第七話
二人は、ブレザー集団の数メートル後ろをついていく。周りの人間も下校中なので、つけられていると思うことはないだろう。
そうして、学校の外へ。そのまま、最寄駅まで歩いていく。
最寄駅で、西谷の家の方向へ行く組と、拓斗たちの家の方向へ行く組が分かれる。拓斗たちは、尾行のため当然西谷の家の方向の電車に乗った。
この時点で、西谷の集団は西谷を含めて三人。浮気の気配などどこにもない。
「今日は、……大丈夫そうだね」
和泉はそう言うが、拓斗はこれからが問題だと思っていた。
西谷の家の最寄駅に到着する。今日、ここに来るのは二度目だ。本当になんで寝ちゃったんだろ……。
拓斗たちは一人になった西谷を追う。しかし、家にたどり着くまでに誰かと会うような気配もなくそのまま家へと直行していた。
「別の学校の子、って聞いてたから中学の時の友達ってセンも考えていたんだけどな……」
「なるほど。そうじゃなきゃ、他の学校の人となんて普通は接点ないもんね」
「ああ、だからまだ見張っておく必要がある。学校から帰ってから動き出す可能性もあるしな、……少なくとも一時間くらいは」
「な、長いね。……でも今回は拓斗が寝ないように見張ってられるから安心だね」
「お、お願いします……」
本当に寝てしまったら叩き起こされそうだ。今回は、何としても寝るわけにはいかない。
拓斗と和泉の二人は、朝拓斗が入った公園に入り、ベンチに座る。……なんか、むしろ自分たちの方がデートっぽくなってないか?
「なんか、こうしてると昔を思い出すよね」
「昔?」
「うん、私たちがまだ小さい頃。今から十年前くらいの話」
十年前。十年前、か……。拓斗はその言葉をゆっくりと呟き、そして飲み込む。
「そんな昔のこと覚えてねえよ」
「そっか、……そうだよね」
そう言う和泉の顔は少し悲しそうだった。
一時間待った結果、西谷は家から出てくることはなかった。本日の成果はなし、ということで二人は尾行を打ち切ったのだった。
翌日以降も拓斗たち社会科学部のメンバーは、代わる代わる西谷を尾行し続けた。しかし、まったく成果が得られないまま一週間が経過する。
「やっぱり浮気じゃなかったんだよ、たぶん。たまたま急用ができて繁華街の方に行ったら、たまたま中学の時の同級生に会って、ちょっと喋ってただけなんだって」
和泉が言う。和泉はこの一件が浮気じゃなかったらいいのに、と心の底から思っていたようなので、少し嬉しそうに言っていた。
「まあ、……そう考えるのが妥当だろうな。ここまで動きがないのならそう断定してもいいかもしれない」
拓斗ですらも、そう思い始めていた。色々と可能性を考えたが、考え過ぎだったのだろう。そう、全てはたまたまだったのだ。偶然。
その時、部室にいた拓斗、和泉、廣瀬の携帯が一斉に鳴る。この三人にメールが来るということは、現在尾行に行っている良明か末次からのメールだろう。
「……動きがあったようね」
廣瀬が真っ先にメールを見て呟く。拓斗も頷き、メールを確認する。良明からのメールには、『西谷さんが自分の家の駅を過ぎて繁華街の方に行っている。俺たちも追っかけてる。また何かあったら連絡する』と、簡潔に書かれてあった。
先ほどのまでの楽観ムードは一転し、部室には緊張が生まれた。
「繁華街に行くからってどうってことはないよ。きっと、何か用事があるだけだよ」
そう言う和泉にも不安の色が若干見られた。
拓斗はそもそも物事を疑ってかかるタイプだ。しかし、今回に関しては和泉の言うことに賛同だった。まだこのままだと可能性としては、ただの用事である方が高い。
もちろん、確たる証拠が生まれてしまえば話は別なのだが。
そういった意味でもこの調査は大きな意味を持つと言ってよい。拓斗たちは固唾を呑んで調査の行方を案じていた。
そして待つこと数十分。拓斗の携帯が鳴った。今度はメールではなく、電話である。
ディスプレイに表示されているのは植山良明。拓斗は、電話を取ると、「どうだ?」と矢継ぎ早に聞いた。
「すまん、拓斗。……見失っちまった」
絞り出すような良明の声が聞こえた。
「そうか。今、どこだ? どの辺で見失ったんだ? 誰かと一緒にいたのか?」
「拓斗、質問責めはよくないって」
和泉の一言で、拓斗は自分が焦っていることに気付いた。なぜか。よく分からないが、確実に拓斗は焦っていた。
「す、すまん……、とりあえず二人とも戻ってきてくれ」