木村圭一はそれでも友達である
「最近どう?」
「どうって、なにも変わらないよ」
波瀬がそっけなく答える。きつねうどんの油揚げを少しずづかじる彼を木村は目を細めてじっと見つめた。
彼は年が明けて後期もテスト前というところで再びサークルに顔を出すようになった。
ウソをついた同じ学科の奴を小突いて笑い合う彼を見て、ああ戻ってきたのだと嬉しく思った。また彼らと一緒にばか騒ぎできると安心感があふれた。
そして今もこうして彼と二人、昼飯を食べている。そっけない態度は変わらないがそんなところも波瀬らしいと言えばそうなのであろう。
また、彼が戻ってきたということは彼女と何かあったのではないかとも思ったが今も付き合っているのだという。写真を見せてきて自慢してきたので自慢し返してやった。
それとなく堅実で、それとなく社交的で、なんとなく面倒くさい雰囲気を出しつつもやることはしっかりこなす。彼は木村の知る波瀬ハジメで間違いなかった。
そう間違いないのだ。彼は波瀬ハジメである。しかしどうしてだろうか、目の前の彼が波瀬ではないのではないかという疑問が拭いきれない。
「きつねうどん好きだったっけ?」
「うん。好きだよ。どうして?」
波瀬がどうしてそんな質問を聞くのかとこちらに視線を向ける。
「いや、おいしそうに食うなと思って」
どうしてだろうか。確かに彼はいつもきつねうどんを食べていた。しかしたかが食べ物の好き嫌いであったとしても木村の知る波瀬ならばこうも簡単に好きという言葉を使わないのだ。
木村の知る波瀬なら“まあ、嫌いではないけど”と言うだろう、と木村は眉を寄せた。
この波瀬のわずかな変化をどうとらえるかは木村自身の問題なのだが、前からの彼の環境の変化から見れば彼女の存在が彼をそうさせたのではないかと予想できる。
それだけならばいいのだがそうでない可能性があるような気がしてならない。
「波瀬、なんかあったか?」
「なんだよさっきから、俺どこか変か?」
「いや変と言うか、急にサークルに戻って来るし、そりゃ戻ってきてくれて嬉しかったけどさ。どういう心境の変化だろうかと思って……」
「気が向いたら行くって言ってただろ?気が向いたんだよ」
そう言うと波瀬は力が抜けたような笑みを浮かべた。心から気を許したような、木村でも今まで見たことが無いような表情に妙に心が騒いだ。
「それじゃ、俺三限あるから」
いつのまにかうどんを食べ終わっていた波瀬は席を立つ。
「おう、またな」
手を上げて別れを言うと、食堂を出て行く波瀬を見送った。
きっと思い違いなのだろうと木村は自身の考えを否定する。
こうして波瀬は少し前までの環境に戻ってきたのだ。それは木村自身が望んでいたことであった。しかしそれと同時に既に手遅れでありもうどうしようもないことであると諦めていたことでもあった。
きっとうれしい事実を受け止められない今を否定したいがために考え付いた虚構なのだ。その考えは彼にとって最もそれらしい答えであった。
木村はこれからも波瀬の友達である。それは変わらないだろう。
彼は何もないと言った。しかし友としての自覚がある木村から見れば心境の変化があったことは間違いない。
それでも木村との関係を保つことを選んだ波瀬の気持ちを汲んで友達として居続けることが彼のためになるのなら彼は波瀬の横に居ようと考えていた。
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