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こちら長川探偵事務所。  作者: 永田昇
File.1 逢い戻りは鴨の味。
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第二話

 所変わってここは長川高校一年二組の教室。拓斗は、推理小説を読みながら始業を待っていた。ちなみに、和泉も良明も三組である。ガヤガヤとした喧騒けんそうの中、自分の妄想の世界に浸りつつ、授業が始まるのを待つのだ。……いや、別に友達いないわけじゃないよ?

 それにしても、と拓斗は小説を伏せて、腕を頭の後ろで組む。


「なんか面白いこと起きねえかな……」


 社会科学部に来る相談者といっても、犬を少し預かってほしいとか、学校の勉強を教えてほしいとか、ちょっと掃除を手伝ってほしいとかそんなのばっかなのだ。最初のは親戚に頼め。次のは、先生に聞け、っていうか自分で解決しろ。最後のは、完全に押し付けだろ。ちっとも、謎だとか事件の匂いはしないのだ。そりゃそうだけど、社会科学部だし。


 そんなことを思っていた矢先、始業のチャイムが鳴る。今日もまた、何か物足りない一日が始まるのか……。


 と、その時廊下を駆けてくる音が聞こえる。拓斗は、チラと左の方を見ながらはあ、とため息をついた。始業のチャイムが鳴りながら未だに空いている席が二つ。いつものことといってもいいのだが、いつも通りすぎて呆れてしまう。


 しかし、微かに階段を駆け上がってくる音も聞こえる。階段の真横にある教室なのでその音も微妙に聞こえるのだが、この音の近づき具合から推理するとおそらく教室にたどり着くタイミングは同じ――、


「うわあああああ!」「きゃあああああ!」


 ほら、ビンゴ。

 なんだなんだ、とドアを開ける同級生たちにあえて加わらなかった拓斗。どうせ呼ばれるのは分かっているのだ。


「ったく、あぶねーじゃねえかよ! お前ら、朝練なんだったらもうちょい早く終われよ!」


「うっさい! 遅刻寸前のあんたに言われたくないわよ! もっと早く起きれないの!?」


 おい、二人とも。廊下に響き渡ってんぞ。ちょっとは自重しろ。


「なんだよ、お二人さん。朝からあっついねぇ」


 そんなクラスメイトたちのはやし立てる声の中で、末次一真すえつぐかずま廣瀬志穂ひろせしほの二人は、否定するのに必死なようだった。


「おーい、社会科学部の部長さーん、朝から部員が騒動起こしちゃってますが、いいんですかー?」


 ほーら、呼ばれた。拓斗は、そこでようやく立ち上がり騒ぎの中心へと歩を進める。

 廊下の外には、赤い顔をしながら必死に言い訳をする二人の姿があった。


「……とりあえず、お前ら落ち着け」


 この二人も頭に血が上ると、まったく手に負えない連中だ。拓斗が、ツッコミ役だとか落ち着かせる方に回るなんてことは普通ない。そういうのは、お隣のクラスの和泉か良明の担当だ。……なんで、二人ともクラス違うんだろ。


 拓斗の一言で、ようやく騒動も静まり、教室へと引き上げていくクラスメイト。しかし、騒動の影響もあって休み時間のように未だにクラスは湧いていた。

 突然、ガラガラ、と教室のドアが開く。


「お前らっ! うるさいぞ! もう授業は始まってるんだぞ!」


 こうなるのも、時間の問題だったってわけか。




 またまた所変わって、社会科学部部室。本日の授業は終了しました。今日は、昼休みを利用して、チラシを校内に貼りまくったのでその効果があるかと、和泉たちはワクワクしているようだった。


「どうかなー、効果あったかなー?」


「そんなにすぐには効果なんて出ないだろ。こういうのは気長に待つもんだよ」


「拓斗、お前こういう時だけはやけに現実的だな」


「いやいや、良明。俺は、生粋のリアリストだぜ? 探偵というのは常に現実を生き、現実を見つめ、現実と戦わなければならないんだ。いつだって、現実から逃げちゃいかんのだよ」


「お前が考えている探偵像そのものが現実離れしてるけどな」


「ぐほっ!? なんか痛いところを突かれた!?」


 こんなしょうもないやり取りをしながら、相談者が来るのを待ち、誰も来なかったら帰る。そんな日々だった。部活に参加する人数はまちまちだ。拓斗、和泉、良明の三人はほぼ毎日参加しているが、廣瀬は部活の都合でいなくなったりするし、末次はよく分からないがたまに来ない。今日も。部長には連絡入れてほしいんだが。


「今日も相談、なさそうだね」


 何気なく、ぼそっと和泉が呟く。その少し寂しげな声に呼応するかのように拓斗と良明の声のトーンも落ちる。


「だな」「来ないな……」


 今日も、いつも通り。相談者なし。それで終わりか。誰もがそう思った瞬間だった。

 トントン、と控えめなノックの音がする。

 拓斗たちは顔を合わせ、そして頷く。


「どうぞ」


 拓斗の返事の後に入ってきたのは女子だった。ロングの髪に、つぶららな瞳。控えめでおしとやかな印象を受けた。ちなみにお胸の方はあまり控えめでない。ベリーグッド。いや、女の子に会うたびにそんなこと考えてたら、そろそろ変態扱いされかねない。


 いや、それにしても美少女だ。拓斗は全力のドヤ顔スマイルアンド流し目で、この美少女を招待する。


「どうしましたか? お嬢さん。何か困っていることがありましたら、なんでもご相談ください」


 和泉は目をパチクリさせて言った。


「拓斗、どうして変顔してるの?」


「変顔!? 変顔に見えるのか、これが!? この俺の全力の決め顔が……」


「はいはい、お前は引っ込んでろ」


 そう言って、良明に引っ張っられてポイ、と捨てられる。ゴミじゃねえんだぞ。


「で、何かありましたか?」


 良明が聞く。コイツ、ちょっとイケメンだからって色目使うなんて卑怯だ。ぶーぶー。


「ちょっと、あの……、実は、か、彼氏のことで相談があって……」


 あ、彼氏持ちね。そうですか、そうですよね。こんな美少女、彼氏いて当然だよね。

 そう思った拓斗は、肩の力が抜けた。人生そんなに甘くない。


「……お前、ほんと分かりやすいな」


 良明にじとっと睨まれる。仕方ないじゃん、彼氏持ちなんだもん。


「それで、彼氏さんがどうしたんですか?」


 和泉が美少女に尋ねる。美少女は少し迷った後、意を決して口を開いた。


「実は、……私の彼氏、……浮気しているみたいなんです」


「なんですとおおおおお!?」


 浮気なんて許されない。神先拓斗は、全力を持ってあなたの彼氏をぶん殴りに行きます。ええ、頼まれなくとも。

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