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そんな日常、とりたてて好きでもない。けれど非現実は嫌だ。

うめくらげです。

三話のようなものです……

あの、今回中だるみしたかもです。すみません、次の話ではギャグを!

センスないのですが、やってみせます! 見捨てないでゲフンゲフン。

よければ、三話をお読みください。



七月三日・天気・曇りのち晴れ




昨晩のカツオによって下痢を起こしているとは、口が避けてもミオトさんに言えない。


僕は昼休みを男子トイレの個室にて過ごしていた。

強烈な腹痛に呻吟

しんぎん

しながら。

嘔吐に悪心、下痢や脂汗と、完全に中毒症状がみられるところから察知するに、夏場の生魚にあたったということだろう。人から出されたものを簡単に食べるから、バチが当たったのだ。

少し反省して、腕をくみつつため息を吐きだす。

僕の人生とはつねにこんなもので、遠足前の日に発熱、プール授業直前のケガ、等々。体の異変がつきまとってばかりなのだ。慣れているとはいえ、穏やかではない。

学校の個室トイレなんて不潔そのものだからね。

「はぁ」

おさまらない腹痛に、肩を落としていると、誰かがトイレに入ってきたらしく、パタパタと足音がした。

歩幅の小さい足音。

なんだか嫌な予感がした。

「おら牛男、いんでしょー」

個室の扉を蹴り飛ばす、けたたましい音がした。


あれ、なんで男子トイレから女性である村上さんの甲高い声がするのだろう。


そんなの簡単、男子トイレであろうと女子トイレであろうと、彼女にとっては、ただの 部屋 なだけだから。

横暴とは言わない、いじめっ子なんてそんなものだと思っているから。

「村上さん……」

「そこにいたのね、牛男。ちょっと出てきなさいよ」

待て、といわれて待つバカはいないのと同様、僕も断じて出たりはしない。

「無視するんじゃないの、トビラこじ開けてやるわよ」

小学生じゃあるまいし。

「トイレでいじめ、ダメ、絶対」

「あんた、今日は明るいわね」

ノリをよくしてみたけれど、僕のキャラとはかけ離れすぎていたらしい。

ならば、普段通りに言うと。

「うっとうしい。キャンキャン騒がないでくれないかな」

心臓が止まるかと思うほどの、扉を蹴り上げる音。村上さんは、そうとう怒ったみたいで、まくし立てるように罵声をあびせてきている。

ふと、罵声がやんだ。

「もう……はやく、出てきてよ」

とつぜん、彼女の声がしおらしくなった。

寂しげにつぶやいて、蹴るのをやめてしまう。

僕は村上さんに片思いしている身なので、こういう状況になると出ていかざるを得ない。おねだりされれば、それをあげてしまうのが惚れた弱みというものだ。

村上さんのかわいらしい声に惚けて、ゆっくりとトイレの扉を開けた。

もちろん、トイレのものは流してある。

扉の外にいる村上さんは、うつむいてしょげていた。

かわいらしく口をすぼめて、ふてくされているのか、なんだか小言を言っている。

男子トイレで。

今日の村上さんは長い黒髪をみみにかけていて、清楚なバレッタで少し髪をまとめた姿だった。セーラー服のスカートも膝より少し上なだけで、ももがちらりとのぞく。

本当にかわいいな、と、素直に思ってしまう。

「用はなに、村上さん」

僕の問いに村上さんは、しばらく黙した。

ばつが悪い、そんなふんいきで唇を触っている。村上さんにしてはめずらしい行動だった。

言いたいことはハッキリと言いすぎるのが欠点なのに、いまの彼女ときたら、借りてきた猫のようによそよしい。

普段は飼い猫ないし、昼下がりの主婦も驚愕するくつろぎっぷりだというのに。

まるで、別人のように静かだった。

「あのさ、たすけてくれないかしら」

頬をポリボリかいて、そう言うとすぐに目をそらす。

なにがなんだか、僕には分からない。

空からヤリはふらないとおもうけど、なんかしらふってくる気がした。

「僕に言うような、困りごとがあるの」

「……まぁ、ね」

いつもこんなに静かなら、もう目も合わせられないくらい好きになってしまうのだろう。

という、気持ちとは裏腹に、不気味でしかたない僕がいる。

僕は単刀直入に、なにがあったの、そう問うた。

すると彼女は答えもせずに、男子トイレの窓を開けて空気を入れ換える。

「いま、空気の入れ換えは必要なのかな」

「空気を入れ換えたんじゃない。牛男、見てなさい」

窓の外を指さす。

ここは三階で、外には白線がひかれたグランドが見える。学生のマラソンもどきと笑い声は、いつもと同じだった。

「もっと、身を乗り出しなさい」

「そのま突き落とすのかな」

「あんたは、あたしがジェイソンにでも見えてるの」

うん、と答えたら不愉快だろうし、黙って身を乗り出す。

踏台としてバケツをひっくり返して、その上に乗ると窓から上半身を出している状態になった。

「手を伸ばして」

言われるがままに、手を空にむかって差し出す。

七月の生暖かい風に、花の香り。これといってかわり映えのない情景。

そんなことを考えていたら、頭上に黒い影がひとつ。

僕の体に、ふと、影がかかった。

とっさに判断する。

これは、屋上から水をかけられるパターンなのかと。

急いで身を引こうと、腕を曲げたら。


空にむかって急上昇した時、戦闘機の操縦席や、ジェットコースターをほうふつとさせる、すさまじい重力が僕の腕にかかった。

ぐんっ、と。

僕の両腕は、弓なりにしなる。

だって、想定するに五○キログラムはありそうな人間が、空から降って僕の両腕に乗っかったんだもん。

それは弓なりどころから関節が抜けてしまう。

急降下に推定体重を、という暗算ができたらまだ冷静でいられただろうけど、僕はあいにく物理学には興味がなかった。

「え」

その人物にとっては僕の両腕だけがたより。

腕がなければ落下は止められない。あっても不可能そうだけど。

でも、このまま重力に負けて落下すれば、巻き添えをくらうのは僕本人だった。

べつに死んだってかまわないけれど、見知らぬ人間の巻き添えで命を落とすくらいなら、村上さんと無理心中でもしたい。

足を開いて、窓のふちにかける。

落ちそうな体はそんな細足にかかっているのだ。

僕は生涯でもっとも多大なエネルギーを足に送り込んで、ぐっとこらえる。

弓なりの腕で落下途中の人物を抱え込み、後ろに倒れこむ要領で勢いよく男子トイレへ引っ張た。

そして人物ごと、僕はトイレの床に転げて打ちつけた背中の痛みにもがく。

折れてしまった可能性がある僕の両腕は、なんとかくっついている。

「やった! なんとかなるものね」

僕に無茶な命令をくだした女子はケラケラ笑っていた。

「笑いごとじゃない。腕が折れるかとおもった、いや、折れたと思う。それになんで人が落ちてきたの。新しいイジメとかかな」

「あんた、平気?」

僕の言葉なんて無視をして、村上さんが人物に問う。

落下をたすけてもらったというのに、その落ちてきていた人物--男女どちらか分からない、ジャージ姿の人はしゃべらなかった。

「……どうして、落ちるの止めたの」

こんどは、人物が村上さんに問う。

これが、逆鱗に触れた。

突発的な疾患ともとれる、村上さんの怒り狂った、なにごとかと思うような回し蹴り。

破壊力は教室の扉で実験済み、を、人物めがてうちこんだのだ。

右脇腹をおさえては、うなって、二、三回はころがってから痛みに苦しんでいる。

「質問者様はあたし。答えんのがあんたでしょ。脳みそだけ下に転がってるか見てきたらいいんじゃないかしら」

怒鳴りつけて、苦しむ人物を踏みつけにしてしまった。

さすがに気の毒になって間にはいる。

すると、ジャージ姿の人物は僕の背中にすがってきた。体が震えていて、細い腕が赤くなっている。

男と思えば女顔で、女と思えば男顔。そんなかんじの人。

「かばいたてするの」

「状況がつかめなさすぎて、いちど話を聞きたいかな。どうして村上さんが落下を」

言葉の途中だというのに、村上さんは激しく怒鳴りつける。

それはもう騒々しくて思わず耳をふさいでしまった。

「牛男、よく聞きなさい。これから、そのクソ根暗なバカと友達になりなさい」

「いやだ」

村上さんはカッとなって、僕を蹴り飛ばした。そして、村上さんはトイレから去ろうとする。

途中で振り返り。

「今日は三人で帰りましょう。それまでに、あんた達は友達になってなさいよ」

そう言って、トイレを後にした。

僕はというと、村上さんと下校できる幸福感から有頂天になって、そのジャージ姿の人物に笑いかける。

「名前はなんていうの」

僕の笑顔が気味悪かったのか、うつむいてしまう。

「ごめん、笑うべきじゃなかったかな」

「ちがう」

慌てたように、そう言った。これまた男女の区別がつかない声で、だんだんと不思議に思ってくる。

「さきに、たすけてくれてありがとう。あの、名前は、その、好きに呼んでほしい」

ネーミングセンスがない僕にはそんなことを言われても、純子、だの、たける、だのと地味な名前しか浮かんでこなかった。

けれど、そんな純和風な名前をつけてから中国系日本人だとか言われてしまう可能性があるのだ。

それはたいそう失礼なことだし、一応、最大の配慮をして。



「ベッキー」




ジャージ姿の人物は、身動きひとつしなかった。






HEY ベッキー。


登場人物のトイレで一幕、を一度でいいから書いてみたかったんです。

汚らしくてごめんなさい、すみません。

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