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こちら長川探偵事務所。  作者: 永田昇
File.1 逢い戻りは鴨の味。
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第四話

 翌日、拓斗たちは瀬田と、浮気現場を目撃したという女子に来てもらうことにしていた。目撃者の証言を生で聞くためである。

 その二人が来る前、拓斗は昨日参加していなかった廣瀬と末次の二人に、相談内容を話しておいた。


「なんなのその男! 本当に浮気してたんならあたしがぶっ飛ばしてやるわよ!」


「あれ、考えることが拓斗と同じだな」


 すかさず良明がツッコミを入れた。


「じゃあ、やめておく」


「あっという間にてのひら裏返したな! そんなに俺といっしょが嫌なのか!?」


「うん」


「それも即答っすか!」


 拓斗は大げさにため息をつく。まあ、廣瀬も半分冗談でやっていることは拓斗も知っていたのでそこまで傷つきはしないのだが。……でも、半分は本気だって思うとちょっと悲しくなる。涙がでちゃう。女の子じゃないけど。


「それで、今日は目撃した人に話を聞くってわけね。その人の話が本当に正しいのかを確かめて、浮気現場を押さえるための参考にするために」


「さっすが一真。理解が早くて助かるよー」


 末次と和泉はそんな会話をしている。廣瀬は飲み込むのに少し時間がかかっているようだったが、すぐに納得しました、という表情でうんうん、と頷いた。


「それで末次。お前はどう思う?」


 拓斗は末次に問う。末次も思慮が深いのか浅いのか、なかなか掴みにくい男ではあったが、こういう場面での発言は信頼に足る。


「うーん、分かんねえな。男と女ってめちゃくちゃ分かり辛いしな……」


 なんかものすごくリアリティに溢れている。昔、何かあったんですか?

 そこまで考えて拓斗は、同じ社会科学部なのに、廣瀬と末次の二人のことをほとんど知らないことに気付いた。同じ部活とはいってもまだ一か月も経っていないのだから、知らなくても仕方はないのだが。……いや、知ろうとしていないだけなのか。


 ま、これから知る機会なんていくらでもあるだろう。そう拓斗は結論付ける。

 その時、ドアをノックする音が聞こえたので、拓斗は「どうぞ」と返事する。


「失礼します」


 先日の美少女・瀬田つぐみが先頭で教室に入り、それに続いて入ってきたのは瀬田ほどではないがそこそこ胸のある女子だった。あ、また胸の話しちゃった。そこじゃないよね、……えーと、容姿? いいじゃん、モブキャラなんだから。


 目撃者さんは、ペコリと頭を下げた後、瀬田の顔を見る。

 瀬田はコクンと頷いた。それを合図に目撃者さんが話を始める。


「こんにちは、私、つぐみと同じクラスの稲田桃子いなだももこっていいます。今日は、西谷くんの、その、……浮気現場の目撃者として来ました」


 稲田モブ子。いや、間違えた。さっきモブキャラとか言っちゃったからつられて名前を間違えただけですよ。大体、この世にモブキャラなんていない、人生皆主役。


「はい、どうぞ掛けてください」


 良明が椅子を引いてそこに座るように促す。いいぞ、ジェントルマン。


「あ、ありがとうございます」


 稲田も、瀬田に負けず劣らず控えめな女子であった。胸は控えめじゃないのに。そういえば、廣瀬みたいに控えめ要素ゼロな奴に限って胸は控えめなんだよな。

 そうやって、廣瀬と二人を見比べているのが廣瀬に気付かれてしまう。


「……あんた、どこ見てんのよ」


「へ? ……いや、誤解だって! そんなに見てないから! せいぜい体の上半分、しかも顔を除く部分ぐらい……、って、ぶはぁ!」


 容赦ない鉄拳が……以下略。




「ごめんなさい、二人とも大変な時にバカが二人もいて」


 良明と和泉にこってり絞られた拓斗と廣瀬は、部屋の隅っこで正座させられていた。それを椅子に座りながら末次が監視するという体制である。


「うう、……どうしてあたしまでこんな目に」


「自制するということを知らんからだ」


「あんたには言われたくない!」


「はい、二人とも静かに」


 末次のジロリという睨みが二人を硬直させる。こういう黙ってても発せられるオーラみたいなの欲しいよね。


「さてと、それじゃ、稲田さん。目撃した時のことを詳しく聞かせてください」


「はい。あれは、一週間前のことです。私は放課後に買う物があったので繁華街の方へ行きました。それで、駅に着いたら西谷くんが駅前の広場にいたんです。私は声でも掛けようかと思い、西谷くんに近づきました。……そうしたら、西谷くんが女の子と二人で喋っていたんです。つぐみ以外の女の子と。私は、後をつけようとしたんですが二人はすぐに人ごみに紛れてしまって、見えなくなってしまいました。でも、後姿はかすかに見えたので、二人で歩いていたのは間違いないです」


 一気に言い終えると、稲田は当時のことを思い出しているのか、悲しそうにそっと目を伏せた。それを、和泉はすかさずフォローする。


「嫌なこと喋ってもらってごめんなさい。ちょっとずつ喋ってもらえば大丈夫ですよ」


「ありがとうございます。大丈夫です。……正直、このことをつぐみに言うかは迷いました。もし、それが本当に浮気だとしたら、つぐみと西谷くんの仲を引き裂いちゃうことにもなりかねないし……、でも、言わないでそのままにしておいたら、つぐみが可哀想だし……」


 それは確かに葛藤するだろうな、と拓斗は感じた。友達のことを考えてやる、という意味ではどちらの行動も正しいが、この場合は真実を伝えてやる方がよっぽど勇気がいるし、ちゃんと思いやっているともいえるだろう。


「稲田さんの判断、俺は正しいと思います。本当のことを知っていて言わないなんて、やっぱり辛いんで」


 良明が言う。その言葉に稲田も少々救われたようだった。


「ところで、その西谷さんと一緒にいた女子に見覚えは?」


 拓斗が問う。もちろん部屋の隅っこで正座したままではあったが。


「……さっきも言った通り、人ごみに紛れてしまってちゃんと見ることはできませんでした。ただ、制服はウチのものではありませんでした」


「他校の生徒ってわけね。特定がますます難しいわね……」


 廣瀬が呟く。こちらも部屋の隅っこで正座したままだったが。


「でも、本当に浮気をしているのなら、また会う可能性は高い、というわけだろうな」


 末次が言う。拓斗は、それに少し頷いて瀬田に向かって言った。


「そういうことなんで、何か彼氏さんのことで動きがあったら俺たちに連絡して下さい。……あ、連絡先教えないと。そうだ、そうしよう。俺のメアドを教えるんで!」


「拓斗に連絡先を教えると何かと不安なので、私のでよければ連絡先を教えておきますよ」


 和泉が横やりを入れる。そして、そのまま拓斗の方を振り向き、ニッコリ微笑んで言った。


「それでいいでしょ、拓斗?」


 あ、これ冷笑ってやつだ。コワイ。


「……はい。……あ、ところで和泉さん? そろそろ正座から解放してもらえませんか? あの、足が、痺れて、……もうやばい!」


「情けないわねぇ、このくらい、なん、とも……、なくない!」


 二人して我慢の限界という感じだった。


「あ、ごめんね。志穂はもういいよ。拓斗は、……もう少し反省しよっか」


「やった!」「どーして!?」


 これが天国と地獄。ヘルオアヘヴンなのである。いや、痺れるって、限界だって!

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