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元に戻るには?

「……で、本当の本当にナッキーなの?」

「……ああ」


それから。案の定鬼を討ち漏らした俺は、途方にくれつつまずはミサに連絡を取った。ミサは東洋、西洋問わず術の類に精通している為、この体も何とかなるんじゃないかと思ったのだ。

本当は、こんなザマを他人に晒すなんて絶対したくないし自分で何とかしたい。やるべき仕事も果たせなかったんなら尚更だ。しかし態勢を立て直そうにも、このまま家に帰れば無口な親父はともかく、お袋が何て言うか……。

それを思えば背に腹は変えられなかった。仕方ねーだろ。男にとっちゃ母親ってのは、どんだけ強がってても結局は世界で一番怖い生き物なんだよ。

俺のメールを受けて河川敷までやってきたミサは、不審そうな目で俺の全身を舐め回すようにジロジロ見る。……まぁ、そりゃそうだろ。俺だって未だに信じたくないんだから。

メロンみたいなでかい胸。きゅっとくびれたウエストライン。おまけに腰まで伸びた長い髪。

今の俺は、どこからどう見ても女そのものだ。


「……………………」


ミサが睨み付けながら、ぐっと俺との距離を詰めてくる。……こんな真剣な顔をしたミサは、初めて見たかもしれない。

そして。


「ずるい!」

「うわ!?」


むにゅっ、と擬音が聞こえた気がした。ミサが両手で俺の胸を鷲掴みにしたのだと、そう気付くのに少しの間を有する。


「ずるい! ナッキー男の子の癖に! あたしより胸おっきいなんてずるーい!」

「ちょっと待て何の話だ!」


そのままむにゅむにゅと人の胸を揉むミサを俺は怒鳴り付ける。嫉妬か!? さっきの真剣さは嫉妬してたのか!?

しかも女の力とはいえ、力任せに目一杯揉むもんだから色気も何もなくとにかく痛い。そりゃもう千切れるんじゃないかってレベルで。


「不公平すぎる! こんなのイジメだー!」

「だ、か、ら、落ち着けっつーの! イテェからそれ以上揉むな!」


やっとこミサを引き剥がす事に成功すると、ミサはまだ不満げな顔で俺を睨んでいた。それに俺は盛大な溜息を漏らす。


「……とにかく。信じてくれるんだな?」

「……うん。ナッキーはおふざけでこんな事しないもの。それに口調も態度もどう見てもナッキーそのものだし」


とりあえずその返事に胸を撫で下ろす。まずは信じて貰えない事には話も出来ないからな。


「でもナッキーらしくないよね。どうやら仕事も果たせてないみたいだし、おまけにそんなカッコにされて」

「それは自覚してるさ。俺とした事が詰めが甘かった」

「とりあえず、何があってそうなったのかきちんと説明してくれる? あたしを頼ってきたって事は何かの術をかけられたんだよね?」

「ああ。実は……」



「それは、やっぱり呪いをかけた張本人を倒すしかないねー」


俺の話を一通り聞いたミサは、実にあっさりはっきりとそう断じた。……覚悟は出来ていたとはいえ、落胆はでかい。


「……どうしてもか」

「妖魔の呪いってのは、闇の世界に生きてるだけあってそれだけ強力だかんね。あたしもちょっとその血を引いてるけど、その程度じゃ完璧な解呪なんてとてもとても」

「……そうか」


言い忘れていたが、ミサの体には人間の精気を主食とする妖魔、サキュバスの血が流れている。ミサがクォーターである事は話したと思うが、そのミサのハーフの母親の更に母方の家系が人と共に生きると決めたサキュバスの一族だったらしく、それゆえにミサは人一倍術の扱いに長けているのだ。

なおこの事は別に秘匿されてはいない。最近の退魔師業界では人と妖魔の混血は珍しい事ではない。人間にさしたる危害を加えないならば光の世界においても存在を容認される。そんな柔軟さをこの業界が手に入れたのは、ここ百年くらいからの話だ。

……とにかく、そのミサに無理なら生半可な術者ではまず解呪は出来ないという事だ。最悪だ。お袋にどんな面晒せば……いや学校とかもどうしたら……。


「しょげるのはまだ早いよー。あたし言ったよ? 『完璧な』解呪は無理だって」

「それって、つまり……」

「呪いを弱める……一時的にナッキーを男の子に戻す事なら多分出来るって事」

「マジか!?」


すっかり肩を落とした俺に、ミサが慰めるように言葉を続ける。その内容に、俺は思わずミサの肩を掴んだ。

戻れる。例え一時的でも、男に戻れる!


「一時的だろうが何だろうが戻れるなら何でもいい! やってくれ!」

「ひ、必死だねぇ……そんなに男に戻りたい?」

「当たり前だ!」


俺の剣幕に若干引き気味のミサに、お構いなしに更に詰め寄る。するとミサは、突然ニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。


「……後で文句、言いっこなしだよ?」

「ああ」

「それじゃあ……」


その笑みに少しの嫌な予感がよぎりつつも、元に戻るのが先決とそれを押し殺して頷く。それを確認するとミサは一つ咳払いをし、両手で俺の頬を包み込む。


「?」

「……いただきます」


ミサがそう言った瞬間、急激にミサの顔が近付き唇に柔らかな感触が触れた。ちょっと待て……これは……!


「んんーーーーーっ!!」


何が起こっているのか認識した瞬間、俺は反射的にバタバタともがいていた。な、ななな何で俺ミサにキ……キス、されてるんだ!?

抵抗はするのだが、上手く体に力が入らない。体中が火照り、徐々に熱を帯びていく。そしてその熱が唇から抜けていくような錯覚がした。

頭がぐらぐらする。上手く思考が纏まらない。目の前のミサの顔が歪み、揺らぐ。

意識が遠のいていく。気怠さに身を委ねてしまいたくなりそうな甘美な感覚……。


「……はい、終わり」


その声に気が付くと、ミサは既に俺から離れていた。まだぼんやりとする頭を軽く振り、俺はミサを見返す。


「やー、初めてだったけど何とか上手くいったね。よかったよかった」


いつもの笑顔で、満足げにうんうんと頷くミサ。それを見ているうちに、俺は自分がされた事をやっと思い出した。


「……おい! いきなり何すんだ!」


そう言ってミサに掴みかかろうとして、気付く。今の声は……。

即座に自分の胸を触る。……ない。次いで股間を触る。……ある。

て事は……。


「元に……戻ってる!?」

「言ったでしょー? 文句言いっこなしって」


喜ぶ俺を見ながら、ミサがえっへんとない胸を張った。マジだ。確かに男の体に戻っている。


「精気を吸う要領で、ナッキーの体に溜まった障気を口移しで抜きましたっ。どう?」

「お前……こんな芸当も出来たんだな」

「へっへー。ミサちゃんは多才なのだっ」


ファーストキス奪われたとか、そんなん吹っ飛ぶくらいに嬉しい。良かった。あとはあの鬼を倒すだけ……。

と、そこまで考えてふと気付く。これ……一時的な処置ってさっきミサは言ってたが……。


「……もしかして、呪いがぶり返すたびにお前とキスせにゃならんのか?」

「まぁそうだねー。あ、今のナッキーは障気を体に浴びるだけで女の子になっちゃうから。そこ気を付けてね」

「は!?」


ちょっと待て。障気を浴びるだけで……って、退魔師として活動する限りそんなの日常茶飯事じゃねーか。

女の体で戦って? 終わったらミサとキスして? それを繰り返さにゃならんのか? あいつを倒すまで?


「……っ最悪じゃねーか畜生おおおおおおおおっ!!」


夜の河川敷。頭を抱えた俺の絶叫が、辺りに木霊したのだった。

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