こんな現実、妄想であってほしい。それか夢であってほしいと願う。
うめくらげです。
ギャグ書けたかな。書けてないな。
二章では、色んな謎が、ようやく謎としてわかるようになります。
それでは、七話、よければどうぞ。
七月四日・天気・曇りのち雨
日付もかわった午前○時。
僕は蒸し暑い夜に扇風機からの風をうけながら、畳敷きの寝室で眠っている。
そこには暗闇に隠れつつも、ひとりの少女がいた。
これだけ聞けば、なんともおいしいシチュエーションだと思うだろう。となりでかわいい女の子が寝てたりなんてことを想像したら、だれもが羨む自慢話にもなると思う。
甘い、甘すぎて煮詰まる。僕のクォリティと言おうか、振り幅と言おうか、教えてあげよう。
なんと、その少女は僕の茶箪笥をあさっていたのだ。
今現在、まさしく泥棒によって僕の部屋は荒らされている。
ある種の衝撃。
今日が仏滅かと思うほどの。
「ないな……」
末恐ろしい泥棒少女は、通帳やらを放り投げながら色々とつぶやいている。人の眠る部屋に侵入しておいて声を出すなど、なんとも脳足りんな泥棒だと思う。
なぜ僕が寝たふりを決めこんでいるかと聞かれれば、そんなの自己防衛の手段としか答えられない。
相手は少女であろうと、泥棒だ。女の子というだけで、危険度は通常の泥棒と大差ないのだ。
ということは、ナギナタとかクサリカタビラとかの装備をほどこしているにちがいない。がんばって通帳をかえしてもらったところで、首がふっとんでは話にならないだろう。
そんな心中で、狸寝入りをしている弱虫。
これが赤坂くんだったらと考える。
きっと彼なら、泥棒少女が疲れてとなりに眠ってしまい、朝起きてラッキースケベ、といった段どりになるのだろう。僕とは根本がちがって、全世界の原子に分子、光や風までもが彼のみかたにちがいない。
でなければ、この差別はおかしすぎる。
くだらないことを考えていると、泥棒少女が、あった、とだけつぶやく。
怖い。
さすがに預金通帳はとられても、サイフだけはとられたくない。明日の食事にこまるし、学校にも行けなくなる。こんなことなら、すべての貴重品を茶箪笥になど入れなければよかった。
こんど、金庫を買うことにしよう。
「やっと見つけた」
閉じていた瞳を、ちらりと気づかれないように開ける。なにを盗んだのか、暗闇の中ではよく見えない。
すると、泥棒少女が月明かりの射しこむ場所に座った。
好機とばかりに盗まれた品を見つめる。
泥棒少女の手の中には、僕の、つつましやかな水色のパンツが一枚だけ、にぎり締められていた。
トランクス、それも着古してヨレヨレのゴミに近しい一品。
え、下着泥棒。
女性が下着泥棒に恐怖する気持ちが、とてもよく理解できる。
気持ち悪いったらない。
人の下着を恍惚な表情で握りしめ、暗闇でうすら笑いをうかべていたりなんてしたら、もう、気持ちが悪いというどころか、殺意すらわいてしまうのだ。
というか、なんで男の僕が下着を盗まれなきゃいけないんだ。どんな罰をあたえられているんだ。僕がなにをした。
あまりの仕打ちに、涙すら出てこない。
そんなことを知ってか知らずか、下着泥棒少女は僕のトランクスを頭にかぶって喜びの舞を踏む。
天下統一目前だった織田信長公は、大変な出来事を前にして舞を踏んでいたと言わていれる。
なにそのリスペクト。
信長公とはいえ下着泥棒の途中に舞は踏まないと思う、歴史にそんなことが記されていたら、踏まないでサッサと帰ったと改変してみせる。
鋼の心臓すぎて驚くこともままならない、むしろ心臓じゃなくて、ただの鋼じゃないかと思ってしまうほどだった。
「川の〜流れの〜ぉ〜ぉ〜」
パンツをかぶった変態下着泥棒少女の美しい舞と詩吟を冷ややかに見ながら、僕は上体を起き上がらせて言う。
「剣扇舞はさすがに図々しいよ」
下着泥棒少女は、いきおいよくすっころんだ。
そして、痛そうに頭をさすりながら、
「ま、まさか手のひらを扇子に見たてて、吟じているところから剣扇舞と見抜かれるなんて」
そう、感嘆の意を表した。
僕は起き上がって、部屋の電気をつける。
クサリカタビラやナギナタがあったとしても、なんか、この変態になら勝てそうな気がした。
部屋を、蛍光灯の白々とした光が照らす。
光に目がくらみながらも、変態下着泥棒少女から目を離さないでいると。
「はれ、どこかで見た顔です。前世で恋人役だった人かな」
素足の片足。もう片足は土足ながらも履物があって。黒いワンピースに、病のような色白い肌、長いまつげ。
そして、この胸焼けがするほど奇妙で痛々しい発言。
こいつ、ジョニー・デップはインドネシア人ですか女だ。
僕は、慄然として、座りこんだ。
「その五分もすれば忘れてしまいそーな顔は……山女魚?」
なぜ川魚だと思うんだ。
あなたの釣り上げた山女魚は二足歩行だったのか、と、問いたい。
「あ、ちがう。ウシオくんですね」
「僕を知ってるんですか」
「学生手帳に書いてあったです」
そう言って、トランクスをかぶったまま笑う。
もう、ツッコミどころが多すぎて嫌だ。
いますぐ消えてほしい、それか夢であってほしい。こんな現実は、うけいれられない、妄想であってほしいのだ。
無情にも、したたる汗が現実だとあざ笑う。
「知り合いならはやい、これくれませんか」
トランクスを指さす。
「あげません」
「お願いです」
「お断りです」
「殺すことになります」
「そんな野蛮な」
変態下着泥棒少女は、本当にナギナタを持っていて、振り上げると、ぼくめがけて振り下ろした。
「ください。ウシオくんもこうなることになる」
敷きぶとんから、綿があふれている。
恐怖におののいて、僕は、さし上げます、と言ってしまった。
「ありがとう、ウシオくん。タダでもらおうとは思ってないです、いいものあげますよ」
変態下着泥棒少女は、ナギナタを手にしたまま、僕の顔をのぞきこんだ。
青ざめた肌に、どこまでも続く深海を思わせる瞳が間近にくる。息をのめば、うすら笑いがはりつく顔はさらに近づいてきた。まるで霊のような、寒気を思わせる立ち姿。
「ウシオくんの好きな人が、好きな人のために死のうとしています。それは悲しい花火のよう、一瞬。目が眩んで目つむれば、ウシオくん、すべてを失っちゃいます。思い出も、涙も全てがなかったことになる。だから悲しみを見つめてください」
僕の頬を、細くて白い、氷のような指がすべる。
「僕は、死ぬんですか」
「いいえ。でも、失うものはたくさん」
そう言って、変態下着泥棒少女はベランダに出ると。
軽やかにジャンプして、たんぽぽの綿毛のように、風にのって飛んでいった。
僕は追いかけて、外へ出ようとするが、何故か扉が開かない。なんどドアノブをひねろうと、空回りするばかり。ベランダから追いかけようとしても、なぜか外には出れない。その怒りから叫びそうになって。
目覚ましの音に、目を覚ました。
「え……夢」
ふとんから起き上がると、汗をかいた自分の体にTシャツがはりついている。
悪夢にうなされていたようだった。
「よかった、夢か」
ずいぶん奇妙な夢を見たものだ、そうして、顔をあげる。
茶箪笥からあふれ出た預金通帳、印鑑。
そして、綿の見えるふとん。
僕は現実逃避の手段として、頭を強く、壁に叩きつけた。
電波的な話の通じないヤツ、ダメ、ぜったい。




