表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら長川探偵事務所。  作者: 永田昇
File.1 逢い戻りは鴨の味。
13/76

第十話

 「本当ですか!?」

 

 自然と拓斗の声も上ずってしまう。何か手がかりが掴めるかもしれない。

 だが、稲田は慌てた様子で手を振って言った。


「あ、あの、違うんです。その人を知っているんじゃなくて、その学校に行っている人を知っているってことなんです。実は、私と西谷くんとその子、同じ中学で前から仲がよかったんで……」


 なるほど、制服が同じってことから推測したのか。


「ちなみにその人が……、ってことは?」


「それはない……、と思います。さすがに後姿でも見たら気づきますよ。なんなら、この前目撃したっていう社会科学部の人たちに確認してもらったらいいんじゃないですか?」


 まあ、それもそうだろう。拓斗は、次の質問をぶつける。


「じゃあ、なんでこんな所に?」


 この質問に答えたのは、瀬田だった。


「すいません、この場所にしてほしいって頼んだのは私なんです。ここ、私と徹也がよく来ていた場所なんで……、実はここで初めて徹也と出会ったんです」


 ということは、西谷はあの女子トイレを一人で抜けてきたということか。おい、ただのむっつりスケベじゃねえか。そこにまず気づいて欲しかったよ。どうして付き合っちゃったんですか?


「付き合ってからも、ここで放課後を過ごしたりしてたんですけど……、最近はとんと来なくなってしまいまいた。そういえば、最近会う回数も減ってきているような……」


 まあよくある倦怠期けんたいきというやつなのかもしれない。ただ、浮気となると倦怠期どころでは済まされないかもしれないのだが。


「だから、ここに来て、この話をすることでもう一度リセットしようと思ったんです。出会った時の気持ちを思い出すために。すごく勝手な話だってのは分かっているんです。だから、気にしないでください。気分を害したのならすいません。……でも、これが私なりの覚悟なんです」


 覚悟、か。つまり、西谷を信じ切ると決めたのか。いや、そうじゃないかもしれない。この先何があっても、前みたいに動揺せず、結果を受け止めようという覚悟なのかもしれなかった。


「……悪くないと思いますよ、俺は。別に気分なんて害していませんし。ほら、俺ってけっこう人の話とか聞くの得意でしょ? やっぱ聞き上手なんでしょうね。はっはっは。……っていうのは冗談で……、俺は応援しますよ、瀬田さんの覚悟を」


 瀬田は、しばし俯いていたが、その顔を上げる。キラキラ輝く笑顔だった。


「やっぱり、和泉ちゃんの言うとおりだったね」


 拓斗は、「何が?」と言いつつ、いつから和泉ちゃんなどと呼ぶようなったのかと訝しむ。


「あなた一人を呼んだ理由です。あんまり、大勢で行って、刺激させるのもよくないので私が和泉ちゃんに一人で来れるか聞いたんです。そしたら、和泉ちゃんは、神先くんを推薦しました。一番人の話を聞いてやれるのは拓斗だ、ってそう言ってました。元々、桃子の友達に話を聞きに行こうと思っていたんですが、なんだか神先くん相手だと色々と喋っちゃうようですね」


 そう言って、瀬田は苦笑いをする。

 そんなことを言ってたのか。和泉が意外と自分のことを高く買っていることに正直に驚く。


「と、ともかく! 事情は分かりました。それじゃ、その稲田さんの友達さんに会いにいきましょう! そうしましょう!」


 拓斗は照れ隠しでそんなことを言った。ちなみに、瀬田の言葉に照れていたのか、和泉の言葉に照れていたのかは、拓斗にも定かではない。




 瀬田たちがその友達との待ち合わせに指定した場所は、西谷の家がある駅前にある喫茶店だった。


「大丈夫なの、桃子? こんな所じゃ徹也も来るかもしれないのに……」


 瀬田が言う。さすがに瀬田も、逐一彼氏の行動予定を把握しているわけではないらしい。末次が尾行しているとはいえ、もしも西谷がカフェに入ろうとしてもあいつには止めようがない。


 ただ、さきほど末次からの連絡があって、西谷は友達と一緒に繁華街の方に遊びに行ったという報告を受けていたので、この問題は解決されている。末次はどうして人が遊んでいるのを追っかけないといけないんだ、とメールで愚痴っていたが、任務だから頑張ってくれとしか言いようがない。

 とりあえず、大丈夫だと伝えようと、口を開いたその瞬間、


「大丈夫よ。西谷くん、今日は友達と遊びに行くって言ってたから」


 稲田に先を越されてしまった。それにしても、どうしてそのことを知って

いるんだ? 瀬田も意外そうにしていた。

 稲田は「あっ」と言って口に手を当ててから、慌てて舌を出す。


「ごめんごめん。教室で、西谷くんがそう言っているの聞いちゃってさ。だから、ここで集合しても大丈夫かなって思ったんだけど」


「もう、そんなことなら先に言ってよね」


 まったくだ。そこそこ重要な情報だっていうのに。


「それにしても、……いや、やっぱやめとく」


 瀬田を何かを言いかけて口をつぐんだ。

 拓斗には何を言おうとしたのか何となく分かっていた。だけど、西谷を信じると決めたからには、それ以上は言えなかったのだろう。本当に友達といっしょなのか、なんて聞けないはずだ。ま、社会科学部からの連絡がない時点で今日のところはシロなんだけどね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ