波瀬はそれでも想い続ける
久しぶりの更新です。
日曜日、波瀬は駅のホームで次に来る電車を待っていた。
この電車は大学周辺の山の中の住宅街とビルの乱立した都心部を繋ぐもので、大学生並びにこの町の住民にとっては大事な交通手段だ。
日曜日の朝ということもあり、多くの人がホームで電車を待っていた。
“遅れてすみません。もうすぐ着きます。”
彼女からの連絡はこれで途切れている。ホームがこの様子だと駅に辿り着けたとしてもお互いを見つけるのは難しいだろう。
目的のホームで落ち合おうということを告げて携帯をポケットに戻した。
結局、彼女と目的の駅の構内で落ち合うことが出来た。
昼近くになっていたのでお昼を食べる場所を探しながら喧騒の中を歩いていく。
「いろんなお店がありますね。波瀬君は何か食べたいもの有りますか?」
「そうだな、時間的に限られているわけでもないからなんでもいいけど、この後本屋とか行きたいからそうそう高いところはいけないかな」
「そうですね。大学生ですし、時にはファストフードで済ますのもそれっぽいですよね」
「あ、田島はそういうの食べない人?」
「まあ、自ら進んで食べようとは思わないです」
「俺もなんだよなぁ。最近行ってないし、久しぶりに行ってみる?」
「波瀬君が良ければ」
そう言うと田島は顔を綻ばせた。
店の二階、正面の高層ビルと下を走る無数の車を見ながらおかしな店名だと思いつつ買った品を一口ほおばる。
彼女にとっては大きすぎたようで口を大きく開けてなおかぶりつけず上のバンズから少しずつ食べていた。
正面ガラス張りのカウンターの様な席に隣に座る彼女は小休憩だ、とバーガーをいったん置いて足をぷらぷらさせる。不意に足を俺に当ててきた。
なにか用か、とそちらを見ると彼女は何ともつまらなそうにこちらを見上げている。
何か話でもしてほしいのだろうか。前まではそんなことしてくることはなかったのに、最近になってそういう気持ちも表面に出すようになってきていた。それがだめだとかそういうのではなくて彼女も彼女なりに心開いてくれているのだろうということにしている。素直にうれしいと思えないあたり似た物同士なのだろうな、と自然と口角が挙がった。
書店に向かう途中、ウィンドウショッピングをしようとモール内を歩き回った。彼女は小物類に目がないらしく今もアクセサリー系のショップでほうとか、んふふとかいって試着している。
振り向きざまに見せつけてくるのでいいね、というと一つに纏めた黒髪を揺らして嬉しそうに微笑み、再びアクセサリーをあさり始めた。
書店で数冊の本を購入して店を出た。彼は週刊の情報誌と参考書、それから彼女は小物製作の本も購入しているようだった。
彼らの専攻は技術の進展で目まぐるしく様相を変えるためこまめな情報取得は必須と言っていい。彼は一年の頃から考えていた研究室に配属されることが決まったし、彼女もまた彼と同じ研究室に行くことが決まっていた。
波瀬は夕食をこちらで食べるか、それとも食べずに下宿先に戻るか悩んでいる彼女を横目に思考の海に足を浸す。
横目に映るは夏のあの時、あの場所で、波瀬が恋い焦がれた彼女の嬉しそうな顔だ。
直感的に分かるこの感覚、これが意味することを波瀬は理解する事が出来ないし、もしかしたら変わったように見えるのは波瀬だけなのかもしれない。
しかし周りの人間、さらには田島自身すらも気が付かないうちに彼女にすり替わってしまったというのならこの事実を知る者は波瀬だけしかいない。 彼の知る限り彼女の容姿変容に対する周りの反応はほぼ皆無であるから彼の中の選択肢として自身の頭がおかしくなったのか、不可思議な体験をしているのか、その二点にまで絞り込まれていた。
そんな彼女の変化を彼女に問い質すことは彼女に不信感を与えてしまうだろうし、現に彼の目の前に居るのは夏、恋い焦がれたあの女性なのだから戸惑いはあれどこのままでもいいと思える自分もいる事を彼自身が自覚していた。
「波瀬君!」
急に声を掛けられて我に変えった波瀬の目の前には夕日に映る彼女のきらきらした笑顔があった。
「今日はありがとうね」
「こちらこそ」
どうやらそのまま下宿先に戻ることにしたようだ。
それから二、三言話して、アパート群のある住宅街に向かう電車に乗った。
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