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そんな日常、とりたてて好きでもない。けれど非現実は嫌だ。


うめくらげです。

この作品?は、スピンオフを重ねてひとつの物語を完結させたいなーとか思ってます。次は、たとえるなら、好きで嫌いな僕の赤坂くん とか。

そこまで広げるほど面白くないからやめます。

それでは、第六話をよければお読みください。




七月三日・天気・曇りのち晴れ



二度と赤坂くんなんかには、物事を頼まないと心に誓った。

「やっぱりヤツが犯人だよな!」

「そうよ、間違いない。ヤツにだけアリバイがないもの」

村上さんと赤坂くんの、とても楽しそうな談笑。

その後ろで僕とウィルソンは、無言の時を過ごしていた。

ことの発端は、一冊の推理小説である。

その推理小説は問題と回答に別れていて、回答のほうが来週発売らしく、その件について村上さんがぼやいたところ、赤坂くんも推理小説のファンであったことが判明して、あれこれ過ぎて、いまにいたる。

イケてる組とイケてない組に別れてしまった、まさしく明暗が別れたのだ。


僕は村上さんの楽しそうな様子を見て、深くため息をついた。

夕日が顔をのぞかせる、帰宅への道。

赤坂くんのサラサラとした髪が夕焼け色に染まって、不思議なコントラストを生みだしている。

彼は主人公気質で、村上さんのような美少女をトリコにさせることが仕事のようなものだ。僕には勝ちめどころか対等に話すことすらままならない。

泥棒猫、と呼ぶには僕と村上さんの仲など曖昧で、黙って指をくわえているしかないのだった。

「ウシオ、どうしたんだよ。無口だな」

そんなことを知ってか知らずか、赤坂くんに問われる。

きみのせいだ、とも言えないので笑ってごまかせば、すぐに村上さんがファントークへ連れ戻す。

あぁ、恨めしいことこの上ない。

「ウシオくん、その、ごめんね」

ふと、ウィルソンが口を開いた。それも意味のわからない謝罪から。

僕は戸惑って、じっと黙す。

「村上さんこのと、好き、なんでしょ」

なんて察しがいいんだ。

たしかに不機嫌そうな顔をしていたかもしれないけど、村上さんと僕の関係性では恋慕を抱くはずがないと思われがち。

はじめて恋心に気づかれて、一驚というところ。

「邪魔、してる、ごめんなさい」

「ウィルソンは邪魔なんてしてないよ」

ウィルソンは。

「それにウィルソンは邪魔にならないタイプの人だから、好きなほう」

「す……き?」

うなずく。

不思議な発言や奇妙な動きを除けば、気があうと思っている。

この子自身、僕のことなんて道ばたの石ころないし、空気中の微粒子くらいにも意識していないだろう。ようするに、モブキャラもはなはだしいということ。

「すきって、はじめて言われた、家族にも言われたことない、夢にも見なかった」

そう言って破顔する。

中性的なウィルソン独特の、さわやかで、静かな微笑み。見とれるほどではないけれど、だれに見せても好印象をあたえることだろう。

「ありがとう、ウシオくん、大好き」

在日アメリカ人なのかハーフなのかアメリカ人なのかはしらないけれど、そんな直球勝負にたえられるバットというか心は持っていなくて、思わず赤面してしまった。

男女どちらであろうと、大好き、などと言われれば恥らうのが僕という内気な人物だ。

なんとも甘酸っぱい感情が広がる。

「牛男!」

そんな甘酸っぱい感情に塩をどしゃっ、とふりかけられて、村上さんの甲高い叫び声ともとれる、怒声が轟いた。

なんの気なしに耳をふさぐ。

「なによその態度、文句あんの。こら、聞いてんのか」

「聞いていても返事しないよ。返事したところで、なんだその反応と言われるのがオチだからね」

「つくづく頭にくる」

村上さんは僕の胸ぐらをつかみあげて、ぐいぐい引っぱる。

「だーれが、あの子とそこまで仲良くしろ、って言ったのよ。なに青春してるわけ」

つかまれた胸ぐらのもと、喉が締めつけられて窒息。

自分の顔が青ざめているような気がした。

「村上、やめろって」

「赤坂くんは黙ってなさい」

止めに入った赤坂くんはじつにスマートで、村さんと僕の間に身を滑りこませると、すばやく二人を引きはなしてくれた。

ごほごほと咳をして酸素をもとめていれば、頭上から村上さんの悪たれがふりそそぐ。

まるで、ウスターソースのシャワーを浴びているような、ベトベトした言葉のシャワー。

我ながら、かなりわかりづらい例えだな、と思う。

「ちょっと緑ジャージ、ツラかしなさいよ」

「う、うん」

昭和の不良じみた呼び出しかたをして、ウィルソンと村上さんは僕からはなれていく。そのまま、いかがわしい貼り紙がほうふな電話ボックスの影に消えた。

そこで、ため息がひとつ。

「大丈夫か、ウシオ」

「ぼちぼちかな。たすけてくれてありがとう、レフェリーも真っ青な止めかただったよ」

赤坂くんは苦笑いをうかべた。

ひとつひとつの仕草が僕とは大ちがいで、どれも様になっている。

しばらくすると、電話ボックスの影からウィルソンだけが出てきた。

「あの、村上さん、帰っちゃった、怒らせたかもしれない」



そんなこんなで。



僕の、儚い下校への夢が音をたてて崩れさったのだった。




● ● ●




同日・天気・曇りのち晴れ



「あれ、ウシオくん。お帰りなさい、ずいぶん遅いんだね」

現在時刻・一九時四○分。

僕は帰路の途中で赤坂くんにつかまると、何故かゲームセンターでこんな時間までつき合わされてしまった。

ウィルソンも先に帰ってしまい、男ふたりで遊んでいたという時間のムダ。

友人と遊びにいくといったイベントに、いや気しかささない。それがどれだけ好意をもった人物であろうと、決まって約束の三○分前からめんどうになってしまうのだ。

悪癖、とは言えない。僕がヒキコモリなだけだから。

「ただいま。ミオトさんは、これからお仕事ですか」

問うと、ミオトさんは耳にオシャレなピアスをつけながら鏡の前で答える。

「そうだよ。あ、コンロにシチューがあるから、それを晩御飯に食べるんだよ」

「はい、ありがとうございます」

そう言うと、心底嬉しそうに微笑んだ。

さすが元女性というほどに、ミオトさんのご飯はおいしい。それでいて面倒見がよくて、僕は普段からお世話になりっぱなしだった。

彼、というか彼女は、ホストクラブで働いているらしい。

店には性別のことをどう言っているかはしらないけれど、前に女性から高級なプレゼントをもらっていたことから察すると、モテていることにちがいないだろう。

女性だからこそ、女性の心を射抜くのが得意のようだ。

「なんか、ウシオくんってかまいたくなるなぁ」

ミオトさんのうしろで制服を脱いでいた僕は、とっさに体を隠してしまった。

この人はホモなのかと思考して、すぐに、元々女性だから普通なのかと気がつく。なんとも間抜けな思考回路。

「本能なのかな、ウシオくんみたいな子供を見ていると守りたくなるよ」

まったくの他人から、そんなことを言われてしまった。ルームシェアしているとはいえ、しょせん他人の僕を母親のような愛で包んでくれている気がして、なんとも決まりが悪い。

ふと、視線をそらしてしまう。

「僕には兄妹がたくさんいたんだ。でも弟はいなくて、だからかな」

「妹とかって、どんなかんじですか」

なんとなく、うかんできた質問を投げかけた。

ミオトさんは髪の毛をセットしながら、うーんとうなる。

「いると邪魔で、いないと寂しくて、こそばゆいかんじ」

「妹さんとかが産まれたときは、喜びましたか」

「そりゃもう。かわいくて小さくて、すぐに守るべき対象だと気がついたよ」

守るべき対象。

僕にはそんな概念もないまま、産まれるはずの家族をうしなった。

両親の自殺にまきこまれた、母の体で成長していたはずの胎児も死んだ。四ヶ月だった。

男の子か女の子かも分からないまま、両親とともに消えてしまった命を、僕は最初こそいつくしんでいたけれど、時が経つにつれて、忘れてしまった。顔すら見ていないのだから、愛などあるわけもなくて。

けれど、ミオトさんの言葉で思うところがある。

産まれてくるはずだった赤ちゃんも、僕を愛しく思っていたのかな、と。

そんなメルヘンなこと。

「あ、ごめんね。もう行かなくちゃ」

ミオトさんは慌ただしく支度をすませて、黒いブーツを履く。

「いってらっしゃい」

「いってきます。ちゃんと、ご飯食べるんだよ」

言い残して、部屋を後にした。

共通廊下がブーツの底で打ち鳴らされて、やがて音が遠くなり、消える。

こうして、ひとりになるのだ。

「シチュー、どうしようかな」

鍋のフタを開ければ、やわらかな色味のシチューがおさまっている。

言いそびれたけど、僕は赤坂くんとファストフード店で食事をしてきてしまったので、このシチューは食べれそうにない。

かといって手をつけなければ角がたつ。

しばらく考えこんでしまう。

「……食べるか」

コンロの火はチリチリと燃えて、鍋底を温めている。


見とれていると、火は恥ずかしそうにゆらいだ。






風に、吹かれて。








第一章、終わりました。

短編にしたいので、できるだけ切っていきたいです。

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