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ホールデン・レトリバー

作者: 四季 ワタリ

 今夜もまたいかにも『世の中に絶望してます』って調子であいつは帰ってきやがった。

 しけた面しやがってよう……不細工な顔がさらに不細工になってんだよこれが、嘘じゃないぜ?

 そんな面見せられるといつも愛想を振りまいてる俺も、さすがに気が滅入ってしまうんだな、本当だよ?

 多分あいつはいじめられてんじゃないのかって思うんだよ、自分からはほとんど喋らないし、俺みたいに愛想を振りまけるタイプじゃないしな。まあ自然と距離を置きたくならせるタイプなんだわ、残念ながらね。

 帰ってきてすぐに部屋に行くと、ベッドに倒れ込んでわざとらしい大きな溜め息なんて吐きやがんだよ。俺が後ろから見てるとも気づかずにさ。正直俺のほうが憂鬱になってきたね、でもほっとくわけにもいかねぇだろ? こう見えても俺はお節介な性分なんだ、嘘じゃないよ?

 『まあ元気出せよ、俺はいつでもおまえの味方だぜ?』って言おうと思ったんだが、あることを思い出してしまった。あいつは俺の言語を理解できねぇんだよ。俺はそうは思わないんだが、どうやらヒドい訛りがあるらしくてあいつには理解不能なんだなこれが、まったく不甲斐ない……あ、俺がじゃなくてあいつがだぜ?

 仕方なく作戦を変更して後ろから飛びついてやることにしたんだよ、ボディランゲージってやつかな? そしたらあいつ『今はそんな気分じゃない』って感じで俺を払いのけやがんだよ。いやぁ、本当にまいったね、『だからおまえはいつまでも変わんねぇんだよ!』って叫んでやりたくなったね。まあ実際に叫んじゃったんだが、あいつには無論俺の言葉なんか分かりはしねぇんだよ、ガッカリしたけど今回はこれでよかったかもしれない。なんせ聞こえていたら逆上されて何されるか分からないしな。あいつ意気地無しのくせに俺より腕力があるんだよ、本当だぜ?

 何もやれることがなくなった俺は部屋の隅で途方にくれたね、あいつの反応のせいでシュンとなっちまってんだよこれが、いつも元気な俺がだぜ? 君にも見てもらいたかったな本当に。黄昏てる俺もなかなかイケてると思ってんだよ自分の中では。いや、イケてる度よりもキュート度のほうが高いかな? とにかくいつにも増して素敵なのは間違いないぜ?

 こんな奴が俺の相棒だとおもうと、心底ウンザリするんだな。もう三年くらいの付き合いになるんだが、いまだに毎日が失望の連続なんだよ、俺と違って頭も悪いしな。でも離れることはできないんだよ、あいつが本当は俺のことを求めてるんだってのがイヤでも伝わってくるんだ、ビンビンと。そこまで求められてんのに去っちまうってのは野暮だろ? わかるかな?

 それにここにいると良い事もあるんだぜ? なんと毎日あいつが俺に食べ物を献上してくるんだよ、嘘じゃないぜ? 最初はびっくりしたもんさ、なんせ何もせずに食べ物を食べることができるんだからね。こんなに楽して食べていいのかって心苦しくなったもんさ。だって俺の親は二人とも餓死で死んじまってんだよ、こんな状況なら誰でも罪悪感がわいてくるだろ?

 どうやら俺は独り言を言ってたようなんだな。あいつが『ワンワンうるせぇぞ!』なんて言いやがってるからね。ワンワンってなんだよ? 久しぶりに笑ってしまったね。俺の上品な言葉があいつにとってはワンワンなんて音で聞こえてると思うと笑っちゃうよね? まったくイヤになっちゃうよ……

 もう何をしても無駄だと思って俺はスマートにその場を去ることにした。俺は本来クールな男なんだよ。その時、昨日やってた映画のワンシーンが突然思い浮かんできたんだな、渋い男が若者にエールを送って去るシーンなんだよ。すごくイカしてたね。だから俺もちょっと真似してみようと思ったんだよ。


『ワンワン!ワワンワン!ワンワン!クゥーン……(おまえはまだ若いんだから今のうちに悩め、ただ忘れちゃならないのは俺の晩飯を用意することだけさ、わかったな?)』





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