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好きで嫌いな僕の村上さん。

うめくらげです。

最終話となります。

以前話したとおり、まだまだ続きますが

村上さんのお話は

これにておしまいです。

それでは最終話、よければどうぞ。



七月五日・天気・快晴




時刻は午後九時。

普段なら宿題をしていたり、テレビを見ていたりと、とにかく部屋にいるころ。

そんな時間に僕は、ライターと少量のガソリンを持って、古びた歩道橋の上にいた。

新たな歩道橋ができて、ここは三ヶ月後に撤去される。

そのせいで、人の姿はほとんど見なくなった。

僕ひとりだけが、歩道橋の真ん中で立ち続けている。

よれたTシャツ。

柄はなくて、色落ちした黄色をしている。


そんなTシャツに、ガソリンを染み込ませた。


とたんに悪臭がして、顔をしかめてしまう。

それでも僕は、ただ無機質にガソリンをまく。

そして、Tシャツにガソリンが染みて。


「ふぅ」


暑い。


ガソリンに濡れた頬を、汗がつたう。百円ライターに火をともせば、よけいに体温が上がった。

ゆらゆらと揺らめく炎が風邪に吹かれて、くの字に曲がる。

その火を腹部につければ、とたんに僕のTシャツが炎にくるまれて、焦げつく。

真紅の炎は、どこか幻想的で、自分の体が燃えていることなど気にもならなかった。

うそ。

本当は、あまりの熱さに声がでないだけ。

皮膚が焼けただれる音。

冷や汗がわく痛み。

なにもかもが恐怖に繋がれて、視界が狭まった。

とうとう、炎が顔に迫って。



「なにが起きても能面つらぬくなんて頭おかしいんだ!」



そんな叫び声とともに、なんリットルかも分からない、水の塊が頭上から降り注ぐ。

ばしゃりと水音をたてて、僕の全身の火は鎮火した。

髪から水がしたたり、焼け焦げたTシャツはなんとか原型をとどめている程度。

腕は火傷をおって、真っ赤に腫れ上がっていた。

「ぜったい来ると思ったよ」

僕の言葉に、あの、ジョニーデップ下着泥棒少女もとい。

村上さんから全てをうばった少女、は、困惑していた。


以前よりも整ったいでたち。

黒いワンピースにヒールのサンダル、帽子と日傘。

どこで盗んだのかは知らないが髪の毛まで伸びていて、以前は肩までだった長さが、膝あたりでうねる長髪になっていた。

きっと、また対価だとかあることないこと言って盗んだのだろう。

村上さんから盗んだ時と、おなじように。

「なぜ来ると思ったんですか、もしかしてウシオくんは人工衛星、そして私はカーナビゲーション」

浮世ばなれした言葉たちがさまよう。

少女は僕の焼けただれた腕に触れて、眉宇をひそめた。

たしかに、この火傷は少女をおびきよせるための、罠のようなもの。

しかし、僕の死にたいして現れるのなら、もっと怪我が少なくすむ道、方法もあった。

それを選ばなかったのは、僕が自分自身にたいする罰をあたえるため。

村上さんの異変に気がつけなかった、愚かな僕を殺すため。

そんな子供じみた、ばからしい理由だった。

そして、どうして死のうとしたのかというと。

「キミは、前に僕と会っている」

そう、気づいたから。

少女は口ごもる。

それは、肯定するのとおなじこと。

「前と言いますと、あの親切の日のことですかね」

「ずいぶん話をそらしたがるね。そんなに、僕はキミの人生に関わったのかな」

確信なんてなかった。

あるのは明確な怒りと、思い出された記憶だけ。


僕は幼いころに、近所に住んでいた ヒト と仲良くしていた。


ヒト が女性か男性かも覚えていない。ただ覚えているのは、会話の内容。

どういった経路でその話になったのかも覚えていない。

けれど、今と過去、その真ん中にぽつんとたたずむ小さな思い出。

「僕には、もともと両親がいなかった」

少女は目を白黒させて、焼けただれた僕の腕に触れていた。

しばらくの無言。

口火を切ったのは、むこう。

「ほんとうに、人生というものは不可思にも私の怒りに触れます。つくづく運のないことこの上ない。私が何をしたのか、神は小首をかしげる。大人は知らないという。天使は無視をする。天気は笑う。けれど、ウシオくんは知っていると言う」

僕の情けない髪に触れて。

「これが、どういう意味か分かりますか」

そう、問うてきた。

意味なんて分かるはずもないのに、あてずっぽうにしては自信ありげに立ち続ける。

「キミは僕にいけないことをした」

僕の髪から滴る水を手で拭う、そんか甲斐甲斐しいことをしながら、少女は言う。

「私は禁忌も笑い話になるような、重大なミスをおかした。よって全てを失い、ウシオくんから全てを奪いとった。対価もチグハグな、こちら有利の契約」

月明かりに、少女の色が変わり続ける瞳が照らされる。まるで汚れたパレットのようで、見ていると引きこまれそうだ。

チグハグな契約。

僕がなにをとられたのかなんて、覚えていない。

「もらったものは五つ。一つは、私との契約内容の記憶。契約内容が不当だと知りながら、記憶を消すことで難を逃れました。そして記憶の対価に、あなたに家族をあげた」

少女の言葉はパズルのピースだった。

記憶の空白が埋まる。

ぱちん、ぱちんと、前進していく心のパズルに、恐怖すら感じた。



家族のいない可哀想な子。

施設でもひとりぼっち。

両親はいなくて、なんでも未成年同士の子供で捨てられたとか。

ゴミ袋に入ってたらしい。まるで生ゴミとでも勘違いしたんだか。



願いが叶って、僕の記憶も環境も書き換えられた。



両親が総菜屋を営む、なんとなく生きている子供に。



そして、僕は願いを忘れて、願いはもっとも残酷な形で壊れた。

「僕の両親が死んだのは、僕が願いを忘れたから……」


両親を殺したのは、僕。

そんな現実に目眩がした。

もともとの僕をとりまいていた環境は、あまりに残酷で。

両親がいない僕は、施設で暮らしていたのだ。今よりも、きっと苦しい世界だったにちがいない。

この小さな女の子に、僕は人生を拾われて、村上さんと出会えて。

なにもかも、手のひらの上で遊ばれていた。

「ウシオくんからもらった対価は、こんなふうに記憶を戻してあげても、まだまだ残る。本当は殺してしまいたいほどに存在がおぞましい」

「僕はキミになにをあげたの。僕はキミにとってなに」

「恐怖の塊。それでいて、近づかずにはいられない。不思議な引力で近づいてはどちらも傷つく、そんなもの。そして奪いとったものは、言えません。言ってしまえばウシオくんの世界が歪む」

僕の、世界が。

「ここはウシオくんの願いから生まれた環境です。ご家族が亡くなられても、砂糖とコーヒーのように溶け合ったものは元に戻せない。そんな偶然の産物がここ。ウシオくんの記憶ひとつ歪むだけで、容量に異変が生まれて壊れてしまうんですよ」

そうなれば、きっと僕以外の他人にも影響があるのだ。

だから、僕には秘密を語らない。

「キミは神様なの。それとも魔法使いなのかな」

少女は力いっぱい、かぶりを横にふる。

「神も魔法も信じていません。よって、私はどちらでもない。これ以上は言えない」

世界が壊れてしまうから。

とでも、言う気なのだろう。

僕は自身の謎が知りたかった。けれど、口を割る気はないらしい。

ならば話は一歩前へ進む。

これが本題、といっても過言ではない。

息を吸いこむ。

火傷をおった皮膚が夜風にさらされて、痛覚を刺激していたけれど、そんなこと、どうでもいいんだ。



「僕の願いを叶えて」



たったひとつ、これさえ言えれば。


















七月七日・天気・雨




「どうして七夕は雨なの! この中に雨男か雨女でもいるんじゃないの!?」

そんな怒声が教室内に轟いた。

発生源は、別のクラスの村上さん。なぜ彼女がここにいるのかというと、七夕祭りのようなものを学校でやることになったのだが、あいにくの雨によりクラスごとに人をまとめて、短冊を書くことになったのだ。

くじ引きで決まったメンバーゆえに、あまり楽しそうな生徒はいない。

なにもこんなことしなくても、各クラスでやればいいものを。

レクリエーションだとかなんとかで。

ふざけたことをしていた。

「ウシオトコ!」

ほら近づいてきた。

サカリのついたメス猫、だなんてひどいことは言わないけれど、あまりに甲高くて騒がしい声に嫌気がする。

耳を塞げば、怒り狂って蹴り飛ばしてくるし。

なんというか、ガキという存在そのものである。

村上さんは僕の机にどっかり座って、短冊片手にうぅんと唸っていた。

よそでやってほしい。

「晴れてなくてイライラするけど、せっかくだし願いごと書かなきゃ。なににしようかしら」

「悩むほどあるの?」

僕の些細な質問に、盛大に喜んで答える。

「もっちろん、数えきれないほどにね。まず、帰ってきてほしい人の名前書いて、ダイエット書いて、ケーキたくさん食べるようにお願いするのよ」

ダイエットの願いとケーキの願いを同時にされたら、ベガだかアルタイルだかも真っ青だろうに。

そうは思えどドヤされるのが嫌で黙ることにして。

「ずーっと昔から願ってるのに、叶わないことがあるの。それを今年こそ叶えるわよ」

村上さんは笑う。

たくさんの願いごとを抱いて。

「牛男は、なに書くのよ」

「僕には願いごとなんてないよ」

「なにそれ、つまんない人間」

「いいんだよ。そのかわりに、村上さんがたくさんお願いしてくれれば」

村上さんはキョトンとして、いぶかしがる。

「変なの。その腕の火傷ができてから、あんたさらに無感情になったわよね」

「そうかな」

僕が席から立つと、村上さんも笹に短冊をつるしていた。


短冊にはこぼれんばかりの願いごと。


まっさらな僕の短冊は、そっと鞄にしまいこんだ。


「おーい、集合写真とるぞー!」

赤坂くんが呼びかければ、黒板の前に生徒たちが並ぶ。

僕も一応と、肩を並べた。

「ちょっと、牛男がとなりなの」

「いやならずれてよ」

「あんたがずれなさいよ!」

「そこ、ケンカするな」


黙る。



そのまま、シャッターがきられるまでの数秒間。




僕の肩と彼女の肩が触れていた。








僕は、その温もりと甘酸っぱいはずの出来事に、なにも感じずレンズを見つめつづけていた。






















これにて、村上さん編?

終わります。

読んでいただいて、ほんとうに

ありがとうございました。

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