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そんな日常、とりたてて好きでもない。けれど非現実は嫌だ。


うめくらげです。

個人的に一人称が死ぬほど苦手です。

もう、言いまわしとか辛い……です。

よければ五話、お読みください。




七月三日・天気・曇りのち晴れ



とある日のこと。

僕は、少女と思わしき人類に、

『ジョニー・デップはインドネシア人ですか』

そう、問われたのだった。片方は素足で、田舎っぽい少女に。

ウィルソンの言っていた空とぶ人間が彼女という立証はないけれど、なんとなくそんな気がしたのだ。

「今日の夜にも、その空とぶ人を見たら写真をとってくれないかな」

「うんと、たぶん、とる」

口約束をして、僕たちはアドレス交換をした。

よくわからないけど、少しは打ち解けたみたい。メールアドレスを手に入れられたら、僕てきには友人のひとりとして紹介できる。

そんなこんなで、僕のアドレス帳には吉野ウィルソンという奇妙な名前が載った。



「ウシオ、めずらしいな。おまえが昼休みに教室からいなくなるなんてさ」

昼休みの終わる五分前。

僕は教室に戻ると、さっそく赤坂くんから声をかけられた。

そこそこ整った顔つきは地味ではあるけれど、いちど見たら忘れなさそうな顔だ。

そんな彼は僕がすわる席の、ひとつ前でコーヒー牛乳を飲んでいる。

「たまにはね。お腹は空いてるけど」

「メシ食わなかったのかよ。学生たるもの必要摂取量以上はエネルギーをとれ、うな重なら三は食えよな」

じつにまわりくどい、僕なら五文字ていどでまとめられるのに。

メシ食べろ。

これだけでいいものを、赤坂くんの悪癖だかなんだかのせいで、すごい言いまわしになってしまうのだ。そんな言いまわしは嫌いじゃないけどね。

「ゴタゴタしちゃって」

「ほら、これだけでも食えよ」

差し出してきたのは、栄養補助食品のクッキーだった。フルーツ味だとかで、箱からひとつ出して、僕にくれる。

素直に受けとって、食べようとは思うのだけど。

「人からもらったものは、やすやす食べないとちかったばかりなのに」

腹痛を思いだす。

「あのな……じゃあ等価交換しようぜ、なんかくれよ」

あげられるものは、とカバンをまさぐる。

カバンの中にあったものは、のどあめ、ボケ防止用の手でいじるクルミ、うちわ、知恵の輪、自転車のカギ。

等価交換できるほどのものがなくて、思考してしまう。

この中で、まだあげられるものは。

「えっと、これでどうかな。自転車のカギ。洗車も済んでるし速度もでるよ」

「おまえバカだろ」

だって、クイズ番組であるじゃないか。真っ赤なスポーツカーのキーとか手渡すの。

「自転車がいらないんじゃなくてよ、ぜんぜん等価じゃないんだよ。せめて、のどあめだろ普通は」

「これ、あんまりおいしくないんだ。おいしければこれでいいんだけど」

「いいって、それで」

僕の手からのどあめをひったくって、口に放りこんだ。そして、栄養補助食品をくれる。

「ありがとう」

「んー」

気の抜けた返事。

やはり、赤坂くんは主人公のような人だと僕は思う。

信頼されていて、熱血なところも冷血なところもあって。それでいてヤル気がない。こんな人が映画で活躍するのを、何度も見たことがあった。

「赤坂くんは、非科学とか信じるのかな」

問うてから栄養補助食品の袋をあけると、果物のような甘い香りがした。

赤坂くんはキョトンとしている。

「ウシオの口から非科学なんて言葉が出るとは。なんかショックにも似た衝撃が走ったぞ」

「そんなに現実主義じゃないよ」

小さいころは、人並みにサンタクロースも幽霊も宇宙人も信じていた。どこかの海には美しい人魚姫がいて、声をうばわれて泣きはらしているとも思っていたのだ。

でも。

ひとつ、またひとつ、歳をとるにつれて、現実がどれほど残酷かを知った。

だれもたすけてくれはしない、地獄があるとも。

辛い日々を目のあたりにして、僕の目はひどく汚れたのだろう。だから、幽霊達も姿を消した。

薄汚れたこの瞳では、人間くらい主張してくれないと確認できないのかもしれない。

例のジョニー・デップ少女ほど主張されてしまうと、光が強すぎて物が見えなくなるのと同様に存在が分からなくなるけれど。

「非科学。信じざるを得ないかもな」

ぼぅと思考していたら、赤坂くんはそう言った。

とても意味深な言葉である。

「昨日見たんだよな、空とぶ人をさ」

もう本当に嫌だ、心底嫌だ、声を大にして言いたい、嫌だ。

内分泌の爆発ギリギリまで、僕の脳がこんな現実は嫌だと連発した。

しかし考えてもみれば、主人公気質な彼が不思議な出来事にかんよしてないわけがない。これは必然にちがいないのだ。

僕は冷静なふりをして問う。

「片方が、素足とかじゃないよね」

「おまえも見たのかよ」

「赤坂くんなんて嫌いだ」

連携のようにやりとりをしてから、僕はうつむく。

関わりたくない人物が周りの人からジワジワと固めてくるようにして、接触を試みているような。そんな気がして吐き気すらしてしまう。どれだけ逃れようとしても、地球は丸くて狭い。つかまるのが当然ということ。

認めたくはないけれど。

「ワクワクしないのかよ、人がとんでたんだぜー?」

「しない。そもそも人目につきすぎだよ、その非科学は」

いろんな人からの立証や衝撃があれば、そんなの科学になってしまうじゃないか。

「まあな。でもさ、人の可能性に空中移動があるなんてすごいって」

ポジティブすぎる。

空中移動は人間にとっての異常事態、ようするにバグだ。

ゲームのバグでアイテムが増えても、バグはバグなわけでデータがとぶ可能性だってある。

それと同じで空中移動なんてバグ、人間にどんな後遺症がおきるかわからない。そんなリスクを引きうけてまで、空をとびたいのかな。

でも、僕はウィルソンと仲良くなりたい、村上さんの気を引くためにも。

ということは、話を合わせたほうがいいということ。

かと言っても僕は話を合わせられない。

なにか、共通のものがあれば。



「赤坂くん、今日は一緒に帰れないかな」



こんなところに、ウィルソンと共通のポジティブを持ち合わせたなんにでも首をつっこみたがる主人公がいるじゃないか。






中学校三年生まで

サンタクロースを信じていた

うめくらげです。

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