントンと叩いた。


ん?とそちらを向くと、大きなフランスパン程のパンを抱えたルディリアの白いタヌキがシキの近くのテーブルの上で立っていた。



「な、何・・・・」



戸惑うシキにタヌキは自分が抱えていたフランスパン程の大きさのあるパンを3つ差し出すと、マーガリンの入ったガラスの容器とブルーベリージャムの入った瓶を指差して見せた。

そのジェスチャーに、シキは呆れながら吹き出した。



「図々しいタヌキだな・・・・・やれってこと?」



やれやれといいながらパンを3つ分マーガリンとジャムを塗ってやるとタヌキに手渡す。

そんなやり取りを見ながら、ようやく普通食事を取り始めたルディリアに村長もホッとした様子だった。


しかし


ルディリアがシチューを口に運んだ時だった。


また


ポロリと涙が零れた。


ポロポロと泣きながらシチューを口いっぱい頬張る姿に、シキはそれが悲しみから来ているものではないと分かり村長の方を向くと


大丈夫、という意味合いを込めて一度だけ頷いた。


温かいシチューを口に運びながら、パンにかぶりつくルディリアにシキはふう・・・・・と息を吐いた。







食事を終えた後、村長はルディリアを自分の部屋へと招くと使い込まれれ古ぼけた洋服箪笥を開けると奥へとしまいこまれていた白いワンピースを取り出した。



「ルディリアちゃん、おばあちゃんが若い頃のやつなんたけどね」



お腹いっぱいになってポッコリ膨らんだ腹をポコポコと叩くカリヤを抱っこして居心地悪そうにそわそわしているルディリアに村長はシンプルなワンピースを手渡す。



「これ、パジャマにしておくれ」



しわくちゃの顔でニッコリ笑う老婆に、ルディリアはおずおずとワンピースを握った。



「わたし・・・いいですか?」



オシャレや容姿の美醜にはこだわらないルディリアは今まで自分から服を選んだことがない。

可愛い柄の下着や洋服のチョイスは全て双子の姉任せだった。

そんなオシャレがよくわからないルディリアから見てもとても綺麗なワンピースは寝巻きにするにはもったいない気がした。



「いいのよ、ソプラちゃんがあなたに意地悪したんでしょう?ごめんなさいね・・・でも、本当はいい子なの」



申し訳なさそうに呟く老婆に、ルディリアは首を振った。



「・・・わたし、平気ですからお気になさらないでください」



ぽやぽやしていたし、泣いてばかりの彼女とは思えない程ハッキリとそう言った声に物陰に隠れて様子を見ていたシキは壁にもたれながらぼんやりと天井を見上げた。


彼女の着ていたシャツはエルフェーデでは有名なブランドのものでかなりの高額な商品だ。

それに加えて履いていた靴。

踵の低い革靴はピカピカに磨かれていて手入れの丁寧さを感じさせる。それと同時に綺麗過ぎた。

恐らくエルフェーデまでの長旅は彼女にとって初体験となる。

資金もなければ、旅支度が出来る程の装備もない。


ルディリアはもっもとソプラに怒ってもいい筈だ。

しかしそこが彼女の性格なのだろう。

旅が始まれば彼女はまたグズグズして泣くのかと思っていた。

これはなかなか根性はありそうだ。


オドオドしていたルディリアが村長と少しだけ打ち解けてお喋りを始めたのを確認すると、シキはもたれていた壁から離れ廊下を歩いて離れていった。


照明代わりのランプの明かりはユラユラと揺れ、温かい光を灯していた。


始まりの夜は続く。







部屋の中はこれでもかと言うほどピンクで一色。

ベットのシーツも窓を飾るカーテンも。

ここはソプラにとって唯一心休める場所であり、癒しだった。

可愛いフリルのついた枕を抱きしめ、彼女はダンゴムシの様に丸まって動かない。


今日はいい事をした。

妖精達を守ったのだ。自分は素晴らしい妖精の巫女だ。


沢山の妖精達が犠牲になった道具を壊してやった。


それなのに気分は深く深く海の真っ暗な底にいるように沈んでいた。


甘やかされているのはソプラからも充分見て取れた。

平均よりポッチャリの体格は沢山好きなものを食べさせてもらっていたから。

着ている服が綺麗な色のシャツはここらへんではまず手に入らない高級なものだ。

靴もピカピカ、身につけていたお尻が隠れる程の大きいアヒルの形をした可愛いポシェットは流石都会、物が捨てる程溢れているのだ。


アイツは太ってぷくぷくに膨れた頬にボロボロと涙を流し知らない名前を叫んで泣いていた。

多分家族。

ソプラにだって家族はいる。

今は村にはいない、でも半年に何度か帰ってきてはソプラの大好きなピンクのものを買ってきてくれる。

両親ともハイドリヒ領で出稼ぎに行っているが、充分な仕送りと手紙だって毎週2通くる。


でもアイツは今日から家族には会えない。


ミンナ村からエルフェーデまでの道のりは遠い。

ミンナ村の近くの船着き場まで馬車を使っても3時間

そこからサディルナ領まで船で1時間

本来身分証明書があればサディルナからエルフェーデのあるエル大陸への船はあるが、身分証明書が無い場合、発行はハイドリヒ領の大使館まで行かないといけない。


そうなるとサディルナ鉱山を越えてクリナーデ領を経由しハイドリヒ領を目指さなければならない。

これだけで少なく見積もっても馬車での移動を前提として1ヶ月は掛かる上、経費も莫大な金額になる。

これが徒歩になったらその掛かる時間は倍だ。


身分証明書が取れたらクリナーデからエルフェーデ行きの船はない為またサディルナ領へと戻る。

財力があるならこれを半年はかけて身分証明書を取るのだが彼女は恐らく急ぐだろうから大変な旅になるだろう。


予期せぬ突然の事にいきなり家族と会えなくなり、見知らぬ土地で資金もなくあの子はどうするのだろう。


最後にみたルディリアはボロボロ泣きながら井戸の近くで座り込んでいる姿だった。


可哀想な事をした、なんて事をしたんだとソプラの胃はズンと重くなり大好物のアップルパイも今日ばかりは少しも美味しくなかった。


ごめんねを言うつもりだった。でもルディリアを前にするとイライラした。


自分より裕福な生活をしているのがわかったから?

自分には冷たかった男の子があの子にはあっさり声をかけて何かと気を使っていたから?

私の方が可愛いのに!


妖精を殺す道具を使っていたというのは二の次で本当はそう言った理由が先にきてどうしようも頭に来たからかもしれない。

ソプラは常に村人からチヤホヤされていた。


だからこれから先もそうでなくては気がすまなかった。


全然眠気が来ないまま、ソプラは枕をギュッと抱きしめて布団に埋もれた。





少しでも眠気が来るように。





シキが任務を終えてミンナ村の村長の家に世話になって2日程度、今日で3日目だ。


外では鶏が鳴く声と挨拶を交わす村人の楽しそうな声が聞こえる。


カーテンを締め切ったままの薄暗い部屋で彼はベットに腰掛けていた。


全く、予備で持ってきた拳銃を一発でも使わないで良かった。

これから先はコイツに世話になるだろうとシキは入念に手入れを済ませた愛用の銃をベストにしまいこんだ。

鏡に映る自分の姿はいつも通りだが、目の下に少しクマが出来ていた。


シークの軍人に配給される軍服に色々と便利なベスト、黒い革手袋をつけて少し底がすり減って来たブーツに足を入れると気合を入れる意味合いも込めてギュッと強く靴紐を縛った。


ドアを開けると、家の中は朝から食欲そそる匂いで溢れていた。



「カレー??」



朝カレーは健康にいいと言いますし、しかし年寄りの村長らしい味がいつも薄めの食事が多かったが、今日は奮発してくれたのかとシキは部屋を出ると食事をとるダイニングへ入った。


そこにいたのはフンフンと得意そうに鍋を木製のおたまでかき混ぜるルディリアと大盛りカレーをがっつくハイドリヒ5世、そしてニコニコ笑う村長の姿があった。



「あら、軍人さん、おはよう!さああなたもお食べなさい。美味しいわよ」



炊き出しをする様な大きい鍋に大量に作られたカレーは匂いにつられた数名の村人まで食べにきていた。



「ルディリアがまさか料理が得意だったなんて驚いたなぁ!」



口の中にいっぱい頬張りながらハイドリヒ5世がスプーンでルディリアの方をさした。



「むうー!カレーとパンケーキだけ得意!!」



カレーが食べたくて皿を持った人へ丁寧にカレーをよそりながらルディリアが答える。

その足元にはやはりあの真っ白な毛色をしたタヌキ。


元気そうに見えるがルディリアの目ともはうっすらクマが浮かんでいたし、泣きすぎた瞼は少し腫れている。

シキは少しだけ視線を逸らすと椅子に腰をおろした。



「むー!!はい!男の子!!!」



ドカッとテーブルに載せられたカレー皿には大盛りの白飯とカレー。




「ちょっと・・・・・多くないか?」




全部で1キロはありそうな重量のカレーに怯むシキに、ルディリアはそれより更に大盛りのカレーをドカッとテーブルに載せた。



「誰の?!!」



シキのと比べればゆうに3倍はある。こんなの人間が食べられるわけない。




「カリヤの」



そう答えるとルディリアは椅子にタヌキを座らせた。

相変わらず今日もふわっふわの毛を揺らすタヌキがシキの顔を半分は隠せる程の大きいスプーンを持った。

そしてシキの方を向くと、フッ・・・・・と馬鹿にしたように笑った。


この程度も食べれないとは・・・貧弱め。


とでも言っているよな人を小馬鹿にした顔だった。



「ムカつくタヌキ・・・・・」



スプーンを握る手に力がこもるが、スプーンをザクッと豪快にカレーに差し込んで大口を開けたタヌキの迫力は圧巻だった。


ガブガブと食べ続けものの数分でカレー皿が空になっていてシキは唖然とした。



「え・・・・・」



「お金は大丈夫!もしもの時の為に持たされたお金!あった!!それで買ったから!」



ルディリアは大皿にまたご飯をこれでもかと盛るとカレーを流しカリヤの前に置いた。

ぽかんとタヌキを見ているシキに、ルディリアは首を傾げた。



「冷めちゃうよ?」




そう言われてハッとシキもようやくカレーを一口食べる。

瞬間ビクッと肩を揺らした。



「う、うまい・・・・!」



野菜の甘み、カレーのスパイス、煮込まれた肉はホロホロとしていて噛まなくてもいい程に柔らかい。

野菜は全て大きい。乱切りだ。人参などは皮を向いていないし、大小様々な野菜の切られ方をみると確かにこらは得意料理はカレーだけなのかなと思わせる野菜の切り方だったが味は今ままで食べたことのない美味しさだった。

なるほど、これ程なら残さず食べられそうだ。



今日は一段とワイワイ賑わう村長の家を、こそこそと覗く人影があった。


ソプラだ。

その手には昨日全然食べられなかったアップルパイが入ったバスケット。

完全に冷めてしまったし、サクサクもしていないが、なんとなく持ってきてしまった。



「な、なんでこんなに人がいるのよ・・・」



うえのじいちゃんから井戸端会議常連のおばさん連中までいるではないか。


別にこの冷めたアップルパイは処分するために持ってきただけであって冷めててもこのソプラちゃんが作ったのだから美味しいのだ。


・・・・・別に昨日散々泣かせたルディリアに食べさせようとしているわけでは決してないのだ。


村長の家の前でウロウロしているソプラに、カレーを食べ終え外で散歩していたハイドリヒ5世が気付いた。



「お前昨日の・・・」



「ぎゃっ!!!」



いきなり声をかけられソプラが色気の欠片もない悲鳴をあげる。



「入ったらいいだろ、お前もカレーを食べにきたのか?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ