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ドリームシンドローム

作者: とむひよ

1文字分スペース空けとかは後日編集予定



小学生の頃、俺にはセンちゃんという友達がいた。


センちゃんはいつもオーバーオールを着ている子だった。オーバーオールといえばセンちゃん、センちゃんといえばオーバーオール。彼女をイメージした時に顔と一緒に出てくるのは間違いなくオーバーオール。

それが俺や遊び友達の共通認識だった。

流石に異常気象の時は普通の薄着だったけど、その時以外は全てオーバーオールで、毎日デザインの違うオーバーオールを着ていた。オーバーオールのお化けにとり憑かれているんだろうというのも、俺達の共通認識だ。

いつも両手をポケットに突っ込んでニシシと笑う元気娘で、足は速かった。小学生の頃だと女子の方が発育が早いから、それもあったのかもしれない。

彼女はリーダー気質ではなかったが、俺達の人気者だった。

腰の前後に四つ、胸に一つ。これがなにかっていうとポケットの数。

センちゃんのポケットは不思議だ。青いネコ型ロボットみたいになんでもでてくる。

飴とかのお菓子はもちろん、綺麗な石や筆記用具、エロ本の切れ端。あぁ、蝉がはいってたこともあったな。

彼女は基本的に自分の不思議ポッケを触らせないのだが、たまーに触らしてくれたと思ったら蝉や飛び出しナイフ(おもちゃ)のサプライズが待ち構えていた。俺達は何度もやられてるのに、懲りずに何度でも驚いた。

その度にニシシと奴は笑い、こう言うのだ。

「あたしのポッケにはユメとキボーが詰まってるのだ!」

センちゃんと一心同体といえるオーバーオールだけど、そんな不思議ポッケだけが彼女が人気だった理由じゃない。

彼女は俺達の知らない物語をいくつも知っていた。子供心を楽しませてワクワクさせるような話をたくさん知っていた。

公園や駐車場、町内を使った鬼ごっこやかくれんぼのかたわら、彼女の話を聞くためだけに俺達は集まることもあるほどだった。

絵本やアニメで見たことのある童話のような物語をよく聞かせてくれたのを覚えている。

彼女の語り手としての技術は今思えば、小学生とは思えないほどだった。

順序立てて丁寧故に分かりやすく、キャラクター毎に声を変えたり、山となる部分では少し声量を大きくしたり。

アニメのような手に汗握る物語をいくらでも教えてくれるセンちゃんは、そういった諸々の理由で人気者だった。

何年も経った今でも覚えているのだから、楽しかった記憶として深く根付いているのだろう。

ま、そんなセンちゃんとも中学になる頃には思春期特有の気恥ずかしさで疎遠になっており、現在の交流は無い。






さて、俺が"高校生"になってから、こんな回想をわざわざしたのには理由がある。

母から雑誌を買うように頼まれていた俺は、高校からの帰り道で商店街に寄り、書店の中で彼女と遭遇した。

顔つきや髪型こそ多少変わっていたものの、オーバーオールを着た女とくれば俺の中ではアイツしか出てこない。

幸か不幸か、向こうもどうやら俺の顔を覚えていたようで、なんとも表現しがたい微妙な顔をした。どうしても言葉にするならば、気まずいというよりは、困ったという感じか。

中学以降は会話していなかったのだから、その気まずさ押してしるべし。そもそも女性との会話を身内以外とほとんどしてこなかった残念高校生の俺ではこの場をうまく収める自信はない。

女なれしていたら、こんな状況に陥ることすらないのだろうけど。

「あ」

「……よ、よっす」

辛うじて捻り出した言葉は、俺のコミュニケーション能力を悲しいくらい如実に現していた。

そもそもさっきから頭の中ではセンちゃんセンちゃん呼んでいたが、今もセンちゃんといっていいのか距離がつかめなかったりする。

「久しぶり」

「そうだな、久しぶりだ。あー……よく俺の事覚えてたな」

「小学生の頃は毎日遊んでたじゃん。そんな簡単に忘れないって! でもちょっとだけ思い出すのに時間が」

あはは、と右手で頭をかく彼女を見て、俺は自分が思っていたよりも彼女との距離が離れていないことに驚いた。

「ひっでー、俺は見た瞬間一発で分かったってのに」

「あんたこそよく覚えてるね」

「その服を見た瞬間、顔も見ずに名前出てきてさ。自分でもびっくりだ」

「オーバーオールお化けとはあたしのこと!」

「そうそう、まさにそんな感じ」

昔みたいにニシシと笑うのは相変わらずなようで、何故だかそれがとても嬉しかった。

「ガッコの帰り? ってのは聞くまでもないか。東南のだよねソレ」

「ん、我が家のお母様におつかいを頼まれていましてね。そういうせ、センちゃんは?」

「遠慮しなくていいって、今更苗字で呼ばれたら泣くからねキョー君」

今までどおりセンちゃんでいいらしい。

キョー君ってのはもちろん俺のあだ名。俺らのグループのやつは一人残らずみんなあだ名がついていた。

さてさて、目の前にいるセンちゃんだけど、わが町では今話題の人だったりする。

「うちの親に聞いたぞ。漫画の賞とったんだってな」

「そんなのとってないよ」

「あら」

これは一体どういうことだ。

俺の町は2丁目といった単語が存在しない程度に狭く(つまりめちゃくちゃ狭い区域ってこと!)、噂などは町内会や子ども会などで簡単に広まってしまう。

そんな町である日一つの噂が流れた。それはおば様方のルートを辿り、俺の母親へとたどり着き、晩飯時に母が俺に教えてくれた。

センちゃんが漫画を描いて賞を取ったという噂を、だ。

「変に尾ひれがくっついてんのか」

「んー、なんていうか。惜しい!って感じ?」

「そういった賞に投稿しただけとか?」

もしそうならとんだ恥さらしだ。

「違うって! 賞は賞でも絵本!」

「絵は絵でも、絵本か。尾ひれがつくというより噂自体が変わっちゃったのか」

帰ったらお母さんに教えてやろう。

どういう経緯で絵本が漫画になったとかも聞いといてほしいし。

「うーわ、恥ずかし!だから言いたくなかったのに」

うがーと顔を覆ったり、天を仰いだり(屋内なので見えるのは天井だけど)と忙しない。恥ずかしくなると両手で顔を隠すのは昔からだったか。

「自慢すりゃいいじゃん。天才絵本作家とはあたしのこと!ってさ」

「いや、なんていうか。あー……あたし頭よくないからさ。褒められなれてないっていうか、うーん……」

「なるほど気恥ずかしいわけだ」

「ニヤニヤしない!」

まったく、と彼女は呟きながら両手をポケットにつっ込んだ。

「まーだ、その癖直ってないのか」

「悪癖じゃないからいいじゃん」

「いい加減こけるぞ」

「こちとら十何年ポケットに手を突っ込んできてるんだ。素人さんに文句言われたくないね」

「なにもんだおまえ」

ベテランポケットつっ込み人はとりあえず置いておく、久々の再会だしもうちょっとじゃれていたいけど今の俺が話したいのはそこじゃない。

せっかく書店にいるんだから聞いておかなくては。

「でさ、センちゃん作の絵本はどこよ」

「まだ売ってないよ。一応2ヵ月後に発売予定? あ、タイトルは教えないからね」

「いいよ、2ヵ月後に発売される賞を取った絵本を見りゃいいわけだし」

「うぐぐ……甘いね、あたしがどの賞を取ったかはわからない筈!」

賞っていっぱいあんのか、最優秀賞みたいなのが一個だけだと思ってた。やつの言葉を察するに最低でも3つはある気がする。

勝ち誇った顔であまりふくよかと言えない胸をはる彼女は、どうにもふてぶてしい。

「じゃあ2ヵ月後に答え合わせといこう。俺のチャンスは一度、勝ったほうが飯一回奢る。もちろんこれだとお前が不利だから、俺は2ヵ月後まで絶対に絵本について調べないし、人からの情報も貰わない。どうよ」

「即興にしては中々いいルール、その勝負のった!」

時間も時間だったこともあり、連絡先を交換した俺達は別れた。のだが、帰り道の途中で雑誌を買い忘れたことに気付いて折り返したのは余談だろう。






彼女と再会した翌々日、俺は担任の教師に職員室まで呼び出されていた。

「そろそろ提出してくれないと」

「すいません」

「進学という風には決めているんだろう? とりあえず学力に見合った大学に進むというのもいいけどね。やっぱり教師としては目的をもって決めてほしいところだから」

「はい……」

「一年の内から言われていただろう? もう今の時期には決めていかないと選択肢はどんどん狭まってしまうんだからね。ギリギリに出されると、こっちとしても十分な支援はできないから。だから――」

説教というより諭すように俺の担任は話し続ける。恰幅のいいうちの先生はクラスでも、優しくて頼れるといった印象で受け入れられているし、俺自身もそう感じていた。

説教の内容だけど、いわゆる進路希望調査というやつに俺はひっかかったわけだ。

先月に渡されたプリントには第一、第二、第三希望の欄が書かれている。オーソドックスな進路希望の調査プリントで、提出すべきプリントなのだが。

どうにもこうにも、今一進路というのが俺には見えてこないのだ。

今日に至るまでに、学校で散々に進路の意識を高める授業があったというのに。

思えば俺には昔から、スポーツ選手になりたいとか、何かのクリエイターになりたいとか。あるいは公務員や大手企業に。そういった何かになりたいという意欲が全然起きなかった。


簡単に言うと夢がない。


中学校でも、終業式間際の文集作りには苦労した覚えがある。

小学校の頃の文集はあまり覚えていないけど、あの年頃に書いたものだ。碌な事が書いてあるとは思えない。掘り起こしたら、それはそれでいらぬダメージをもらいそうだ。

周りのクラスメイトは既にプリント提出済み、参考までにどうやって進学先or就職先を選んだのかと聞くと、少し照れたような顔で希望の職につくためだと語ってくれた。

夢を見ないクールな俺カッコイイなどと言うつもりは毛頭ないが、いまいちやりたい職は思いつかない。

「――とにかく、君は次のテスト期間までにプリントを提出すること。以上だよ」

話半分に聞いていたのを悟られたのか、先生は嘆息すると手をひらひらと振って俺を職員室から追い出した。

放課後の呼び出しだったので、学生かばんを引っさげてそのまま下駄箱へ。

ベテラン帰宅部としては、早々に家でゲームをするなり漫画を読むなりしたかったのだが。

玄関を出れば、野球部が練習試合を行っているのが目に付いた。

うちの野球部は去年強かったらしい。野球素人の俺にはよく分からないが、弱小とはいわないまでも中堅の下のほうだった我が高校を甲子園に導いた実績があると言われれば、「あぁ、すごいんだな」と理解できる。

先輩に続け。俺だってやってやる。といった考えが部員にあるのか分からないが、野球部員達の掛け声は大きく、その熱気はここまで届いてきた。

あの中の何人かはプロを目指していると友人に聞いたことがある。

彼らが練習するのは試合に勝つためで、プロになるためということ。

もちろん今更俺が野球選手を目指すなんぞしないし、何より不可能。なんでかって、彼らは俺の何百倍何千倍野球をやっているからだ。

小学生の頃から延々と野球をやってきた連中に今更俺がおいつくはずもない。

もし……俺にやりたい何かが見つかった時に知識不足や練習不足でその何かがやれないのならば。きっと後悔することになるのだろう。

だから先生は早く決めろと急かすわけだ。


俺は焦っている。

やりたいことが見つからない将来の不安。

どうして今まで探してこなかったんだと自分を罵倒したくなる。


教師に説教されたこともあってか、ネガティブな心境になりながらも帰宅した。

自分の部屋にたどり着くとかばんを放り捨てベットに倒れこむ。

「?」

ポケットにいれてある携帯のバイブ機能が作動していた。確認するとカラオケ会社からの会員用メール。

基本的に用がないとメールができない人間な俺は、ここで一つ思いつく。

電話帳を起動させると、最近追加されたばかりの人間を選択する。

prrrと電話をかける時特有の音が鳴り、10秒ほどで彼女は出てくれた。

『はいもしもし』

『センちゃんって高校卒業したらどうすんの?』

やっぱり絵本作家になるんだろうか。

『キョー君……もう少し電話の仕方とか考えようよ……』

『タイミングが悪かったか? それならまたかけ直すけど』

『……あたしも暇だし構わないよ。それで高校卒業したらだっけ?』

『そうそう』

『大学には行きたい。後、本一筋ってのは考えてないかな。賞取ったからって人気作家になれるかなんてわからないし』

一発屋で終わっちゃうことのほうが多いんだよとセンちゃんは笑った。

『主婦の人とかは別だけどさ。小説の作家さんだって小説一本に絞ってる人は稀なんだよ。購入層が狭い絵本なんてとてもとても』

『ってことは、センちゃんは普通に社会人として生活しながら絵本を描いていきたいってことだよな。何かやりたい職ってあるか?』

『多分OLにでもなってるんじゃない? 安月給でも定時に帰って絵本とか描きたいなー。とか思ってたりするよ』

参考にしようと思ったが、第三の選択肢を提案されたかのような気分だ。

いや、参考になるか? 夢とか趣味にあわせた就職先。

あれ、これも目標がないと決めれないじゃないか。

『この就職氷河期にあたし程度のやる気じゃ、雇ってくれるところはないかもしれないけどね』

『センちゃんも考えてるんだ』

『……あたしだって実は最近まで何も考えてなかった。絵本だって賞を取ったからよかったけど、取れなかったら多分まだ進路悩んでただろうし』

OLの話も向こうの編集の人が、もし君が絵本作家として生きていきたいなら云々ってアドバイスをくれてね。それで決めたの。と彼女は暴露した。

俺は彼女に感謝の意を示すと、通話を切った。携帯電話を近くのクッションに放り投げ、ベットに寝そべったまま目を閉じる。

どうやら俺が担任にプリントを提出するのは当分先になりそうだ。






『祝、今日発売!』

と短く書かれたメールにはVサインと二つの剣を交差させている絵文字くっついていた。

2ヶ月の間にセンちゃんとのメールをする機会は何度かあったけど、結局会うには至らなかった。今度、昔の仲間を誘って同窓会もどきをするのもいいかもしれない。

馴染みの書店に足を運ぶと、小学生向けの棚へと向かう。

おすすめの本や新発売の本は、本棚の中ではなく、それ用の台に乗っているもの。絵本もご多分に漏れず、発売したばかりの本は台の上にのっていた。

台の上には今日発売の絵本が4つ、広告の帯には○○賞受賞!と大きく書かれている。大賞、優秀賞に特別賞が二つ。特別賞ってなんだ。

どうしたものかと俺は頭をひねった。残念なことに、俺はあいつが絵を描いているところをみたことがない。

大見得を切ったものの、実はヒント0だという事実。運頼りで決めるのはなんだか嫌だ。

ちょっと中を拝見させてもらおう。とりあえず大賞作品を手に取ると、表紙をめくろうとしたところで、一つの考えにいきついた。

この店はちょっとくらいなら立ち読みが許可されている。しかし絵本って立ち読みOKなのだろうか。あっという間に読み切ってしまう気がするのだけど。

でも、こういう絵本を買うのって親だろ? 親は中身を見て、購入するだろうし……

結局考えはまとまらず、最終的には半分くらいまでは見てもよしというよく分からない俺ルールで動くことになった。

「その共感できない妙な苦労話はどうでもいいから」

「そう急かすなって」

俺とセンちゃんは駅前の出来たばかりのラーメン屋に来ていた。外はもう夕暮れで、晩飯には悪くない時間だ。

センちゃんは相変わらず薄着にオーバーオールだった。

「ていうかまずラーメン屋っていう選択肢がありえないよね」

「友達がうまいっていってたからさ」

「……」

「女連れでくる店じゃないかもしれないけど。嫌いじゃないだろ? ラーメン」

別に彼女じゃないんだから、いいじゃないかと俺は思うのだけど。どうやらそうではなかったらしい。

あんまり学生に期待するなよ。財布のひもは固いんだよ。

もう注文すませちゃったし。

「それじゃ、ラーメンで汚れる前に答え合わせといこうじゃないか」

「くるがよい」

一冊の絵本が、ラーメン屋のテーブルの上に置かれた。

無言で1秒、2秒、3秒。10秒たった頃にはセンちゃんの顔は真っ赤になっていた。

「な、なんで!?」

「やっぱりな。俺の勝ちー」

「読んだの!?」

「そりゃあ買ったんだもの、読むさ」

「う、うわぁぁ」

机に突っ伏した彼女を見ながら本を開くと、そこには柔らかいタッチで描かれた騎士の姿をした少年が拳を振り上げていた。

彼女の絵も文章も知らない俺だけど、俺にはこの本を選ぶ決定的な理由があった。

「この話、俺聞いたことあるんだよね。ずっと昔に、誰かさんから」



むかしむかし、あるところに騎士の格好をした男の子がいました。

男の子は本当の騎士ではありませんでしたが、村のみんなは彼を騎士のようだと言いました。

彼はそれをとても嬉しく思い。自分がなんに見えるか聞いて回り、一人の女の子に出会いました。

鎧を着て、剣を持った彼はどこをどうみても騎士でしたが、彼を騎士だと彼女は言いませんでした。それどころか騎士じゃないとまで言いました。

落ち込んだ男の子は家に帰りました。

なんであの女の子はボクを騎士と呼んでくれないんだ。

小さな騎士は考えました。考えに考えた末、答えは見つからず、本人に聞くことにしました。

誰かを守るのが騎士なんでしょ? あなたは何も守ってないじゃない。

女の子は男の子をばかにするように言いました。



とまぁ、こんなあらすじだ。

「本を読んで見つけたなんて、とんだ嘘を言ってくれたな」

「自分で考えたのを聞いて、なんて言えるわけないし!」

「あの時からずっと絵本、好きだったのか?」

センちゃんは観念したという顔で、顔をあげた。耳まで真っ赤になっていておもしろい。

「絵本が好き、というよりあたしの考えた物語が一番表現しやすいのが絵本だったって感じかな」

「でも絵とかうまいじゃん。雰囲気でてるぜ」

「あたし中学の時、美術部だったしね」

衝撃の事実だ。疎遠になっていたこともあってか、そんなこと全然知らなかった。

まるで会話が終わるのを待っていたのかとばかりに、頼んでいたラーメンがテーブルに置かれた。

いただきますと呟き、汁を飲み麺を音を立てて啜り、一息つく。オーバーオールの胸ポケットから七味が出てきたが、俺は気づいて無いふりをする。

うん、他人の金で食べるラーメンは非常においしいものだ。

「キョー君はさ、進路決まって無いんだよね?」

「そうだよ」

「どーしても見つからないなら、それはそれである程度の大学目指したら?」

「俺が中学生だった時に高校を見つけた理由だソレ」

だからこそ、同じ理由で上にはあがりたくない。

「でもさ、大学に入ったら入ったで就職セミナーとか色々あるじゃん。そりゃあ高校からこの職やりたい!って目指してる人には一歩後れを取るかもしれないけど、まだ間に合うと思うんだよね」

センちゃんは食べているラーメンに目を落としながらも、結構真剣に話してくれていた。

昔からなにかとお節介な子だ。真面目に考えてくれているのだろう。

しかし、今保留にしていいのだろうか? 逃げのような気もする。だからといってポンとやりたい事が浮かぶわけでもないけど。

「ちゃんと自覚があるなら、大丈夫じゃない?」

キョー君あたしより頭いいみたいだし。センちゃんはニシシと笑うと、それ以降は食べるのに集中した。

黙々と食べ続けること十分、俺と彼女は店を出た。同じ町に住んでいるので帰り道はほとんど一緒だ。

「ごちそーさんでした」

「まー、あたし今ちょっとリッチだからね」

「なるほど賞金か」

「そうそう、大半は親に貯金されちゃったけど!」

センちゃんとじゃれあうのは楽しいのだけど、先ほどの会話を思い出すと劣等感にも似た感情に苛まれる。

彼女はもう未来を見据えて動いてるし、実際に絵本でお金を稼ぐという行為もしている。

センちゃんって立派だよな。だよなっていうか立派だ。

長い間沈黙していたのだが、どうやら顔に出てたらしく彼女が苦笑した。

「だからー、そんな力入れなくてもキョー君なら大丈夫だって」

「んなこといってもな」

「女々しいやつめ、仕方ないな」

オーバーオールのポケットをがさごそと探るセンちゃん。

「これあげるから、がんばって」

ほい、と手渡されたのは緑色の飴玉である。恐らくはメロン味。

渡された飴玉を眺めていると、いつの間にか彼女は少し遠くで立ち止まっている。

周りを見ると何百回も見たことがあるT字路だと気づく、いつのまにやらもう家まで3分の場所にいたのだ。

「今日はありがとな!またメシ食べに行こう!」

「期待してる!」

そう言うと、彼女は手を振りながら去っていく。





家に帰ると、俺はもう一度絵本を開いた。

女の子にバカにされた小さな騎士は、女の子に騎士だと認めてもらうために、守るものを探す旅にでるという行動を取る。色んな人物に出会い、守るものを見つけ、最後には騎士であることを放棄する。というストーリー。

子供心にワクワクしながら聞いた話でもある。それを絵がついた状態で目の前にあるというのはとても新鮮だ。

今日、センちゃんと会えたのは俺にとってプラスになった。

例のプリントを取り出す、随分長いこと持っていたせいかしわが多い。

ボールペンでペン回し、飽きるまで回したら。俺は第一志望の欄を埋めた。

俺は第一希望に、地元で一番有名な大学の名前を書いた。

何学部を目指すとか、そういうのは後。

目的が無いなら無いなりに、できた時に有利な位置にいたい。

まだ書くべき欄が残っていたが、俺はもう満足だった。

貰ったばかりの飴玉を口に放り込む。

「サイダー味」

目標を持って歩く人達が今の俺の目標だ。

とりあえずは13歳のハローワークでも見て見ようか。














学際用に書いたけど、せっかくなので色んな人に見てもらいたい→投稿。

ここがよかった、ここをなんとかして欲しいなどの意見を募集中です。

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